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第4話 最初の復讐

 そろそろ、高校に行こう。そう思ったのは魔法の力を手にしてすぐのことだった。

 

 長い間クローゼットにしまったままだったセーラー服に袖を通す。そして、今時の高校生らしく丈を短くしてあるスカートを履く。

 

「お母さん、今日から高校行くよ」

「もう、大丈夫なのね」

「うん、行ってきます」

「行ってらっしゃい」

 

 久しぶりにお母さんとまともな話をした気がする。お母さんは今まで通り笑顔で私を見送ってくれた。

 

 高校までの道のり。最近はいつも瑞樹くんと一緒に歩いていたから一人で歩くのは新鮮な感じがする。瑞樹くんと出会うまではこれが当たり前だったのに。

 

 教室に入ると、クラスメイトから好奇の視線に晒された。まぁ、ずっと来てなかったからそうなるのも当然のことか。気にせず、自分の席に向かう。意外なことに誰も話しかけてくる人はいなかった。私が瑞樹くんと付き合っていたことはみんな知ってるはずなのでおそらく気を遣ってくれているのだろう。

 

「ねぇ、結愛。久しぶりじゃーん」

「今まで何やってたのー?」 

 

 はぁ。やっぱりこいつらは絡んでくるよな。私に話しかけてきたのは智枝美と千鶴だった。意外なことに恵美の姿はない。

 

「黙れよ、クズが」


 今の私は瑞樹くんに頼りっぱなしだった私とは違う。私には抗う力がある。だから強気の姿勢を示した。

 

「は?」

 

 私のいつもと違う雰囲気に智枝美は一瞬怯んだ。

 

「ああん?なんだよその態度はよぉ!」 

「ちょっと顔がいいからって調子乗ってんじゃねぇぞボケがぁぁ!」

 

 そう言って激昂した智枝美はクラスメイトが見ている中で私の胸ぐらを掴んできた。教室内に沈黙が降りる。だが、智枝美はそんな周囲を憚ることなく胸倉を掴む手をさらに強めた。

 

「なに。私が可愛いからって嫉妬してるの?ごめんねー。私ブサイクの気持ちがわからないんだ」

「ああ?もういっぺん言ってみろよクソが!」

 

 そう言い私の顔をビンタした。

 

 ーキーンコーンカーンコーンー

 

 そのタイミングで始業を知らせるチャイムが校内中に鳴り響く。

 

「ちぇ、お前、あとで体育倉庫な」

 

 私にだけ聞こえる声でそう言い残し智枝美と千鶴は自分の机に戻っていった。クラスでは何もなかったかのように授業が始まった。

 

 しかし、まあ誰も何も言わないんだなぁ。いわゆる“見て見ぬ振り”という奴だ。誰もが心の中ではいけないことだとわかっていながら、いじめを止めようとすれば、今度は自分が標的になると思い見て見ぬ振りをする。それが自分を守るための唯一の方法だからだ。だから、彼らを責めることはできない。

 

 放課後、指定された体育倉庫へと向かう。いままでの私だったら体育倉庫は恐怖の対象でしかなかった。だけど今は違う。今から、私がここで起こすことを思うとワクワクする。 


「よう。今朝は良くもやってくれたな。もう、お前を助けてくれる瑞樹くんはいない。好きなだけ遊べるなぁおい!」

「お前が学校休んでた間に溜まったストレス発散させてもらうぜ!」 

 

 体育倉庫に入った瞬間声をかけられた。智枝美と千鶴だ。まったくこいつらも私をいじめるのがそんなに楽しいのだろうか。ところでここにも恵美はいなかった。どうしたのだろうか。まあ、人数が少ないに越したことはないか。

 

 千鶴が体育倉庫の鍵を内側からかけた。そして、私に対峙する。

 

「さぁ、うちらを楽しませてれよ」

 

 そう言って智枝美はポケットからカッターナイフを取り出した。カチカチと刃を出しながら私の方に近づいてくる。

 

 この人たちはどこまで愚かなんだ。それ、もう犯罪だから。

 

「うっ!」


 カッターの刃先が私の太ももをかすめた。血がじわじわと足に垂れてくる。スカート短くしすぎたせいだな。失敗した。

 

「ああ、ごめんねー。あんたの綺麗な脚に傷がついちゃったわー」 

「まだまだこんなもんじゃねーぞ!」

 

 そう言い、私に近づいてきたのは千鶴だ。手にはハサミを持っている。

 

「あんたのショートカットをさらにショートにしてあげる〜」 

 

 そのハサミで無抵抗の私の髪の毛を切り落とした。切り落とされた髪の毛が地面にバサっと落ちる。どんなけ切ってんだよ。こらじゃあ男子の髪型と変わらないじゃん。

 

「今日は、これくらいにしといてあげるわ」

「また明日遊びましょ」

 

 そう言い残し、体育倉庫から出て行こうとする。

 

「あれ、鍵が開かない」

「おい、どうした。早く開けろよ」

 

 なにやら、ドア付近で揉めているようだ。鍵が開かないらしい。それはそうだ。その鍵は私の“魔法”で凍らせたからな。君たちには開けられるはずがない。

 

「このまま帰れると思ったか」

 

 いままで無抵抗だった私の声が体育倉庫中に響き渡る。

 

「な、どういうことだよ」 

「お前が鍵になんかしたのか!」

 

 一瞬私の声に怖気付いた素振りも見せるが再び強気になって私に詰め寄る。そして、私の胸倉を掴もうとする。

 

「死ね」

「えっ」

 

 その時だった。智枝美の驚きの声とともに智枝美の頭が吹き飛んだ。私の目の前には、智枝美の“頭以外“のものが立っていた。本来頭があった場所からは血が吹き出している。

 

「え……」

 

 千鶴の足元に智枝美の頭が転がる。一瞬のうちにあたりが赤く染まっていく。

 

「キャァァァァァァァァ」

 

 千鶴の叫び声が体育倉庫に響き渡った。千鶴はドアに駆け寄ると

 

「誰か!開けて!ドアを開けて!」

 

 体育倉庫のドアを叩き、助けを呼び始めた。だが、誰も助けに来ることはない。私が人払いの魔法を使ったからだ。

 

 智枝美の頭を吹き飛ばすのは少々やりすぎたかなとも思った。だが、散々私をいじめてきたやつに対する罰としては相応のものだろう。なにより、今、私はとても気分がいい。いままでに感じたことがないほどの快感だ。ああ、楽しい。

 

「誰か!助けて!誰か!」


 そんな私の興奮も知らずに、ひたすら助けを呼び続ける千鶴。そんな千鶴に、私はいままで他人に見せたことがないような笑顔を顔に浮かべたまま、近づいていった。

 

「ギャァァァァァァァ」 

 

 ーーーー


 後日、この事件は高校で起きた謎の怪死事件として報道された。“二人“の女子生徒の死体が首を切られた状態で発見されたのだ。その事件は、あっという間に全国に広まり、話題をかっさらっていった。

 

 私はと言うと、今、普通の学生生活をしている。なにしろ、私をいじめてた奴がこの世から消えてくれたのだ。今まで、できなかった普通の生活をしてみたい。私にだってそんなことを望む権利くらいあるでしょ?

 

こうして私の最初の復讐の幕が閉じたのだった。




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