第5話 スパルタ教師 前編
私が再び高校に通う始めてから数日が経っていた。
その期間は私をいじめてくる奴が消えた今、私がクラスで地位を高めるには十分だった。もともと、容姿が優れていたのもあり自然と人が集まってくる。今までは、クラスでは私に近づかない方がいいと言う雰囲気が漂っていたが、もうそういう空気は微塵も感じない。
放課の間も女友達と会話をするようになった。そして、今日も女友達と会話していた時にある噂を耳にした。
「知ってるー?隣のクラスの先生だいぶやばいらしいよ」
「やばい?どういうこと?」
「一言で言うとスパルタ。生徒に暴力振るってるらしいよ」
なるほど。そういうことか。この厳しい時代にもなって暴力を振るう先生がいるとは。でも、それならどうして訴えたりしないのだろう。
「なんで、そのまま放って置いてるの?」
「なんか、生徒のその親も学校とか警察に訴えたりしてるらしいんだけど…。証拠がないってことで動いてくれないらしいんだ。実際は、先生の親がかなり権力のあるお偉いさんらしくて全部もみ消されちゃうらしい」
よく分からないが、色々あるようだ。まぁ、私には関係ない。隣のクラスの話だし、私はその先生と一切関わりがないのだから。
放課の終了を告げるチャイムが鳴り、この話は終わりとなった。
今日の授業もすべて終わり、帰る前にトイレに行く。教室の近くのトイレは私と同じことを考えたであろう生徒たちで混雑していた。ならば仕方がない。あまり人がいない離れたトイレに行こう。
用も足し、トイレを出たときのことだった。いきなり体に衝撃が走った。誰かにぶつかったらしい。
「あっ、すいません」
とっさに謝った。前を見ると、高身長の男が立っていた。
「ちゃんと前向いて歩けや」
その声の主は、隣のクラスの先生である林先生だった。今日の放課にスパルタとして名前が挙がっていた先生だ。
「はい、すみません」
今回は私が前をしっかり向いてかなったので私に非があるのでもう一度謝ってその場を去ろうとする。
「おい、待てや」
そう言い、林先生は横を通ろうとした私の腕を掴んできた。かなり力を込めているらしくて痛い。
「なんですか?」
「お前、スカート短すぎやろ。校則違反だ」
そう言って、林先生は私のスカートをつまみあげてきた。当然私の下着が丸見えなる。
「ほらみー短すぎてパンツ見えてまうやん」
意味がわからない。なんでこいつにスカートをめくられなければならないんだ。確かに私のセーラー服のスカートは学校の規定よりも短く切ってある。でも、それは私だけではなくほとんどの女子がそうしてる。それに、そのことを注意したいのだったら直接言えばいいわけでこんな辱めを受ける必要がどこにあるのか。たまたま、離れたトイレに来ていたおかげで周りに人がいなくて下着を見られなかったのは不幸中の幸いだろう。
「や、やめてください」
私は、林先生の手を勢いよく振り払い、後ずさった。すると、林先生が顔をしかめて怒鳴った。
「お前、何しとるんや!お前が、校則破っとるからいかんのじゃ。さっさと職員室こいや」
「い、嫌です」
一応反抗の姿勢を示しておく。このままこいつに従うのは癪に触る。
「なに教師に向かって口答えしとるんじゃぼけぇ!」
そう言い、林先生は私の胸倉を掴むと、手を大きく振りかざし、ビンタしてきた。痛い。これがこいつがスパルタと言われている所以か。
「お前、6組の水瀬だな?最近までずっと学校サボっとったらしいやないか。調子乗っとる奴には身をもって教育してやらなかんなぁ!」
さらに、先ほどよりも強い力でビンタしてきた。おそらく、人が誰も見てないことをいいことに好き放題やるつもりだ。
この時点で私の堪忍袋の緒は完全に切れていた。今までの私なら強者は弱者に屈するしかないこの不条理な世界に嫌気がさしながらも従うしかなかったのだろう。だが、抗う力のある今の私は違う。
学校側や警察側が動いてくれないのならば仕方がない。このクズ教師は私が力で教育するしかないのだろう。