けだもの
コリコリコリ、クチャクチャクチャ…………コリコリコリ……クチャクチャクチャ…………コリコリ…………クチャクチャ、コリコリコリ。
何かを咀嚼している音が真っ暗な闇の中に小さく響いている。
地上に沢山の太陽が出現したあの日から地下鉄の駅と駅と駅を結ぶ線路内は避難所となった。
地下鉄の電車に乗っていた人たちや駅構内にいた人たち、沢山の太陽が出現したとき地下鉄の駅に続く地下道に逃げ込めた人たち。
最初彼等は協力して放射能を大量に含んだ風が駅構内や線路内に吹き込まないように、地上に出る通路やトンネルを塞ぎ、食料を得るためデパートの地下階まで穴を掘る。
だが直ぐに食料の分配で揉め始め、争いになり殺し合いが始まった。
力が強い者が頂点に立つかと思われたが、いち早く真っ暗な闇の世界に順応した幾つかの子供達のグループを頂点とする弱肉強食の世界が出現。
子供達のグループは闇の世界に順応できない大人達を襲撃して餌にし、餓死したり衰弱死したりした人たちの死体を喰い、地下に多数生息していたネズミを捕らえた。
ネズミの数が減り捕らえる事が困難になり、大人達を狩り尽くし死体を喰い尽くしたあとは他のグループの者を襲い餌とする。
それさえ無くなると同じグループの者に襲いかかり餌とした。
最後まで共に生きていた弟を殺し餌にした女の子。
避難所になった駅構内や線路内に逃げ込めた数千人の人たちの最後の生き残りである彼女は、喰い残した肉や骨等をバッグに詰め、バッグを口に咥え四つ足で塒であるホームの前に止まっている電車に戻って行った。