懐かしの世界地図
晴れて付き合うことになった二人は、これまで以上に生活を共にしていた。具体的には、同じ部屋で生活することで電気代を節約していた。家賃を払うのもばかばかしいと考え、来年の春(あと数か月)には新しい部屋に引っ越すことにしていたのだった。
一カ月もすれば、気持ちは冷めなくともお互い今の関係に慣れてくるころである。真由はある悩みを抱えていた。それは、飛鳥が可愛すぎることだった。恋は盲目ともいうが、この場合はそれだけが理由ではない。毎日飛鳥と同じ時間を過ごす中で、飛鳥の本当の姿を何度も目の当たりにすることとなって気が付き、いつしかそれは真由の中で大きな問題となっていたのだった。可愛すぎることの何が問題なのか。それは、一言でいえば嫉妬である。真由もしっかりしているとはいえ、年頃の乙女である。自分もかわいくありたいと願うものであるし、彼氏のほうが可愛いということは複雑な気持ちにさせるには十分すぎる理由である。しかし、だからと言って飛鳥にもっと男らしくなれとも言えない。だからこそ、真由は悩んでいたのだった。しかし、アルバイト中に解決策を思いついたのだった。
二度目の春がやってきた。桜の花びらが舞い、新入生を歓迎するこの季節は何事においても“始まり”の季節である。真由と飛鳥も新居に入り、新たな我が家にこれからの生活に期待を膨らませていたのだった。その形は全く違うものになることなど飛鳥には知る由もなかった。
「ところで相談なんだけどさ、飛鳥っていつもレディース買ってたよね?私より身長低いし、私が着なくなった服着てくれない?そしたらもっと節約できるし名案だとおもうの。その、胸がきつくなったり、ウェストがきつくなっただけで、決して着つぶしたわけじゃないからね!」
「え!真由が着れなくなった服かあ。まあ、もったいないし、もらおうかな。だけど、あんまり可愛すぎるのはやだよ?かわい...中性的な恰好なのは、体に合うのがレディースしかなかったからなんだからね?!」
「はいはい。わかってますよ~。」
飛鳥が承諾したのを確認すると口に手をあて、含みのある態度で飛鳥をからかった。
「もうっ!」
「飛鳥かわいいー。」
ムニムニと膨らんだほっぺをもまれて、飛鳥の膨れ顔がゆがむ。
「あ、そうだ。せっかく今日暇なんだし、二人で新居用の小道具買いに行こうよ。」
真由が飛鳥に聞く。
「いいね!ちょうど、フライ返しとか、お玉かけるフック買わなきゃねって言おうと思ってたとこだったんだ。」
さっきまでの膨れ顔とは裏腹に一転して笑顔になった飛鳥が答えた。
「せっかくだから、私の服に着替えてからにしよーよ。ね?」
そういうと真由はパッと立ち上がり荷物をごそごそいじりだした。
「今日はいいよ~…。」
普段からレディースを着ているというのに、いざしっかりと女性の恰好をすると意識すると恥ずかしさがこみあげてくるのだった。しかし戸惑っている間に真由は準備を終えていた。
「さあ、着替えてみて。」
そこには、薄いピンクのロングスカートと、白地のセーターがあった。色合いや、組み合わせは春らしいコーディネートであった。
「す、スカート?流石に恥ずかしいよ。」
「飛鳥になら似合うと思うんだけどな~。それに今日は小物買いに行くだけだから、知り合いにも合わないし全然問題ないよ。ね?だからおねがい。」
そこまで頼まれてしまっては断れるはずもなく、飛鳥が意を決したように服を脱ぎ始める。脱ぎ終わり、スカートをとろうとすると、真由の声がした。
「初めてのスカートだから着させてあげる。は~い、左足からあげてね~。先生の肩つかまっていいからね~。」
「ちょっと、ただでさえ恥ずかしいんだから、そんな園児さんに言うみたいな口調やめてよ。」
そう答えながらも左足をあげ、順番に右足も上げてしまう飛鳥はすでに真由の術中なのかもしれない。
「一回行ってみたかったの。私、園では園児と関わる機会ないからさ。あこがれてたのよね~…。」
そんな会話をしているうちに、すっかり着替え終わった飛鳥と真由は新居を後にしたのだった。
「ねえ、これなんて便利そうじゃない?」
真由が飛鳥に、キッチンまわりの小道具の一つを提案すると飛鳥も賛成の言葉をのべた。
「いいかも。これなら、新居のキッチンでも使えるしそんなに高くないもんね。」
そんな会話を交わしているときだった。
「ママ―。うわーん。」
迷子になってしまったらしい女の子が泣きながら一人で歩いていた。
正義感が強く、保育園でアルバイトしていた真由は迷うことなく、女の子に話しかけた。
「どうしちゃったの?迷子?お名前、お姉さんに言えるかな?」
その子の前にでるとすぐにしゃがみ込み、目線を合わせながら、そのこの頭をなでて、話しかける。
「うっ、あすか、、ええーーん。」
何とか名前を聞くと、また泣き始めてしまった。そこに、迷子センターに立っていた係の人を飛鳥が連れてきた。小さな女の子、あすかちゃんを係の人に引き渡すと二人は肩のにが下りたのかホット一息ついた。
「係の人連れてきてくれてありがと。あの女の子の名前、何だったと思う?」
「どういたしまして。え?何だったの?」
含みのある問いかけに、飛鳥が怪訝そうな顔をして、問いかける。と、同時に館内放送が流れた。
“三歳の、付き合うことになった二人は、これまで以上に生活を共にしていた。具体的には、同じ部屋で生活することで電気代を節約していた。家賃を払うのもばかばかしいと考え、来年の春(あと数か月)には新しい部屋に引っ越すことにしていたのだった。
一カ月もすれば、気持ちは冷めなくともお互い今の関係に慣れてくるころである。真由はある悩みを抱えていた。それは、飛鳥が可愛すぎることだった。恋は盲目ともいうが、この場合はそれだけが理由ではない。毎日飛鳥と同じ時間を過ごす中で、飛鳥の本当の姿を何度も目の当たりにすることとなって気が付き、いつしかそれは真由の中で大きな問題となっていたのだった。可愛すぎることの何が問題なのか。それは、一言でいえば嫉妬である。真由もしっかりしているとはいえ、年頃の乙女である。自分もかわいくありたいと願うものであるし、彼氏のほうが可愛いということは複雑な気持ちにさせるには十分すぎる理由である。しかし、だからと言って飛鳥にもっと男らしくなれとも言えない。だからこそ、真由は悩んでいたのだった。しかし、アルバイト中に解決策を思いついたのだった。
二度目の春がやってきた。桜の花びらが舞い、新入生を歓迎するこの季節は何事においても“始まり”の季節である。真由と飛鳥も新居に入り、新たな我が家にこれからの生活に期待を膨らませていたのだった。その形は全く違うものになることなど飛鳥には知る由もなかった。
「ところで相談なんだけどさ、飛鳥っていつもレディース買ってたよね?私より身長低いし、私が着なくなった服着てくれない?そしたらもっと節約できるし名案だとおもうの。その、胸がきつくなったり、ウェストがきつくなっただけで、決して着つぶしたわけじゃないからね!」
「え!真由が着れなくなった服かあ。まあ、もったいないし、もらおうかな。だけど、あんまり可愛すぎるのはやだよ?かわい...中性的な恰好なのは、体に合うのがレディースしかなかったからなんだからね?!」
「はいはい。わかってますよ~。」
飛鳥が承諾したのを確認すると口に手をあて、含みのある態度で飛鳥をからかった。
「もうっ!」
「飛鳥かわいいー。」
ムニムニと膨らんだほっぺをもまれて、飛鳥の膨れ顔がゆがむ。
「あ、そうだ。せっかく今日暇なんだし、二人で新居用の小道具買いに行こうよ。」
真由が飛鳥に聞く。
「いいね!ちょうど、フライ返しとか、お玉かけるフック買わなきゃねって言おうと思ってたとこだったんだ。」
さっきまでの膨れ顔とは裏腹に一転して笑顔になった飛鳥が答えた。
「せっかくだから、私の服に着替えてからにしよーよ。ね?」
そういうと真由はパッと立ち上がり荷物をごそごそいじりだした。
「今日はいいよ~…。」
普段からレディースを着ているというのに、いざしっかりと女性の恰好をすると意識すると恥ずかしさがこみあげてくるのだった。しかし戸惑っている間に真由は準備を終えていた。
「さあ、着替えてみて。」
そこには、薄いピンクのロングスカートと、白地のセーターがあった。色合いや、組み合わせは春らしいコーディネートであった。
「す、スカート?流石に恥ずかしいよ。」
「飛鳥になら似合うと思うんだけどな~。それに今日は小物買いに行くだけだから、知り合いにも合わないし全然問題ないよ。ね?だからおねがい。」
そこまで頼まれてしまっては断れるはずもなく、飛鳥が意を決したように服を脱ぎ始める。脱ぎ終わり、スカートをとろうとすると、真由の声がした。
「初めてのスカートだから着させてあげる。は~い、左足からあげてね~。先生の肩つかまっていいからね~。」
「ちょっと、ただでさえ恥ずかしいんだから、そんな園児さんに言うみたいな口調やめてよ。」
そう答えながらも左足をあげ、順番に右足も上げてしまう飛鳥はすでに真由の術中なのかもしれない。
「一回行ってみたかったの。私、園では園児と関わる機会ないからさ。あこがれてたのよね~…。」
そんな会話をしているうちに、すっかり着替え終わった飛鳥と真由は新居を後にしたのだった。
「ねえ、これなんて便利そうじゃない?」
真由が飛鳥に、キッチンまわりの小道具の一つを提案すると飛鳥も賛成の言葉をのべた。
「いいかも。これなら、新居のキッチンでも使えるしそんなに高くないもんね。」
そんな会話を交わしているときだった。
「ママ―。うわーん。」
迷子になってしまったらしい女の子が泣きながら一人で歩いていた。
正義感が強く、保育園でアルバイトしていた真由は迷うことなく、女の子に話しかけた。
「どうしちゃったの?迷子?お名前、お姉さんに言えるかな?」
その子の前にでるとすぐにしゃがみ込み、目線を合わせながら、そのこの頭をなでて、話しかける。
「うっ、あすか、、ええーーん。」
何とか名前を聞くと、また泣き始めてしまった。そこに、迷子センターに立っていた係の人を飛鳥が連れてきた。小さな女の子、あすかちゃんを係の人に引き渡すと二人は肩のにが下りたのかホット一息ついた。
「係の人連れてきてくれてありがと。あの女の子の名前、何だったと思う?」
「どういたしまして。え?何だったの?」
含みのある問いかけに、飛鳥が怪訝そうな顔をして、問いかける。と、同時に館内放送が流れた。
“三歳の、ピンクのスカートを着たあすかちゃんがお母さまをお探しです。繰り返します・・・”
「うちの飛鳥ちゃんも迷子にならないようにおててつながないとね。」
館内放送で名前がわかったと同時に真由がそういうと、飛鳥のてをにぎった。
「もー!からかわないでよ。」
「あ、そうそう。あすかちゃんが泣いていた理由はおむつが汚れちゃったからだったよ。うちの飛鳥ちゃんは流石に大丈夫かな??」
そう言うと開いている手で、飛鳥のお尻をなでる。
「もう!当たり前でしょ!赤ちゃんじゃないんだから。からかわないでって言ってるのに。」
「ふーん?飛鳥ちゃんはあかちゃんじゃないから、おもらしなんてしないかー。あ、ところで、今日の夕飯だけど・・・」
真由が話題を変えると、二人は仲睦まじく帰宅したのだった。二人は、夕食を済ませ、長めの風呂につかると、夜も更けないうちに電気をけして寝床についたのだった。
翌朝、飛鳥は小さいころの夢から目覚めると、はるか昔に忘れかけていた感覚を思い出した。下半身から感じる不快感。布団の隙間から漏れ出る空気から、鼻の奥をツンとつくような刺激臭は布団の匂いとまじりあうと独特な臭いになり、昔の記憶を呼び覚ます。違和感の正体が何なのかなんて、とっくにわかっているというのに、それが何なのかを確認するために、飛鳥は手を伸す。股間のあたりに手を置くと、生暖かく湿ったパジャマがベトっとつき、よりその違和感の正体を確信する。しかしそれでもまだ、納得しきれない飛鳥は、その手を鼻に近づける。刺激臭によって、それまで寝ぼけていた頭がすぐに目を覚ましフル稼働する。と、同時に飛鳥は掛布団をはぎ取る。そこには、見事な世界地図が描かれていた。
「うそ…。どうして…。」
布団をはぎ取るおとに気が付いた真由が寝室のドアをあけた。
「起きたなら、朝ご飯作るの手伝ってよー。ん?布団になにかくしてるの?」
真由の足音に気が付いた飛鳥が、とっさに世界地図を隠した。しかし、とっさに隠したものだから大きな音を伴い、真由には何かを隠したようにしか見えないのだった。
真由が近づいてくると、怪訝そうな顔で覗き込んだ。
「何隠したの?みせて。」
「い、いや。その…なんでもないから、先に朝ご飯の準備しといてくれないかな?」
この場をやり過ごすためにそういう。しかし、近づいてきた真由は臭いからすべてを察した。そして、一気に飛鳥の布団をはいだのだった。
「あ!!」
飛鳥が抵抗する間もなくはぎ取られ、あらわになってしまった世界地図はもはや隠しようがなかった。
「あれれ~?飛鳥ちゃん。これは何のシミかな??」
「あ、こ、これは…。その、汗。そう、汗なの!!」
「ふーん?よく保育園にもいるのよね~。おねしょしちゃった子が、汗かいちゃったって。見れバそんなの一目瞭然なのにね。ね?飛鳥ちゃん。おねしょしちゃたんでしょ?」
「う…。ごめんなさい。」
「まあ、仕方ないわ。シャワー浴びてきなよ。その間に私が片付けてあげるから。ね?さっきは意地悪言っちゃったけど、新居にきてストレス感じていたのかもね。気にしなくていいから風邪ひく前に行ってらっしゃい。」
優しく飛鳥に促した。
こうして、飛鳥と真由の新生活は本当の意味で幕を開けたのだった。