第6話 スパルタ教師 後編
その日の放課後、私は高校の教師用出口である人物が出てくるのを待っていた。時刻はすでに午後5時を回っている。この時間だとまだ運動場や体育館で部活動に励む生徒の声が聞こえてくる。
するとそれほど待つこともなく目的の人物がやってきた。
「定時でご帰宅ですか。林先生」
私はその人物に向かって声をかける。
「水瀬か。こんなところでなにやってる」
そう言い、私の元へと歩いてくる林先生。
「林先生に用事があってわざわざ待ってたんですよ」
「用事だと?私に何の用だ」
「復讐です」
私はそう言って不敵な笑みを浮かべた。
「何を意味のわからないことを言ってる!ふざけるのもいい加減にしろよ」
さらに私との距離を詰め両手で私の肩を掴む先生。
「昨日の指導だけじゃ足りんかったようやな!いいだろう。昨日の続きだ」
そう言い、私の胸倉をつかもうとする先生。だが、今日はこいつの思い通りにはさせるつもりはない。私は、指をパチンと鳴らした。すると、林先生の動きがピタリと止まる。そう、時間停止魔法だ。私はすぐにそこを離れ、再び指をパチンと鳴らす。
「っ!?何をした!水瀬!」
何が起こったが分からない林先生は困惑しているようだ。
「今日は私があなたを教育してあげますよ。林せーんせっ」
私は、未だ困惑して動くことができない林先生に向かって右手の手のひらを広げてみせた。
「な、何をする気だ、みな…うっ!!」
最後まで言葉を言い切ることなく何かに殴られたように林先生の体がぶっ飛ぶ。一発で殺してやっても良かったがこれはあくまで教育だ。いままでこいつがしてきたことを教えてやろう。
「お前、教師に向かって何をした!まだ殴り足りんようだな!」
そう言って再び殴りかかろうとして私の方に向かってくる先生に再び右手の手のひらを見せる。
「うわぁ!!」
また、何かに殴られたような衝撃が林先生を襲う。そして、再び吹っ飛ぶ先生。今の衝撃で、おそらく足の骨が折れたのだろう。立とうとするも、痛みにより立つことができない。
「先生、昨日あなたが言ったことを覚えていますか?」
私は語りかけるようにゆっくりとそう言った。
「き、貴様。こんなことしていいと思ってるのか…!お前の人生はこれで終わったと思えよ。俺の権力さえあればお前なんて…」
「黙れよぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
もうこいつの戯言に付き合う必要はない。
「『調子乗っとる奴には身をもって教育してやらなかんなぁ!』そう言いましたよね?だから、私が調子に乗っている先生に身をもって教育してやるんです」
私は怯える林先生の元にゆっくりと近づいていく。単純な力では負けても、今の先生には抵抗する力もないだろう。
私は先生の顔面に向かって渾身の蹴りを入れる。
「おへっ…!!」
苦しむ先生を気にすることなく蹴り続ける。
「ぐはっ…!!」
「お前は、これまでこれを生徒にやってきたんだよぉ!!」
「ごほっ…!!」
「あはははははは!!」
「ぐはっ…!!」
「楽しい!楽しいよ!」
「……」
「ははははは!」
「……」
「あははははははははは!」
その後も、私の蹴りは林先生の声が聞こえなくなってもまだ続いた。打撃音と私の笑い声だけがその場に響いていた。
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その夜、帰宅しようとしていた他の先生により林先生の遺体が発見された。ニュースによると、その遺体の顔はもはや原形をとどめてなかったという。警察による捜査は今もまだ続けられている。
翌日の学校では、話題は林先生の話題で持ちきりだった。これはいままでの行いの罰だと喜ぶ者もいたが、他の教師も含め大半はその残虐な事件に対し恐れを抱いていた。何しろ、つい先日女子生徒2名が遺体で発見されたばかりなのだ。無理もないことだろう。
私はというと、非常に達成感に満ちていた。弱者が強者に虐げられるこの不条理な世界。私が誓った復讐への道はまだ程遠いがその原因分子を一つ排除することができた。
そう私は自己陶酔に浸っていたのだ。