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風の歌は雲の彼方に  作者: yaasan


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15/58

被弾

「少尉や残してきた小隊の皆は無事でしょうか?」


 ルーシャはそう口にした。尋ねたところで無事だと分かるはずもないのだが、尋ねずにはいられなかった。


「あの少尉なら上手く切り抜けられたと思うぞ。この襲撃が補給部隊を狙ったものじゃなくて、単なる遭遇戦だったらの話だけどな」


 ジェロムが自信に満ちた声で断言してみせた。大した根拠がある話ではないと分かっているのだが、ルーシャは少しだけ安堵する自分を感じる。


「それにしてもあの隊長、片腕でよく戦場に立とうと思いますよね」


 ゴーダが水筒を口にしながらそう言った。


「そうですよね。片腕の兵士なんて聞いたことがないですよ」


 気分が少し落ち着いてきたのか、そう言ってラルクも会話に入ってきた。


「そりゃそうだろう。片腕じゃあろくに武器も扱えない。戦場で片腕を失くせば、普通は傷病兵として退役だ。暫くは食うに困らない恩賞だって貰えるんだ」


 ジェロムはラルクに言葉を返すと、続けてハンナに視線を向けた。


「お前さんは何か聞いているか?」


「いえ、特には……」


 ハンナは首を左右に振り、続けて口を開いた。


「特殊な作戦ですからね。クリストフ曹長と同じように、思うところがあって志願したんじゃないでしょうか」


「なんだ、思うところって? 俺は別に何も思っちゃいねえぞ」


 ジェロムはそう言って、再びそっぽを向いてしまう。ルーシャはそんな曹長を見て何だか可愛らしいと思い、少しだけ笑みがこぼれた。


 戦争だとはいえ、人を殺したことの衝撃が少しずつ薄まっているのだ。ルーシャはそう感じていた。


 やはり人は逞しい。辛いこと嫌なことがあっても、いつかそれは薄れて忘れ去っていくものなのだ。


 自分の家族もきっとそうなのだろう。父親も母親も、そしてまだ幼い妹や弟たちでさえ、自分を戦場に送り出してしまったことを後悔しているだろう。今でも悲しんでいるのだろう。


 でも時間が少しずつそれを慰め、癒やしてくれるはずだ。またそうであって欲しいとルーシャは思うのだった。


「そうか! やっぱり、ルーシャちゃんはテオドール少尉が心配なんだね」


 セシリアが自分の両手を胸の前で軽く叩いて、気づいたように甲高い声を上げた。


「お、おい、セシリア……」


 ラルクが戦場に全くもって似つかわしくない話を始めようとするセシリアに気がついて、それを止めようとする。


「ち、違うよ。少尉だけじゃなくて、残してきた皆が心配なんだもん」


 ルーシャは怒ったように言ってみたが、顔が少しだけ上気するのを感じる。


「なんだ? どういうことだ?」


 ジェロムはわけが分からないといった顔をしている。


「まあ、曹長、若いっていいなってことですよ」


 そんなジェロムを見て、ゴーダが苦笑を浮かべる。


「あ、てめえ、何だその顔。俺を馬鹿にしやがったな。てめえだって二十歳そこそこの若造じゃねえか」


 ジェロムが不満を口にするとハンナが割って入ってきた。


「クリストフ曹長、少尉が素敵だねって話ですよ」


「あの無愛想な小隊長殿がか?」


 ジェロムが口をあんぐりと開けて見せる。一同がそれを見て苦笑をそれぞれに浮かべた時だった。

 

 ひゅるひゅると、どこか間抜けな音がルーシャの鼓膜を震わせた。


「伏せろ! 長距離砲だ!」


 ジェロムが怒鳴るのと周囲で爆音が響き渡ったのは同時だった。

 

 一回、二回、三回とさして遠くない場所に長距離砲が着弾する。巻き上げられた小石や砂が地面に伏せた体に降りかかってくる。


「近くに味方の大規模な隊が逃げ込んできたのかもしれねえ。追撃戦に巻き込まれる前に、ここを離脱するぞ!」


 ジェロムの言葉に従って、皆が一斉に走り出す。先ほどの砲撃以降、次の砲撃はまだない。砲撃の方向を調整しているのか、それとも次は遠距離魔法が打ち込まれてくるのかもしれない。


 近くに味方の姿は見えないが、存外近くに味方の大部隊がいて、イスダリア教国側の砲撃に巻き込まれる可能性は確かにあった。


 ジェロムやゴーダの重装歩兵がいるため、離脱するといってもその速度は早足程度でしかない。いつ砲撃を受けるかもしれないと考えると恐怖が生まれて、その遅い速度に焦燥感が募る。


 自分一人だけでも全速力で走り出したくなってくる。追い詰められた状況だと、人はどこまでも自分勝手になるものらしかった。それらの感情を押さえ込みながらルーシャは歩みを進めていた。


「クライヴ一等陸兵、崖からもう少し離れた方がいい」


 ジェロムがそうゴーダに声をかけた時だった。また、ひゅるひゅると、どこか間の抜けた音が聞こえてくる。


「来るぞ! 伏せろ!」


 ジェロムの声が響き渡り、その直後にルーシャの右手で爆音とともに土煙が上がった気がした。

 

 あっ、と思った時には自分の体が宙に吹き飛ばされていた。


 まるで静止画でも見ているようだった。一瞬の出来事だったはずなのに場面、場面が瞬時に切り取られて自分の瞳に映っていくように思えた。

 

 何ごとかを叫んでいるジェロム曹長。泣き出しそうな顔で宙に飛ばされたルーシャを見るセシリアの顔。


 それらが静止画の状態で、ルーシャの瞳に次々と映し出されていく。


 これで自分は死ぬのだなとルーシャ思った。


 ここで死んでしまったら、前金のお金しか貰えないのだろうか。ちゃんと確認しておけばよかった。


 そして、そんなことを冷静に考えられるのが少しだけおかしかった。


 お父さん、お母さん、アナリナ、そしてマシュー、ごめんね……。

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