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18 高性能弟

 

挿絵(By みてみん)


 ユーセル 13歳


 ユーセル=トップライトは今でこそ王国内の最上層の暮らしをしているが、これまでは苦難の人生を歩んでいた。


 もともと祖母と両親、そして弟がいる家族構成だったが、父親が四十代半ばで先立ち、家の家計が回らなったのを機に、生活は一変した。

 祖母と母親は二人の子供に教育を受けさせることを優先することに決め、自らは七等地へ行き、13歳の私と弟のカイは、修道院に預けられることになる。


 私はまず弟と相談して、離れ離れになってしまった家族と、家計を立て直す方法を考えました。


 身分を問われる貴族や王宮の下働きなどは出来ないが、役所や入国審査といった仕事は貴賤を問わないので、私たちは学問を志しました。弟はとても優秀でそれがそのまま武器になりましたが、私はそこそこの実力止まりだったので、別の武器を見つけて磨いたのです。


 私は常に誰に取り込めば上手くいくかを考え、力を持つ男性を調査していきました。弱点を探し出して、そこにゆっくりと毒を流し込むように……甘い蜜をかけていったのです。私が可愛く振舞うと、鼻の下を伸ばしなんでもお願いを聞いてくれたので、みんなの妹になった私の出世街道は順調でした。



 その子羊たちの中には、真名すら預けた者も居ました。その者を市場で売られているような奴隷と同じ扱いが出来るほど私の心は汚れていませんでしたが、彼らはむしろ、そういう扱いを望んでいました。


 彼らは、魔法の実験台にしました。私は王国内ではただの奴隷魔法として使われていたものを、命令、探知、通信の3つの役割に分け改良し、非常に便利な魔法へと昇華させていったのです。


 それから晴れて入国審査官に就けたことで可愛く振る舞う必要は次第に無くなり、この武器は鳴りを潜めることになります。高給取りの生活は弟と二人だけでは持て余して、半年でお金は溢れるようになり。


 家族を呼び戻して、三等地に引っ越して、そこから一年半経ったのが20歳の私なのでした。






 10日前 水形の月7つ



「ただいま。お母さん、いる?」

「今は買い物に出かけてる。もうすぐ戻ってくると思うよ」


 返事をしたのは弟のカイだ。キスケ=トップライト。幼少の頃は真名を知らなかったが、魔法を進化させてから聞き出したものだ。弟とは二人きりで生き抜いた時間があるので、名を預けるぐらいにはお互いを信頼している。まぁ、便利さに負けて連絡用に使っているだけなのだが。



「そっか。実はお姉ちゃんね、ついに奴隷を買っちゃって……」

「え、またなの?」


 奴隷を買ったのは甚六が初めてだ。だから、これは弟なりの冗談だ。


「違うの~。これまでの人は、みんな親切に教えてくれた人だけなの。今度はちょっと違う感じなんですよ~」

「へぇ。どんな人なの?」


「えぇっと……なんかね、別の世界、……じゃなくて帝国よりもずっと遠いところから来たらしくて、たまに知らない言葉を使ったりするの。それから……ちょっと強引で、人の話を全然聞かなくて、常識知らずのバカで……」


 そこで彼の用意した愛の誓約書に判を押したことを思い出してかぶりを振る。あれは不可抗力の事故なのだ……。


「っ、とにかく! 彼は身寄りが無いから、家に住まわせたいんです。お金も出しちゃったし。真名も分かってるし、悪い人じゃ無さそうなので」


()()()……」



 カイは長い沈黙に入る。何か考えてる時の仕草だ。


「良いんじゃないかな。じゃあ、今日仕事を休んだのは、役所に行ってたんだね?」

「うん。申請書を取りに行っただけなんだけどね。これからお母さんとおばあちゃんに聞いてみるつもり」

「反対されると思ってるの?」

「大事なことだし、一応聞いてみないと……」


「二人とも、諸手を上げて賛成だと思うけどね。()()()()()()()()なんだし。僕もこうしちゃいられないよ!」

「あ、ちょっと……」


 カイは勢いよく飛び出して行った。いつもは冷静で、計画的に動くカイの思わぬ行動を呼び止めるのに失敗したので、私は持って帰って来た申請書を取り出す。



 奴隷登録書は本来、国に届け出るだけのちゃんとした書類が存在し、商人は書面で売買契約を結んで、市場に奴隷を売っている。真名を知る人間が増えればすぐトラブルになるため、信用が何より大事で、扱う商品も売るのは一度きりだ。故に高額になる。


 甚六のようにふとしたことで真名を知られた場合、金銭目当てで、名と身をセットで商人に売りつけられることが多いが、たとえ商人を通過しなくてもその者の末路は大抵悲惨で、貴族のおもちゃになるか、暴漢の慰み物がせいぜい良いところだ。


 だから、私は甚六を囲うことにしたのだ。

 安値で買い叩いたし、これから魔法で色々命令して、私の都合のいい存在になるのは否定出来ないが、商人に売りつけるよりかは何倍もマシなのだ。彼を地獄に叩き落とす罪悪感にも苛まれたくなかった。


 それに今まで鼻を伸ばしてきた男達と違って、甚六は傍に置いても、きっと不愉快じゃない。要するに、ちゃんとした主人になろうと思ったのだ。



 奴隷登録書は真名を記入する必要が無いので、本当に簡単な物になる。私は【主人】の欄にはユー=トップライト、【奴隷】の欄にはロキ=トップライトとそれぞれ記入し、トップライト家の印鑑を捺した。これで完了だ。商人を通さない個人的な書類なので、これだけで良い。

 提出しておくのは、無用なトラブルを避けるためだ。


 用意が整った奴隷登録書を手提げ鞄にしまった所で、買い物を終えたお母さんが帰って来た。



「あ……ユーさん。帰っていらしたんですね……」

「お帰り、お母さん。ちょっと良ーい?」

「……?」

「私ね、奴隷を買おうと思うの。家に連れて来たいんだけど……大丈夫かな?」


「……大丈夫です……家のことは、ユーさんが決めてください……」



 この他人行儀な母は、七年前に別れた時からこうなった。


 夫に先立たれ、家計が苦しくなって、二児の母の役割を放棄してしまったことがずっと母を苛んでいるのだろう。一年半前に訪れて再会した時には、母に泣きわめいて(すが)ったものだが、それでも私を拒絶した母の心境は、察するに余る。


 だけどおばあちゃんの説得もあり、私たち家族は再び一緒に暮らすことになった。

 いびつな関係になってしまって元通りにはなっていないけど、私にとってはやっぱり大事なお母さんであり、いつかこの気持ちが受け入れられるのを、ずっと待っているのでした……。



「じゃあ、お母さんは賛成ってことで……良いよね? 迷惑かけないようにちゃんと言っておくからね」


 あのおしゃべりな甚六と会わせたらどうなるか想像もつかなかったが、この母は無口な上に主体性を持ってないので、他人である甚六ではいずれ話し掛けることを諦めるだろうか。それとも、心を開くまでに至るのだろうかと妄想している私に、後ろから声が掛かった。



「あたしゃ、許さないよ」


 おばあちゃんが帰って来た。


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