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風の歌は雲の彼方に  作者: yaasan


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突撃

 最前線はボルドが思っていた以上に悲壮感で満ちていた。戦端が開かれる前に、ダリスタ基地奪還戦の肝だった特別遊撃小隊を失った司令部は力技を試み、重装歩兵を突出させたのだった。結果、すでにその大半を失っていた。


 馬鹿がと言いたくなる顛末だったが、下士官でしかないボルドには、それを言う資格も権限もあるはずがなかった。


 司令部からの命令は、第四特別遊撃小隊の志願兵を突出させて、攻略への突破口を開けという何とも都合のいい命令だった。


「少尉……」



 司令部からの命令を聞いた副官のタダイがボルドの横で絶句したあと、再び口を開こうとする。


「言うな、リドル准尉」


 ボルドは何かを言おうとするタダイを制した。


「後方から長距離砲及び遠距離魔法の援護がある。それと同時に俺たちは突撃を敢行する。幸いなことに、イスダリア教国の連中には手持ちの重装歩兵がいないはずだ。であれば、何とか奴らの喉笛に喰らいつける」


「援護の砲撃で、奴らの長距離砲部隊や遠距離魔法部隊に打撃を与えられれば……ですよね? ですが、打撃を与えられなかったら?」


 タダイのもっともな反論だった。ボルドには答えられる言葉がない。


「先に壊滅した重装歩兵と同じ結果になりますよ。俺たちは単に突出していて、奴らの長距離、遠距離部隊から狙い撃ちにされるだけでしかない」


「その時は俺たちが突破口を開く。そこから突撃して、敵長距離部隊と遠距離魔法部隊に俺たちが打撃を与える」


「は? 無茶苦茶だ。それができたら英雄と呼ばれて、勲章ものですよ」


 タダイの反応も当然だった。こんなものは作戦でも何でもないとボルドも思っている。要は死んでこいということだ。


「そんな作戦にもならない作戦しか立案できないから、人族のあんな子供たちを戦場に引っ張り出すことになるんですよ!」


 タダイが吐き捨てるように言う。そして、さらに強い調子で言葉を続ける。


「下手すれば、辿り着く前に全滅だ! 彼らに何て言うんですか? 成功するか分からないが、とにかく死にに行くぞとでも?」


「言いたいことは分かる。文句だろうがなんだろうが、いくらでも聞いてやる。だがな、これは決定事項で命令だ」


「くそっ!」


 タダイが再び怒りを露わにする。


「あいつらが可哀想ですよ。自爆させられるために集められて、でもその自爆する場所も与えられないまま、死んじまうかもしれないんですよ。それもこんな酷い作戦で」


「ああ、分かっている。だから俺たちは、必ずあいつらをその場に連れて行ってやるんだ」


 そう。自分たちはそのために集められたのだとボルドは思う。


 今、自分にできることはそれだけなのだ。片腕の自分がどれだけ突撃時の戦力になるのかは分からない。だが、その時の場所までは、自分が必ず彼らを連れていく。

 ボルドはそう決意するのだった。





 長距離砲、遠距離魔法での攻撃と同時に、ガジール帝国の突撃が開始された。兵数はほぼ陸兵で構成された五千。味方の長距離砲、遠距離魔法の効果も分からないままでの突撃戦だった。


 ボルド率いる第四特別遊撃小隊は、突撃する兵たちのほぼ中心に位置していた。隊の中にはジェロムを含めた二名の重装歩兵がいるため、小隊全体ではどうしても周りと比べると遅れがちとならざるを得ない。


 もう少し進めば、敵兵が潜む各塹壕の射程内に入るはずだった。そこまで到達できれば、敵側からの長距離砲や遠距離魔法による攻撃はないと考えていいはずだ。

 

 もっともそうなればなったで、今度は塹壕からの射撃に備える必要があるのだが。


 ボルドは第四特別遊撃小隊に所属している皆の顔を思い浮かべた。


 小隊の副官であり竜人種のタダイ・リドル准尉。

 オーク種で重装歩兵のジェロム・クリストフ曹長。

 同じくオーク種で重装歩兵のマジェス・エルムズ一等陸兵。

 竜人種で抜刀隊出身のダネル・エルトン一等陸兵。

 同じく竜人種で抜刀隊出身のホールデン・レイク一等陸兵。

 エルフ種で衛生兵のハンナ・セネット一等兵。

 通信兵のマーク・モリス二等陸兵。


 もうここにはいないオーク種で重装歩兵のゴーダ・グライブ一等陸兵。

 そして、ルイス・クレイ三等陸兵。


 ボルドはそれらの顔を順に思い出していく。そして、大きく息を吸い込んだ。


「クリストフ曹長、お前は最後尾にいる志願兵とセネット一等兵、モリス二等陸兵の前だ。流れ弾から守ってくれ。エルムズ一等陸兵! お前は先頭だ!」


 ボルドは小隊に配属されているもう一人の重装歩兵、マジェスの名を叫んだ。


「リドル准尉! エルトン一等陸兵とレイク一等陸兵を連れてエルムズ一等陸兵の後に続け。このまま斬り込む!」


 ボルドはタダイを含む三人の抜刀兵に向かって叫んだ。このままイスダリア教国がダリスタ基地の周囲に展開している塹壕の一つにでも自軍が取りつくことができれば、また打つ手が出てくるとボルドは考えていた。


 第四特別遊撃小隊が一丸となって走る左前方で着弾があった。次いで左後方にも。突撃前の攻撃でやはり敵側の長距離砲、その全てを沈黙させることはできなかったようだった。


 だが明らかにその砲撃量は少なく、突撃する五千に及ぶ将兵の足を止めるほどではなかった。


 敵の塹壕に近づくに従って、そこからの銃撃が激しくなってくる。第四特別遊撃小隊の周囲にいるガジール帝国の将兵が銃弾を受けて次々に倒れていく。


 第四特別遊撃小隊は、先頭の重装歩兵マジェスが持つ大楯のお陰で被害はまだない。


「走り抜けるぞ! 手前の塹壕に取りつけ!」


 塹壕から必死に小銃を撃つ数名のイスダリア教国兵士の顔に恐怖の色が浮かぶのが見えた。


「斬り込め!」


 ボルドは一声吠えると、自分も口に短銃を咥えて片手で長剣を握り塹壕目掛けて宙を飛んだ。

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