繰り返す人生に嫌気がさす
「二宮さん、今日どうしたの?なんか変だよ?」
「すみません。言い訳になると思い黙っていたのですが、実は昨日転んで頭をぶつけてからなんだか記憶が曖昧で…」
「え!大丈夫なの!? 今日はもういいからすぐに病院行って」
「いえ、昨日すでに行って異常はなかったので。ご心配、ご迷惑をおかけしまして申し訳ありません」
「いいの、いいの! …でもそういうことはすぐに言ってね。無理しないで」
「はい」
昼前に上司に呼び出され、私は咄嗟に思い付いた言い訳をして、深々とお辞儀をした後に席に戻った。
面倒なことになった。
私は今朝、29歳だった今に戻ってきた。
前々回は繰り返しまでにそれほど時間が経過していなかったからやり直しも簡単だったけど、今回は違う。35歳手前までいってしまった。出社してみたものの、昨日までの仕事のことなんて何も覚えてないし、会社の人の顔や名前が思い出せない人もいる。
なんとかやり過ごそうとしたが、上司の目に留まり呼び出されてしまった。
…頭を打ったなんて、なんとも古典的な言い訳をしてしまった。
でももういい。嘘がばれてもいい。
なにもかもが、どうでもいい。
前回は仕事を頑張って、課長までいった。
給料もあがり、マンションも買って、一人だけど幸せだった。
それがやり直しだなんて、辛すぎる…。
もう戻りたくない。不幸すぎは困るけど、ある程度不幸でもいい。
戻りたくない。他の人と同じように、先に進んだら戻れない人生がいい。
やり直しなんて、まっぴらごめんだ。
やる気が出ないまま昼休みに突入し、それでも席から動かなかった私の肩を誰かがたたいた。
「菜月ちゃん、どうしたの?大丈夫?」
振り返ると、若かりし頃の千佳ちゃんがいた。
「千佳ちゃん!!」
そうか。千佳ちゃんはまだこの時期は会社に在籍しているんだ。
なんだか久しぶりで、気が緩んで、私は千佳ちゃんに泣きついた。
タイムループしている。そんなことは言えなかったけど。
「なんかわからないけど、大変なんだね」
「詳しく言えなくて、ごめん」
「いいのいいの! だったらさ、気晴らしに飲みに行かない?」
「いいね!すごい久しぶりじゃん!!」
「もう、先週も行ったばっかりじゃん。全然久しぶりじゃないよ。というか、私の彼氏も一緒なんだけどいい?」
「え? 逆にそれはお邪魔では…」
「いやーこの間も話したと思うんだけど、今度さ、彼氏と彼氏の友達と飲むんだよね。だけど男同士の飲み会に私が行ってもいいのかなってずっと思ってて、昨日彼氏に相談したら友達も誘っていいって。私も2対2なら気が楽だし、お願い!」
あれ?
こんな展開今まではなかった。
私は千佳ちゃんから彼氏の話は聞いていたけど、実際に会ったことはない。
ましてやその友達なんて。
……今までの人生と何かが違う。
「その話って、いつ聞いたっけ?」
「先週くらいかなー。あれ?色々相談してたの覚えてない?」
「ごめん、昨日頭ぶつけちゃって」
「ああ!それでなんか、変だったんだ。そっかそっか。 まーそんなこんなで、今日は菜月ちゃんが落ち込んでなくても、実はその飲み会に誘うつもりだったんだよね。気晴らしとか言ってごめんね!」
初めて聞いた。
多分どの人生にもなかった話だ。
「わかった。行く」
「本当、良かった!!急なんだけど明後日なんだよね。大丈夫?」
「大丈夫」
前回と同じ人生を歩んでも、どうせまた繰り返しになる。
なら、少しでも違ったことをしてループから抜ける方法を考えなきゃ。