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22 ほんとうのきもち 前編


王国歴428年 水形の月17つ

Nishinobou Jinroku a.k.a. Loqi

Masked border

チェスナット王国三等地 ユーたんの家


 昼間は心を失くして命令の鬼と化したユーたんによって掃除をさせられていて、家に立ったホコリが落ち着いてから食事の支度を始めたから、今は遅い時間になっている。



「料理はてっきり魔法をかけて作るもんだと思ったが、これは普通の焼き魚だな。このウマさは婿入りした甲斐があるってもんだ。まぁ毎日これが出てくるんだったら、オレはコックに転職を考えるぜ」


「もうからかっても効きませんよ。

 私の焼き魚が美味しいなら素直にそう言ってください」


「焼き魚は生焼けでこんなにも新鮮だってのに、オレらは早くも倦怠期なんだが?

 ピチピチの新婚生活はどこ行ったんだ? バーさん、助けてくれよ!」


「ご飯中は黙って食いな!」


 オレの晩メシ中の無駄話はアッサリと一蹴された。ユーたんは昼間からずっと低体温のままだし、ユーたんの婆さんはパヤオアニメに出て来そうなクソババアになっちまった。

 まぁ新郎のフリをすんのは結構キツかったし、オレもいつもの調子で喋ってるほうが楽だ。これだけ道化を演じていれば、本気で受け取られることは無いだろう。それがオレ流の冗談なのだから。



「そういやオレはどこで寝るんだ?」

「そういえば部屋が空いてませんでしたね……おっと、そこに()()()()()()()()()があるじゃないですか。そちらで寝るのはどうですか?」


「確かにオレは冷たい地面が大好きだぜ。寒くて凍ってたら、好き過ぎてキスまでしちまいそうだぜ。んで、初夜だから、モチロン一緒に寝るんだろ?」

「しょっ……

 か、家族も居るのにそんなことする訳ないでしょう……本気で怒りますよ?」



「なあ、わしも床で寝るんかの……?」


「キルトちゃんは私の部屋においで……一緒に寝ましょう?」

「おお……まぁいいわい。わしが子守唄を聞かせてやろう」


 漫才夫婦の会話に乗り込んできたキルトだったが、ママさんにそのまま奥の部屋に拉致られていった。こいつらも仲良くなったもんだな。ちょっと待て……子守唄って、幼女は聞かせられる側じゃなかったか?



「そんならバーさんの部屋は、」

「馬に蹴られる前にさっさと退散しようかね」


 婆さんは脱兎の速さで逃げて行った。

 オレの頼みの綱は残っている弟クンしかいない。


「それなら今日は取り敢えず僕の部屋になるのかな。まぁ僕は先に寝室に行ってるから、ベッドを作っておくよ」

「オオ、助かるぜ」


「姉ちゃんの部屋だけ離れてて、音も全然聞こえないから、準備が無駄になっても僕は構わないからね? それじゃあ姉ちゃん、おやすみ」


 弟クンはそれだけ言い残して引っ込んで行った。三人がそれぞれ並んだ部屋に入って行ったが、確かに反対側にはもう一つ寝室らしき扉が付いていた。弟クンもお茶を運んできた時から分かっていたが、ユーモアのセンスがあるようだ。



「なんなんですか、みんなしてもう……」


 居間にはもう二人しか残っていない。

 ここまでお膳立てされては、オレも期待に応えてやろうというものだ。


「きゃっ」


 オレは右手でユーたんの右手を掴み、そのまま手を引いて後ろに回る。左手を肩に乗せ、背中を少しずつ押していく。


「それじゃ、オレはユーたんをあっちの部屋までエスコートすれば良い訳だな?」


「やっ、ダメっ、ダメです……」


 ユーたんはその場で踏ん張って抵抗する。

 しばらく押してみたが、身体も強張り、割と本気で抵抗しているのを見て……オレは冗談もそこまでにしておいた。



「悪いなユーたん、やっぱ男の友情を取ることにするわ。期待させて悪かったな」

「あっ……」


 オレはそう言ってユーたんを解放した。彼女は背中を向けて俯いたままだ。

 後味が悪くならないようサッと踵を返して、弟クンが入って行った部屋のドアノブを回した。



ガチャ……


「――甚くんのバカ……」


 彼女は最後に何か呟いたようだったが、扉を開けた音でオレには聞き取れなかった。





「邪魔するぜ」

「あれ、来ちゃったのか。残念だな。まぁ半々ぐらいだと思っていたけどね」


 部屋に入ると弟クンが出迎えてくれた。部屋の中を見ると正面に据えられたベッドは……一人用で、特にベッドメイクの用意はされていないようだ。コイツ、出来るな……。

 オレは弟クンの評価を上げた。


「今日はただのご挨拶、だからな。式の当日までお楽しみは取っときたいってさ。女のこだわりには逆らわないほうが賢明だと、お前も分かるだろ?」


()()()……」


 弟クンはやけに溜めて相槌を打つ。こちらのことを値踏みするかのような感じだ。


「まぁ、そういうことにしとこうかな。……そこに座って。ちょっと話そうよ」


 そう言われたオレは、備えられていた木の椅子を180度ひっくり返して、背もたれを前に向けて座った。

 弟クンは正面のベッドに腰かけていて、男同士の話が始まる。



「ロキは姉ちゃんと随分仲が良いみたいだけど、ちょっと変な感じだよね。どんな関係なの?」

「昼間に言った内容はあながちウソじゃないんだぜ? あ、お前初めは居なかったよな……」


 台所から隠れて聞いていた気もするが、まぁ指摘しても仕方がない。


「じゃあ説明するぜブラザー。アイツはスポンサー……金主だ。オレは金を貰って、滑りでアイツの期待に応える。真名とやらを教えたら、そういう契約になったんだ」

「滑りって?」

「オレの荷物の中のスキー板は見たか? あれで雪山を滑るのがオレの仕事だ。まぁ、距離も遠いし、観客も居なさそうだから、まだ行けては無いんだけどよ……」


「雪……? そうか、斜面があれば滑れるのか……」

「やっぱここって、スキーとかそーゆー娯楽は無い感じなのか?」

「そうだね。でもそれ、楽しそうだね」


 弟クンはどうやら話の分かるヤツらしかった。雪が無いのでこの場での勧誘は我慢するが。



「僕ら家族は姉ちゃんが結婚相手を連れて来たと騒いだけど、本人は奴隷を連れて来たって認識だと思うよ。それは?」

「オレも全力で乗っかったクチだが、実際それってどうなんだ? オレは自分が想像してるような、奴隷みたいな扱いは受けてないぞ?」


「それはたぶん、ロキを一人の人間として見てるんだろうね。

 そっか、だいたいわかってきたよ」

「何がだ?」


「姉ちゃんはロキのことを、今は()()()()()()()()ぐらいで見てるんだよ。だからヒドイ扱いもしないし、僕らのからかいにも本気で応えてしまってる。やっぱり原因は僕なのかな……?」

「ロキ、後ろの額縁を見てみなよ」


 弟クンは言葉だけでオレの視線を誘導する。振り返ってみれば、ちょっと大きめの額縁が飾ってあって、そこに……



「婚姻届……マジで?」


「いや、それは僕が冗談で作った物なんだけど、それでひと悶着あってね……。

 姉ちゃんはそれがあったから、ロキのことを意識しすぎているんじゃないかと思うんだよね」


 これは確かにユーたんが見たら卒倒するような代物だ。何やらクシャクシャに丸められた痕まで付いている。それを記念に自室に飾ってる弟クンもマジで鬼畜だが、これはちょっと洒落の域を超えてるのかもしれなかった。



「姉ちゃんのことは、何とも思ってないんだよね?」

「ああ。いや、そうだな……。

 敢えて言うなら、胸が足りねえな。アイツ、お前より年上だろ?

 ママとバーさんを見るに、もう絶望的に絶壁じゃね?」


「ウチの家系には、巨乳の遺伝子は残念ながら入ってないんだよね……。

 家のためにも、僕も結婚相手は巨乳の子にするつもりだよ」

「ブラザー、それが良いぜ」


 そこまで話したところで、会話は途切れる。弟の話にはオレも思うところがあった。



「じゃあ、もう寝よっか。布団を出すから、」

「いや、それには及ばねえ。オレは外で寝るわ、その毛布だけ貸してくれ」


「えっ、大丈夫?」

「一人で風に当たりたくなったんだよ。いいから寄こせ」


 そう言って毛布をひったくる。こいつは賢いから、オレはもう何も言わなかった。

 身体に羽織るにはちょうどいい薄生地を一枚奪い取って、そのまま部屋を出ることにした。


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