39 ラブミー エアセッション!
城門にたどり着いた私たちだったが、その高さも10メートル超はある大きな門が目に入った時、視界の先には絶望ともいうべき困難が待っていた。
「門の警備が固められてる……!?」
兵士たちが50人は居るだろうか。全員がその門の中の入国審査部に詰めており、束になって物理的に道を塞いでいた。あれではネズミの通る隙間もない。
「ロキ、どうしたら!?」
「城壁に指を引っ掛けて登るってのはどうだ?
姫さん、ロッククライミングの経験は?」
「あるわけないでしょ!」
「だよな……」
「神様が突然現れて、上から蜘蛛の糸でも垂らしてくれると思うか?」
「確かにここは地獄のようね。でもそれは私たち二人でつかまったら、千切れるお話じゃなかったかしら?」
「悪いがオレは降りるぜ。自分だけ助かったらメチャクチャカッコ悪いからな……」
「あら。それなら私はあなたと運命を一緒にさせてもらうわよ?」
(もう、冗談を言っている場合ではないのに!)
自由と希望は目と鼻の先なのに、ここまで来て手が無いのだろうか。
本当に、何か……。
しかし時間が許すことはなく、結局私たちは無策のまま住宅街から飛び出した。
もう、引き返すことは出来ない。
「いたぞ、フェリシア様だっ!!」
「門の守りを固めるんだっ!!」
兵士たちが大声を上げる。
彼らは門の中でざわついたが、どうやら守りを固めるつもりのようで、こちらに出てくる気配は無かった。
「あれじゃ光魔法で目をくらませても、通れないわ!」
「他の魔法はねえのか!?」
「あとは奴隷魔法だけよ!
あの兵士たち全員の真名が分かる、死神の眼でも持っていたりはしないの!?」
「全員殺すつもりかよ、姫さんおっかねーな!」
冗談を言っている場合では無いのは分かっているのに、
故郷の話題だけが意味もなく沸いてくる……!
「やべーな、どうする……いやまて。
オイ、キルト、居るんだろ!?」
「ロキ、気を付けて! こっちから来てるわ!」
彼が城門の上に大声で呼び掛けた時、新手が現れる。
街中の方から、新たに三人の兵士が行く手を阻んだ!
「姫様! 観念してくださいっ!
手柄はこの私がっ!」
兵士の先鋒が手を広げて、私に飛び掛かってくる。
(これなら……えいっ!)
「うわっ!」
兵士の伸びて来た手首を思いっきり掴み、引き込むように地面へ向けて引っ張った。
「ぐえっ……」
兵士を地面に叩き伏せた。
私は念を入れてその背中を踏みつける。
「よくやったわ。あなたにはわたくしから足蹴にするご褒美を差し上げますわ!
ありがたく受け取りなさい!」
「あっあっ、ありがとうございます~~~~!!??」
兵士は足もとで感涙にむせび泣いていたが、私にはグリグリと兵士を踏みつけるほどの余裕があった。
なぜならロキが、あとの二人を軽く蹴り飛ばしていたからだ。
彼の脚力で蹴られて無事で済む人間などいないだろう。
そうして兵士たちを地面に伏せさせ、私たちが一時しのぎを得た時、予想だにしなかった大きな音が響いた!
ザリザリザリッ――――ガァァアアァァン……!!
地面の揺るがしたその衝撃に振り返ると、城門の鉄格子が下まで降りていた。
入国審査部の警報が鳴り響き、こちらと隔てられた中の兵士たちは何事かと騒いでいる。
私もあっけにとられていたが、ロキが叫ぶ。
「姫さん、あの鉄格子なら登れるぞ!」
「本気っ!?」
鉄格子は上まで10メートルはあるかもしれない。
だが私が上を見上げた時、閉じられた城門の脇から、一人の人間が声を掛けて来た。
「ロキ! フェリシア様! こっちです!!」
「ユーさん!?」
私が驚く声を上げると、もう鉄格子に跳び付いて4メートルの高さまで登っていたロキが飛び降りてくる。
「オオ、愛しのユーたん! 今すぐに抱きしめてやるぜっ!!」
「こちらに上まで登る螺旋階段があります、急いでください!」
非常口を抜け、私たちはユーさんに導かれて、石畳の階段を登っていく。
小さな円形の塔を5周ほどしたところで、城門の上まで来ることが出来た。
彼女は登って来た通用扉に鍵をかける。
「はぁ、はぁ……上手くいきました。
ロキがここまで逃げてくると聞いて、兵士の皆さんを一か所に固めておいたのですよ……!
入国審査部自慢の不法入国者を捕らえる警備装置が、まさか国外逃亡に役立つとは思いませんでした……」
「あぁ……オレは今、猛烈に愛を伝えたくなっているぜ。
ユーたん、少し時間を貰ってもいいか?」
「ダメです。伝えるべき話は、私のほうにあります……!」
彼女は一旦息をつき、それから言葉を紡ぐ。
「ロキ。お願いがあります……!
私も、連れて行ってくださいっ……!!」
「私はずっと、置いてかれるのだと思っていました……。
これで永遠にお別れになるのだと、諦めていました……」
「……」
「弟がさっき、教えてくれたんです。ここが、最後のチャンスだって。今行かなきゃ、一生後悔するだろうからって、背中を押してくれたんです……!」
「……」
「だから、あと一つだけ……お願いですっ……!
私に夢の続きを、見させてくださいっ……!!」
「そうだったな。
オレとしたことが忘れてたぜ……」
ロキは私を振り返り、簡単な問いかけをしてきた。
「なあ、姫さん。ユーたんも一緒に行きたいってよ。
……旅は道連れ?」
「……世は情け?」
「そういうことだな、ユーたん」
「そういうことよ、ユーさん」
「どういうことなんですか!?」
ダンダンダン!
扉が今にも破られようとしていた。
「おぬしら……はよう乗らんかの……?」
「おっしゃ! 四人でハネムーン旅行と洒落込もうぜ!」
私たちは、キルトエンデさんの敷いていた赤い絨毯に身を寄せて、座り込んだ。
ドガッ!
「じゃあな兵士諸君、ロキのパーティーは楽しんで貰えたかな?
See you next time?」
扉が破られたと同時に私たち四人は空へと浮き上がり、手を伸ばす兵士たちを振り払うと、あっという間に彼らを置いてけぼりにしたのだった――。
ヒュウ――――
風を切る音がしている。
「わは、ワハハハッハハ……!」
「これ、気が散るからやめぃ!」
「ホントに飛んでるわね……」
「家族のみんな、ごめんなさい……私は悪い子です……」
私たち四人は城門から遥か高く舞い上がり、チェスナット郊外の上空を飛んでいた。
「これ、どこまで行けるんですか?」
「アッチの山の、曲がりくねった道の中腹に、オレの道具を隠してるんだ。
そこまで行くぜ。追っ手は来ないんだろ?」
「ええ、その筈よ。
だけど帝国の馬車は山道を通って帰る筈だから、長居は出来ないわよ」
「山がダメなら、オフシーズンだし、一回海にでも行くか?」
「それもいいかもしれないわね」
「わしも賛成じゃ。
こやつにわしの悩殺ぼでぃーを見せてやらんとな」
「……!」
「……!」
「ロキ、あなた……私に興味が無いと思ったら……ロリコンだったの?」
「いや、オレは大きいほうが好きだぜ。なんだか手持ち無沙汰だな?
姫さん、こっちに来いよ。オレの右手が空いてるからよ……イテッ」
ロキの左腕に、ユーさんがしがみついている。
私はそれを見て、すべてを悟った。
「なら、お招きを受けましょうかしらね。よいしょっと……」
私はわざとらしい台詞を吐いて、彼の右隣りに座り直した。
そうして彼の傍に身体を寄せて、私は女になる。
(……んっ……)
少々くすぐったかったが、ここは我慢だ。
「ねぇ、ロキ。式の会場で私の唇を奪ったのは、やっぱりやり過ぎよ……
あれは私も恥ずかしかったんだからね……?」
「ロキ!? フェリシア様になんてことをしてるんですか!?」
「落ち着けって、ユーたん。オレはお前の唇の感触もよぉく覚えているぜ。
また目を瞑ってオレの前に顔を突き出せば、その柔らかさをもう一度確かめてやらんこともないぜ?」
「~~~~~~~~~~~~!!!!」
ユーさんは自分の唇を押さえて、思いっきり赤くなってしまっている。
「なぁんだ、ファーストキスは取られてるんじゃない。残念だわ。
でも、彼は大きい胸のほうが好きみたいね、ちょっと気持ち良くなってきたし」
「ふふん! 私のロキはおっぱいに負ける人間じゃないですよ?
私とロキは真名を預け合った、心から結ばれた絆があるんですからね!?」
「あら? 私とロキは、実は同郷の縁があるって話してなかったわね。
一緒に帰るって、約束も取り付けたの。そうでしょ、ロキ?」
「参ったなこりゃ。どうすんだ?
そもそも、オレに魅力があり過ぎるのがいけないのは分かってるんだけどな。
いつの間にか、ハーレムになってるんだが?」
「責任はちゃんと取ってくださいね?」
「甚くんは私のモノですからね!?」
「なあ……わしもハーレムとやらに入れて貰って良いんかの……?」
「「「……!?」」」
それから空の旅を終えるまで。
私たちは、ずっと彼を取り合って騒いでいた――――
「はぁ……マジで早く帰りてえ……。
オレは雪の降るところで、ただ滑りたいだけなんだが?」
「なあ、雪はいつ降るんだ?」
この小説は、君とセッションを奏でられただろうか?
熱い気持ちが届いているなら、竹箇平はそれだけで満足なんです。
ではまた、雪の降る季節にお会いしましょう……!




