6:呼び名
6話:呼び名
討伐した後、その商団の代表者がお礼をしたいと言ってきたが、俺も急いでいたので、討伐した魔物を粗方回収させてもらって先に行かせてもらった。
無事に都市についた俺は依頼完了の報告をギルドにし、魔物の買取をしてもらい、虎徹たちと宿屋で寛いでいた。
その時だった。宿屋の女将から俺に会いに来た商人の男が下に来ていると教わったのは。
俺が下に降りると2人の男が立っていた。一人は商人風の男、その隣の護衛のような男が1人立っていた。
すると商人風の男が話しかけてきた。
「やはりあなたでしたか。お会いできてよかったです」
誰だろうと思っていたが、2人とも見覚えがあった。魔物の森で遭遇した商団の人だったのだ。
「あぁ、あの時の...良くここがわかりましたね?」
「この都市にきて、あなたの特徴を門番の衛士に話したところ、傭兵ギルドの者であることを知り、傭兵ギルドであなたの特徴を話したら、この都市にいる間は、この宿に泊まっていることを教えてもらいました。虎と狼を連れた少年、そして魔の森を直通ルートで通る少年、ダメ押しで雷系統の魔法を使う少年。そのどれか一つだけでも当てはまる人間はBランク傭兵の『雷霆』しかいないと、誰もが言っていました」
それはそうか。そんな人物がそこらへんに大勢いたら驚くわな。
ってか既に『雷霆』とか恥ずかしい二つ名が浸透していることに驚くわ。
「それであなた方は?どちら様ですか?」
「これは失礼しました。私は、あなたが助けてくれた商団の代表であり、オルレアン王国の王都に店を構えているブロア商会の若頭でもあるニールと申します。そして右の者が商団の護衛隊長であるオルドです」
「オルドと言う。あの時は助けてもらって感謝する!」
そういうとオルドという男とニールは深々とお辞儀をしてきた。
「それで、俺に何の用ですか?」
「お礼を申し上げに来ました」
「お礼?」
「はい!助けていただいたお礼です。あの時は急いでいたようでしたから何もすることが出来ませんでしたが、今ならそれが出来ると思いまして、こうして会いに来させていただきました」
その為に、わざわざ探して会いに来るとは...律義な商人のようだな。
「その為だけに?」
「その為だけにです。我々商人は信用第一です。それに我がブロア商会の鉄の掟に《助けてもらった恩は必ず倍返しにして返す》というのがあります」
なるほど、そういうことね。でもお礼かぁ...金はいらないし、商人から欲しい物なんて今はないんだよな。強いて言うなら魔法やスキルかな。
「特にないんですよね。ちなみに魔法を扱える人はいますか?」
「魔法ですか?我が商会にはいませんね。護衛達も腕っぷしのみですから」
まぁそんな簡単に集まるのは軍か学園の貴族科ぐらいだよな。
「失礼ながら『雷霆』殿のことを調べさせてもらいました。『雷霆』殿はオルレアンの王都にある王立学園へ入学しようとされていると聞きましたが?」
そんなことまで調べたのか?それもこの短時間で。まぁ恐らく喋ったのはギルドの受付嬢たちだろうけど。別に隠しているわけじゃないからいいんだけど。
「確かにそうだね。俺も魔法が扱えるから、学園に行こうと思ってる。あそこの一般科は他国の人間や平民でも入れると聞いたからね。ただ...」
「問題が一つある。ということですよね?」
俺はニールの言葉に肯定の意味で頷いた。この商人もその問題を知っているようだな。
その問題を解決するためにオルレアンの依頼を優先的に受けているのだ。その問題というのが...
他国の平民の場合はオルレアンに住む有権者から推薦状を貰わないといけない。その推薦状があって初めて試験を受けることができるようになる。ということだ。
まさかの条件付きだったとは、思わなかったよ。それを知ったのが去年だ。それから有権者を探して依頼を受けたりしたが、推薦状を貰うほどの信頼はされていない。
相手方も自国の学園への推薦状は慎重を期すからだ。推薦状を出して、試験に受からなかった場合、推薦状を出した有権者は人を見る目がないと判断され、有権者資格を剥奪される場合があるからだ。
もちろん合格すれば逆に評価は高くなる。ちなみに合格し、入学後にその者が問題を起こした場合の責任は一切有権者にはない。試験に合格し入学を認めたのは学園側だからだ。
これは学園側の不手際で、有権者まで被害を被ることがないようにする処置でもある。
「そこで、私どもから『雷霆』殿へのお礼ですが、その推薦状というのでいかがでしょうか?」
このニールという男、今なんて言った?推薦状をくれるといったのか?
「今なんと言いました?」
「王立学園への推薦状をお渡しします。と申し上げました。私どもブロア商会はオルレアン国の王都に店を構えている商会であり、オルレアンの有権者でもあります。ですので、今回のお礼として推薦状をお渡しさせていただければと」
まさか助けた人がオルレアンの有権者だったとは...人助けはしてみるものだ。
「それではお願いしてもよろしいですか?」
「是非!よかったです。雷霆殿にお礼が出来まして」
「こちらこそ助かります」
「どうでしょう?これから我々は食事をとるのですが、ご一緒にいかがでしょうか?」
食事への誘いか。受けてもいいのだが、これから虎徹と白狼にも食事の用意をしないといけないから断ろうとしたが、虎徹たちにも助けてもらったから、一緒にと言われたので、お言葉に甘えさせてもらうことにした。
その食事の席で、ニールからオルレアンの王都に帰る際の護衛をお願いしたいという依頼があったので受けることにした。
どうせ王都に行かないと行けないから、連れていってもらうことにしたのだ。
この5年間、修練に明け暮れたのと推薦状の件があって、王都まで行く余裕がなかったからだ。
そして時は今に戻る。
「トウマ殿のお陰で無事に帰ってこれました。あそこでトウマ殿に会えていなかったら、私どもは死んでいたでしょう。
本当に、ここまでありがとうございました!」
「いえ、こちらこそ道中快適に過ごさせてもらいました。ありがとうございます」
「ワォンッ!」
「グルルゥ!」
虎徹と白狼も俺に続いてニール殿に挨拶をした。従魔契約をしているからというのもあるが、本当にこの二匹は賢い。
「トウマ殿、これが約束の王立魔法学園一般科入学試験の推薦状となります」
「ありがとうございます」
「当商会は、いつでもトウマ殿を歓迎しますので、何かご入用がございましたら、いつでも当商会へお越しください」
「その時は是非寄らせてもらいます。それでは」
そうして俺はニール殿と別れ、推薦状を持って王立魔法学園へ向かった。
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