28 幼女の魔法は万能です
2日前 話し合いの場にて
(完全に出るタイミングを逸してしもうた……)
ユーの家では国の姫様とおっぱいメイドがやってきて、ロキのやつと何やらキナ臭い話を始めている。
キルトエンデは部屋の隅で縮こまって、自分に隠蔽魔法をかけて隠れていた。こやつらは完全にこちらの存在には気付いていないようで、裸になってまで騒ぎ立てている。
とはいえ、物音を立てずに去るよりかは相手が去るのを待ったほうが穏便に済むかと考えて、結局、ずっと部屋の隅で話が終わるのをずっと待っていたのだ……。
「甚くんは言い過ぎです! 私を守ってくれたのは正直、いえかなり嬉しかったですけど……♡
フェリシア様によくあそこまで言えましたね……?」
「姫なんてものはただの身分にすぎねえ。話したら誰もが同じ人間だろ。まーそこを勘違いしてデカくなってる人間ばっかだけどな」
「ともあれ、助かりました……これで甚くんと平穏な生活をすることが出来ますね。本当に良かったです……」
「ん? 何言ってんだ?
誘拐、やるに決まってるだろ?」
「えっ」
「ロキの名を売る絶好のチャンスがやってきたぜ! フゥー!!
ド派手なデビューを決めてやるぜ? 方法は今、考えてるところだけどよ!」
「えっえっ」
「なにやら面白そうな話をしておるのう……?」
「ええーッ!?!?」
出るタイミングはここしかないと踏んだキルトエンデは二人の前に登場し、今までの話を全部聞いていたことを暴露した。
「すまんのぅ……実はずっと聞いておったのじゃ。わしの隠蔽魔法は完璧だったかいの?」
「全然気付きませんでした……こんな魔法があること自体知りませんでしたから……」
「いいかげん分かったかの。わしは魔法に関して嘘はついておらんとな」
「えっ、じゃあ空も飛べたり……?」
キルトエンデは無言の返事を返した。
まったく主人のくせに疑り深いやつだと思う。
「そうだ、幼女は飛べるんだったな……それって姫さんも飛べたりすんのか?」
もしあの姫様に魔法の才覚があれば、教えれば飛べるようになるだろう。ここにいるユーのやつなら、3日もかからず飛べるようになるはずだ。
だが、人間が魔法の使い方を失くしてからは久しく、改めて教えるのは火種にしかならない。この力は人には過ぎたものだと思っているのだから。
「あぁ……
いや、飛行魔法は教えられん。失われた技術じゃからの……」
キルトエンデはそう言うと、収納魔法から大きな赤い絨毯を取り出して広げた。
「じゃが、おぬしらに協力はしてやれるぞ。人も3人ぐらいは乗せても構わんからな?
ほれ、だっこせい」
両手を横に大きく広げてロキの前に立つと、意図を解したのかロキは抱きかかえてくれる。相変わらず年上の扱いはなっていなかったが、キルトエンデはこれをどこか気に入っていた。
「それ、ちょっと浮かせてみるぞ。ユーも乗るんじゃ」
「わ、これ、ほんとに浮いてる……」
彼女もおそるおそるだったが、赤い絨毯には3人の人間が乗った。
飛行魔法の操作は難なく出来ている。この分なら問題はない。
「街の真ん中に飛行を阻害する魔法塔があるんじゃ。そいつを壊してからなら飛べるから、そこまで姫のやつを連れて来い。そうしたら、空から国の外までひとっ飛びじゃ!」
「オイオイマジかよ。とうとう異世界に来ちまったって実感が沸いてきやがるぜ……!」
「……異世界じゃと?」
異世界……。この500年、何度もその存在を夢想したが、その目で確かめることが出来ない以上、ずっと証明できない命題だと考えていた。だが、ロキは事も無さげに口にした。
この世界はとても狭くどこか箱庭めいていて、他にも不思議な現象がたくさんあったが……いままで決め手となるものはこれまで存在しなかったのだ。
ロキは、不思議な存在だった。
この世界の理から外れているとは感じていたが……
(まさか、本当に?)
「よっしゃ! じゃあ空から逃亡計画で決まりだな。聞いてくれ。
オレは姫さんを城から担ぎ出して、その塔でキルトと合流する。3人で絨毯に乗ってトンズラだ。飛ぶのは高い所からと相場は決まっているからな。ついでにビラでも配っとくか? 良いんじゃねえの、テンション上がってきたぜ!!」
「ロキ、警備の兵とかはどうするつもりなのですか?」
「そりゃ、オレが城で騒ぎまくって……まぁ任せとけって。あの姫さんも足は速そうだし、オレについて来れるだろうからな。となると……アイツらに勝手に行動されちゃ困るな……と」
ロキの中でどんどん話が進んでいく。相変わらず話を聞かん男よのぅ……と一人愚痴るが、キルトエンデはロキに恩を売っておくべきだと思った。
疑念が少しずつ形になっていく。ロキは異世界から来ている……。この男について行かねばならぬと、理屈がそう告げていた。
「姫さんもあの様子じゃ全然諦めて無いだろうからよ、たぶんまた来るぜ。オレはお楽しみパーティを開催することにしたから、アイツらには大人しく観客席に座ってもらわないとな。こういうのはサプライズが大事ってワケだぜ。キルトっち、よろしく頼むぜ?」
「わかったわい……仕方のないやつじゃのぅ」
「あの……私は……?」
そこにはユーのやつが心細く残されていた。彼女の役目は無い。
ロキのやつが勝手に国で動乱を起こしても、主人に迷惑はかからない。ただ、わしもロキも、これでお別れになるのは……仕方のないことである。
「ユーたん。オレはやるぜ。この国に一大センセーションを巻き起こして、そしたらビッグになって帰ってくるぜ。それまでお別れだな。お前の期待を背負ってるんだ、大船に乗った気でいてくれよ?」
「……」
言葉は無かった。これ以上話しても、名残惜しくなるだけだろう。
「当日が楽しみじゃな。わしはこの国に来るのも久しぶりじゃから、今日はちょっと観光にでも出かけて楽しんで来るとしようかの。晩には戻ってくるからのぅ」
キルトエンデは彼らを残して、街の観光へと出掛けることにした……。




