神様との約束
ゆう君が私に初めて会ったのは、一番最初の人生らしい。
今回と同じように起業するために退職し、その会社関係の人からの紹介で知り合い結婚。その後やはり子供ができず、不妊治療を経て妊娠出産に至るが、私は臨月間近に胎盤剥離で死亡。それがあまりに辛すぎて、2回目からの人生では私とは別で生きる道を選び、それからずっとループしていたようだ。
「子供は?助かったの?」
「ああ。だけど俺が錯乱しちゃってしばらく精神科に入院していたから、結局一度も抱けずに乳児院に預けられたんだ。一度だけ様子を見に行ったんだけど、やっぱり辛くて養子に出す手続きをしていたところで、最初に戻った」
「そうなんだ……」
妊娠後期に、ゆう君の様子が変だったのはこれだったんだ。
だけどなんで、
「今回は、私に会おうと思ったの?」
「それなんだけどね」
ゆう君はちょっと間をあけて、困ったように言った。
「神様と、約束したから」
「え?」
「俺がなっちゃんと出会うことなく、何度も何度も何度も同じ人生を繰り返しているから誤差が生じたらしくて、なっちゃんが本来出会うべきはない人と出会ってるって聞いたんだ」
「神様と話したの?」
「今回の人生に入る前に、少しだけ」
同姓同名の人に会うなんてと思っていたけれど、本来会うべき『橋本祐介』に会えなかったから、私は心のどこかで探し求めていた『橋本祐介』を探しに行って、そして間違えた人に出会ってしまっていたのか。
そんなの、何度やり直しても上手くいくはずがない。3回で気付いて本当に良かった。
「それで?神様はなんて言ってたの?」
「俺となっちゃんの間に産まれた子は、将来的に歴史上重要な人物になるらしい。だから多少の誤差なら仕方ないと目を瞑れても、俺となっちゃんが出会わないという誤差には目を瞑れなかったみたいで、ちゃんと子供をつくれって」
「でも最初の人生で産まれてるじゃない」
「乳児院に預けれられると、そこで出会う別の子の影響で人生が変わってしまうらしい。だから、例えなっちゃんが死んでしまっても、なっちゃんに子供を産ませてちゃんと育てるようにって言われた」
「なんて答えたの?」
「嫌だって言った」
「断ったの!?」
「うん。なっちゃんが死ぬなら会わないって。そしたら、生存を約束するからって」
「だから最初の人生と同じように、退職して私に会ったの?」
「うん。 ……本当はもっと後で会う予定だったんだけど、親友の婚約者を紹介するからって言われて行ったらなっちゃんがいて。もう本当に驚いて、声が出なかった。あと、すごく久しぶりに顔を見て嬉しくて泣きそうだった」
「そうだったんだ」
ゆう君の頬に涙が伝った。
私は昨日の帝王切開の傷が痛くて動けなかったけど、でも必死で手を伸ばして、髪の毛に触れて、ゆう君を慰めようとした。
一体何度、同じ人生を繰り返したのだろう。
数えきれないほど何度も何度も。
私を失うのが怖くて永遠を選ぶなんて、どれほど孤独だっただろう。
「ゆう君。私を諦めないでいてくれて、ありがとう」
「うん」
「私を助けてくれて、ありがとう」
「うん」
「一緒に年をとっていこうね」
「……うん」
最後は泣きすぎて、声にならない声が漏れた。
辛い思いをさせてごめんね。
だけどありがとう。
これから私はずっと、ゆう君と一緒に生きていくから。
大丈夫。泣かないで。




