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08 すべては憧れから始まる


王国歴428年 水形の月6つ

Felicia=en=knaster=sifolia

Third princess

チェスナット郊外 野営地


挿絵(By みてみん)

 

「ディア。あれは……?」


 私は傍仕えの小間使い(メイド)に声を掛けた。


「さあ……? 見たところ、踊っているように見えますが」


 ちょうど野営地の魔法防衛装置の側で、とても激しい動きで踊っている男がいる。記憶を思い起こしてみても、城内の兵士にあれだけの動きが出来る者は居なかった気がする。


「きっと旅の踊り子ではないかと……ああして日銭を稼いでいるのでは?」


 なるほど。もっともらしい理由だった。確かに男の身なりはチェスナットではあまり見ない姿をしている。ディアの言う通りなのかもしれない。


 けれど、一国の姫であるフェリシア=エン=ナスター=シフォーリアには、彼がもっと別の、輝いた何かに見えていた。


「旅をして、ああやって好きな所で踊って……

 本当にわたくしとは真逆なんですね……」

「姫様……」




 王国の第三王女という身分を持って生まれたフェリシアは、その恵まれた環境から英才教育を受け、元々活発な子だった。世継ぎの兄と、姉とも仲が良かった。


 だが、歳が13の頃に、()()()()()()()()ようになってしまったという。


 周囲の者たちも初めは戸惑い、一体何が幼い彼女を変えてしまったのだろうと考えたが、彼女は王族としての教育を受けるにつれ、やがて自由がないことを悟り、自分が籠の中の小鳥であることにを幼いうちから理解したのだろうのだと、人々は思うようになった。

 性格が内面に向かったのは、3番目の役目が()()()()()になるのを悟ったからだと。


 そんな下馬評を受けている彼女は、今は帝国からの帰り道だ。向こうの三男坊との顔見せのために向こうを訪れて、今は自国領の野営地の脇で止まったところだ。

 あちらの第三王子には、来月にはあちらから訪問してもらい、こちらで結婚式を挙げることが決まっている。



 あの少し脂ぎった顔を思い出すだけで、自分が汚されることを想像してしまい余計に気分が沈む。フェリシアに選択の余地は無かった。


「姫様、そろそろ……」

「待って。まだ気付かれてないわ。あと、もう少しだけ……」


 フェリシアは踊り子から目が離せなくなっていた。地に手を付き、脚を組み替え踊るさまはまるで演舞のようで、流れている音が耳に、その輝きが瞳に、それぞれ焼き付いていく。

 灰色に見えていた世界が七色に変わっていく。長く冷え切った心に熱が戻ってくる……。


「熱い……」


 しかしそんな夢のような時間はあっという間に終わった。踊り子の演目が終わったのだ。

 すると、それまで観客だった民達はこちらの馬車に気付き、次々と平伏していく。


 小さな頃から見慣れていた、不思議な光景だった。


「姫様、参りましょう」

「ええ、そうね……」


 二人の意見はそこで揃い、ようやく馬車は動き出す。


 だが、フェリシアは踊り子の姿を見て再び衝撃を受ける。

 隣にいる老人に頭を小突かれているが、踊り子は王族の乗る馬車を見ても平伏する様子が全くないのだった。


(すごい……彼は本当の自由を手にしてるんだわ……)


 王女の私ほどでは無いけれど、民達だってその生まれや役割を理解している。国の慣習や外聞といったものに囚われ、真の自由を手にしてはいない。


 だからこそ、フェリシアにはあの踊り子がとても眩しく見えたのだ。


(もしかして彼が……いえ、間違いないわ。きっと、これは神様がくれた、最初で最後のチャンスなんだわ……)


 フェリシアはこれから再び籠の中へと入れられるところであったが、その背中には、空へとはばたくための新しい翼が生えようとしていた……。






 彼女を乗せた馬車は城下を抜けて王城へ着いた。


 王国の馬車は馬にこそ引かせてはいるが、半分は魔法が動力で動いている。そのため長距離や悪路に強く、遠回りにはなるが帝国へは海岸沿いの街道を走っている。逆に、帝国の馬車はガソリンで動いているらしく、繊細な馬車のために帝国はわざわざ山道を黒く平らにして、そこを走らせている。

 道が舗装されているから王国馬車は山道も快適に走れるのだが、そこは政治的な意味合いから通ることはない。


「ありがとう、お疲れ様」

「滅相もございません。では私はこれで……」


 フェリシアは魔法の力で御者をしていた者を労うと馬車から降り、自らの家でもあるチェスナットの宮殿へと足を踏み入れた。



「ただいま戻りました、お父様」

「ああ。お勤めご苦労だった。アヴァローン帝国はどうだったかな?」


「チェスナットとは別世界でしたね……魔法の無い生活というのは不便なものでしたが、代わりに機械仕掛けのものがあって……向こうは向こうで色々工夫しているのだと思いました」


「……存外、住むのは悪くないと思います」

「おお、そうか!」


 私は嘘をついた。帝国で良い思い出など一つもなかった。


 ここで国王の機嫌を損ねる必要が無かっただけに過ぎなかったので、望まれる答えを返した。結婚に前向きと捉えられるぐらいの言葉に留めておいただけだった。


「わたくし少々長旅で疲れてしまいましたわ。早くお風呂に入りたいです……」

「おお、すまん。馬車旅は腰にくるからな。ゆっくり休むといい」


 父はそう言い、私も話を切り上げる。

「ええ、では」


 王はもう結婚式の段取りで頭がいっぱいになっているのだろう。

 本当に迷惑な話だ。第三王女のことはただの駒としかみていないのだから。



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