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26 失意の中で


 服の脱ぎ合いで崩れてしまった場を落ち着かせ、衣服の乱れを直し、気を取り直して再開した私と彼らだったが、話し合いはあまり長くは続かなかった。



「ま、どんなに鍛えてたって、街のごった返した地理を考えれば、そのうち包囲されて捕まるのがオチだな。式の当日でも国のそこらじゅうに兵士は居るだろ」


「兵の配置はある程度は誘導出来ます。一応他国を迎えるのですから、厳重な所は変えられませんが……」


「まず移動手段がねーんだよな。城からは傾斜が付いてるから、雪さえ降ってりゃサァーっと逃げ出せるんだが、今は夏になる前っぽいしな。SK8は一つしかねえし、お前は重そうだから一緒には乗れねえ」


「あの……ここにはハッキリとした四季はありませんよ……雪が降るのは高い山だけです」

「え、マジかよ。それ一番の悪い知らせだわ。

 魔法で雪とか降らせられねーのかよ?」


「そんなのどう考えたって無理ですわ……」


 踊り子はそこで深く肩を落とすが、話を続ける。


「じゃ、もう残ってる手段は馬車ぐらいだが、堂々とコイツに乗って逃げても、道を塞がれたら終わりだ。すぐに棺桶じゃね。というわけで、逃げる手段が現実的じゃねえ。これが一つだ」


 踊り子は逃走手段の甘さを指摘する。

 確かに問題は解決出来ていない……。


「で、仮に方法がクリアされてオレがOKしたとしてだ……

 当日オレが動かなかったら、お前はどうするんだ?」


「それは……

わたくし一人でも、逃げ出しますわ」


「ウソだな。()()()()()()()()()()()

 手を差し出されなきゃ、一人で逃げ出せない憐れな小鳥だぜ。じゃなきゃ、こんなところまで助けを求めたりなんかはしないハズだろ?」



 一人で逃げ出せるなら、とっくに逃げ出している。

 踊り子は、私の弱さを的確に見抜いていた。


「ですが、」

「ムリだな。お前は式の当日にオレに裏切られても、それでも結婚を受け入れるさ。オレには分かる。城の兵士をかき集めて、クーデターでも起こしたほうがまだマシってモンだぜ。お前には、覚悟が足りねえよ」



 もう誰も口を挟めなかった。

 私もこれ以上、説得の言葉は出てこなかった。

 

「結論としては、無理だな。子供のワガママには付き合いきれん。

 もういいから、帰れ」


「……」


 私は黙って席を立つ。

 そして、そのまま家を出ることにした。






 チェスナット 王宮内


「あんな風に言われるとは思わなかったわ……」


 私とディアは王宮にせわしなく出入りする清掃人に紛れて、王宮へと帰って来た。これから作戦会議だ。もちろんこのまま諦めるつもりは無い。


 私は城暮らしの普段着を自室から取ると、そのまま何の迷いもなく歩みを進める。

 ディアも慌てつつも、ちゃんと私の足についてきている。


 そして服を勢いよく脱ぎ捨て、()()()()()へと向かった。



「時間はまだありますわ……」

「姫様……」


 鏡の前に座り、ディアがその後ろで背中を流してくれる。私の黄金色の髪を彼女に委ねる。


「あの男は、計画さえあればやると言っていたわ……

 ディアは、どう思う?」

「そうですね……」


 ディアは私の髪に手櫛を入れると、指を立てて丁寧に梳いていく。そうして考えをまとめながら、言葉を紡いでいく。



「あの男を囮にするのはどうでしょうか? 式で暴れてもらっている間に、馬車を回すというのは。

 御者は、私がなんとかやってみます……それなら、私も姫様と一緒に行くことが出来ますから……」


 私は事後処理のために彼女を残していくつもりだったが、どうやら私と一緒であることを望んでいるらしい。その気持ちは素直に嬉しいが……。


「踊り子も誘拐ではなく会場で踊るだけなら角も立たなくて、引き受けてくれると思います……」


 それなら説得出来るだろうか?

 少なくとも相手の負担はかなり減るし、踊り子も一人で逃げる覚悟があるのかを私に問うていた。


 やはり、私自身の力でなんとか脱出しないといけないのだ。馬車の道を塞がれる問題は解決出来てはいないが、ここはもう腹をくくり、出たとこ勝負で行くしかないのかもしれない。


「そうね……やってみなきゃ分からないわよね……」


 まだ問題は山積みだが、とにかくこれを骨子にして考えていくしかなさそうだ。

 私は話題を別の問題へと移す。



「奴隷登録書の紛失がバレている可能性はあると思う? 私、大臣のケントの所ではヘマはしてないと思う。もし気付かれてても、ユーさん……彼女にまで伝わる時間があったとは思えないのよ」


「昨日私が入国審査部に行った時は、彼女は突然の来訪に驚いていたように思いますから、やはりその後で奴隷を魔法で呼び寄せたのだと思います。なぜ彼女が踊り子を奴隷じゃないと言ったのは分かりませんが……」


「どちらにせよ今日、私達は大きく動きましたから、大臣に何か企んでいると勘付かれる段階には来ていると思います」


「それもそうね……私ももう王宮の外には出られないわ……」



 ディアは湯桶で私の頭を流して、髪を洗い終える。

 頭がさっぱりとして、気持ち良い。頭の中のモヤモヤを振り払って、また新たな気持ちでここからスタートするしかないのだ。



「ディア。気持ちは嬉しいけど、私はやはり一人で行かなければならないわ。私はこれからいつもの御者を抱き込むわ。あなたはもう一度、あの二人と話をしてきて。何か勘違いがあるのかもしれないわ。ユーさんと踊り子の関係を徹底的に洗い直してくるのよ!」


「はい、分かりました……」



 ディアの心中も察するが、やらねばならない。

 私達は悲愴な決意をそれぞれに抱えながらも、前に進むしかないのだから。



 王宮内にて


「ねえ、ケンちゃん。私の妹なんだけどぉ~」

「何やら今日は久々に城下に抜け出しておったみたいですな。

 フェリシア様も息が詰まっておいでだから、儂は目を瞑っておるのですが」


「それがねぇ~どうやら式の当日に大きなサップライズをするみたいなのよねぇ?」

「なんですと……」


「ほら、帝国の王子様って冗談が通じるかも分からないしぃ一応心配しとこうと思って~」

「それはよくありませんな……一度兵士達の尻を叩いておきますかな……。

 それではモリン様、儂はこれで」


「……」


「ゴメンねぇフェリちゃん。わたしも保身はしとかなきゃだしぃ……」


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