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21 家族会議


「ただいま、お母さん」

「あら、()()。そちらの方が?」


「はい。ロキと言います」

「どうぞ……中に入ってください」


 母はそう言って甚六を手招きをする。久々に呼び捨てで呼ばれたことに驚いたが、私は取り留めないようにして返事をした。母は少し機嫌が良さそうに見える。


「お邪魔します。荷物はどこに置いたらいいですか?」

「あっ……お預かりしますね……」

「いいえ、これはかなり重いので、女性に持たせる訳にはいきません。……こちらに置いても?」

「あっ、はい……」


 ……信じられないかもしれないが、今のは()()()()()()()の会話だ。


 流石の甚六も緊張のあまりか、借りてきた猫みたいになっている。おかげでそれを見た私は緊張がほぐれてきた。家の応接間に入ると中央にはいつもは見ない、背の低い大きな長テーブルが置かれ、それを挟んで座席が2つずつ用意されていて、その一番右奥にはおばあちゃんが座っている。


(あれ……おばあちゃん、仕事はどうしたんだろう?)


 いずれおばあちゃんにも紹介はしなければならないのだから、一度で済むなら都合が良かった。おそらく私が連れてくると聞いて、カイが手を回したんだろう。相変わらず段取りの良い弟だ。



 甚六が入り口付近の部屋の隅に背負い鞄を降ろしている間に、お母さんはおばあちゃんの隣に座り、「靴は脱がないみたいだな?」と甚六は独り言を呟いてから左の手前の席に座った。


 私の席はどうやらその奥になりそうだと思っていると、「邪魔をするぞ」とキルトエンデも家に入ってくる。しまった、椅子が足りないと思ったが、私がのんびりしている間にキルトエンデは周囲を一瞥すると、甚六の膝の上を自分の座椅子と決めたようだった。


 カイは台所に居る気配がするが、こちらには出てこないようだった。


 これで、もう私を待つだけだ。

 最後に残った席に向かい、満を持して椅子に座った。




「えっと……この人が、ロキです。小さい子のほうはキルトエンデさんです」


「本日はお忙しい中、集まっていただきありがとうございます。ユーさんにいつもお世話になっております、甚六と申します。初めまして。今はロキ、と名乗って契約を結び、ユーさんの()()()()()()をやらせてもらっています」


 いきなり甚六は虫が這い上がってくるかのような、むず痒い挨拶をしてきた。私が全身から見悶えている間に、お母さんがそれに答える。


「ええと……らいだあ、というのは……?」

「――って意味です」


 虫を払っていたので、少し聞き逃してしまった。


 甚六の言葉でお母さんとおばあちゃんの視線が一斉にこちらへ向いて、「ほほお……」「あらまあ……」と感嘆の声を漏らしている。

 何故注目を浴びてるのか分からないので、とにかく居心地が悪くなる。



「じゃあ、そちらのお子さんが……?」

「ええ。今日は手土産として連れて来ました。

 ……つまらないものですが、どうぞ」


トンッ


 キルトエンデが両手でうやうやしく持ち上げられ、テーブルの上へと置かれる。


「はえ? わしは何故テーブルの上に立たされたんじゃ?」

「ご丁寧にどうも……」

「のわっ!」


 お母さんは差し出されたそれを受け取り、手土産は母の膝の上に移動した。



「何なんじゃまったく……土産物は物らしく、黙っておけと言うんじゃな……」


 手土産扱いされた彼女が若干涙目になってそのまま黙ってしまったので、私はフォローを入れる。


「キルトエンデさんは手土産じゃないですよ……。ここに来るまでにふとしたことから真名を知ってしまったので、それで一緒に連れて来たんです。彼女が良ければ、一緒に面倒を見ようと思っているのですけど……」



「そいつはめでたいねぇ……一度に孫が二人も増えたみたいだよ」


 返事をしたのはおばあちゃんだ。しかもちょっとゆっくり喋る、いつものおばあちゃんだった。



「ユーさんのおばあさまですね。これからよろしくお願いします」

「礼儀正しい子だねぇ……これなら、あたしも安心して死ねそうだねぇ……」

「いえいえ。まだまだお若いじゃありませんか」

「そうかい? あたしも頑張ろうかねぇ……」

「「あっはっはっ……」」


 二人は談笑している。甚六が猫を被り続けているのもおかしいが、おばあちゃんもいつも通りのはずなのに、今はひどく不自然で、何か悪いモノが付いているようにしか思えなかった。



「ウチの孫のどこが良かったんだい?」

「……二人で手を取り合って、名前を交換したんです。そうしたら、彼女は急に言葉を崩して、僕に泣いて謝れと言ったんです。すぐに分かりました。彼女は正反対の態度を取ってしまう、素直な気持ちを言葉に出来ない人なんだって」


「僕は笑うことにしました。そうしたら気持ちが伝わったのか、彼女も次第に笑って、そうして二人で笑い合いました」

「おやおや……」


「これまでたくさん女性は見て来ましたが、初対面でこれほど積極的な女性はいませんでした。その時気持ちが通じたのが嬉しかったのですが、彼女は行く当てのない僕に、お金まで出してくれました。

 だから、これからは彼女の気持ちに応えて行こうと思っています」


「そうかいそうかい。ウチの孫は良い人に巡り合えたようだねぇ……」



 おばあちゃんは若干涙ぐんでいる。甚六はさっきから嘘の言葉を並びたてているが、脚色された話は事実もたくさん含んでいるだけに、否定をぶつけるタイミングが見つからない。


 しかし、これは、恥ずかしすぎる。

 なんとか止めさせないと頭がどうにかなってしまいそうだ。



「あ、あの……甚六。私、この空気に耐えられません……!

 もう大丈夫ですから、いつも通りに振舞ってもらえませんか?

 おばあちゃんもです……!」



「……」

「……」



 そう言うと、沈黙が訪れる。二人とも笑顔のまま固まってしまい、空気も固まってしまった。

 しまった、余計だった。

 流れを切ってしまって、私はどうしようと頭を巡らせていると、そこに助け舟を出す者が現れた。



「粗茶でございます……」


 弟のカイが台所から現れ、お盆に人数分の湯のみを乗せて運んできた。祖母の手もとから順番にお茶を置いていき、配膳を終えると元来た台所へ静かに引っ込んでいった。こういう時は本当に気が利く。



ずずっ……



 おばあちゃんが口をつけると皆もそれに倣い、場の空気も一息ついたように見えた……。


 だが、そんなことは無かった。



「ウチの孫とはいつから?」


「はい。十日ほど前です。手を取り合ったのはお話しましたね。初めてお会いした時に運命を感じて、僕の方から直接ラブレターを渡しました。ユーさんにはその場で印鑑(スタンプ)を捺して頂いて。あの時は本当に嬉しかったです」

「お互いに一目惚れだったんだねぇ……」


「あ、あの……」


「その時に手違いがあって、僕たちは離れ離れになってしまいまして。ここに来るご挨拶が遅れてしまって、本当に申し訳無いです……」

「良いんだよそんなこと。気にしなくても大丈夫だよ」


「ちょ、ちょっと……」



「未熟者ですが、ここには覚悟を決めて来ました。彼女を幸せにする自信はあります。

 これからユーさんと温かい家庭を築い、」



「もう嘘じゃないですかぁああああああああああああっっ!?!?」



 私はもう我慢出来なかった。自分で自分を制御するのはやめた。

 今まで堰き止めていたモノが止まらなくなる!



「なんですかこれ? 私、奴隷を連れてくるって、前もって言いましたよね??

 みんなして変じゃないですか? ロキは奴隷なんですからね??」


「これから精一杯ユーさんを幸せにします。けっ、」


「わ~~~~~~~~!!?!!!???!???」



「なんなんですか!?

 これじゃまるで、親に彼氏を紹介しに来たみたいになってますよね??

 違います、違いますからね!?」


 そこでドッ、と空気が笑いに包まれる。おばあちゃんも笑ってるし、甚六も笑ってるし、あのお母さんまでが笑っている!?



「ユーたんっ……最ッ高の女だぜ……!」

「やめてください!! ()()()のことなんか、なんとも思っていませんからね!?」


「いやあ……あたしの孫が子連れの男を連れてくるもんだから、もう子供が産まれたのかと……」

「そんなわけないじゃないですか!!

 いつ、私が、子供を産んだんですか!?」


「今から産むんだろう?」

「産みませんからぁああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!」


「「「ワーハハハハハ!!!」」」



「も~~~~~~!!!!」


ポカポカポカポカ!!



「「「アァーハッハッハァーーーーーー!!!!」」」



「なんじゃ、この茶番はのう……」


 私は甚六の左肩に抗議を続けたが、収拾がつくまでにはお昼を過ぎるまでの時間を要したのだった……。


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