表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/5

出会い

 20××年、4月。電車は新しい乗客がまだなじめずにどこかぎこちなさそうにしている。新社会人や新一年生が初々しくもなれない通勤通学を始めたからだろうか。その中に、例に倣って新一年生になる大学生二人がこの物語の主人公である。


 身長160センチほどでどちらかといえば小柄で、髪の毛は明るすぎない程度に染められどことなく少年のような雰囲気を残しつつも男性とは断定しにくい彼が飛鳥である。男性らしくない名前のせいからか、これまでの学生生活では、苦労していたことは想像に難くない。また、飛鳥は幼いころに父親を亡くしており、シングルマザーの手で育てられた。幼少期の苦労は明らかにほかの子供よりも味わってきていた。服装も黒いスキニーに、少し大きめの白いシャツを合わせさらに薄めの上着を羽織るスタイルであった。シンプルなファッションだが、やはり着る人によってはこれが女性的なファッションに見えるのだろう。

 飛鳥はまだ緊張もほぐれないまま電車に揺られていると、ひときわ目を引く美人と目があった。彼女こそが真由である。

 真由は誰もが認める美人である。また幼いころからなんでもそつなくこなしてきた彼女は、周囲からは少し退屈そうに見えたかもしれない。そんな才色兼備な彼女に対し同年代の子たちからは憧れといった感情が勝ったのか、あまり心を許すような関係にまで友情等が発展することはなく、益々孤高の存在になってしまっていた。

 そんな真由は飛鳥と目があった瞬間に、どことなく同じ匂いニオイを感じ取ったのか、意識こそせずとも彼女の脳裏にこの出来事が焼き付いたのだった。これは、直感というにふさわしくどこか本能的な行為であった。対する飛鳥も真由の美しさに目をとられ、意識せずにはいられなかった。やはり、いくら中世的な恰好や、言動、生活をしていても男性であることは否定できない、少なからず美人を前にすれば飛鳥の男性の顔が表に出てくるのだろう。

 こうして、まだぎこちない電車の中で運命の二人は初対面を果たす。


 一週間も過ぎると、ぎこちなかった電車も、緊張の面持ちで乗っていた新1年生たちも、すべてがそれまでそこにあるのが普通であって、もうずっとそうであったといわんばかりの顔になる。また、飛鳥と真由の通う大学も一通り学校の仕組みを説明し終えると、今度はサークル勧誘が活発になる。飛鳥と真由も当然この流れに乗り、様々なサークルの新歓に参加していた。そして、飛鳥はお菓子サークルの新歓に参加していた。

「本日はお菓子サークルの新歓に参加してくれてありがとう。一年生はお酒まだ飲めない子のほうが大半だろうし、ソフトドリンクを飲んでくださいね。では楽しんでください。」

 代表らしき人が、簡単に乾杯の音頭をとると一斉にそれぞれのテーブルごとに話し始める。飛鳥は周りの人と話しているがやはり見た目と性のギャップに驚かれている。しかし大学生にもなると、あまりそれに固執しなくなるものでもあって、居酒屋の雰囲気の後押しもあり、なじみ始めて数時間…。

「だめ…見ないで。」

 隣のテーブルに座っていた女子から聞こえてきた声が途切れる瞬間

〈じょわあああああ....ぴちゃぴちゃ....〉

 と盛大に水たまりができてゆく。わずかに震える脚の間から着ていたスカートの色を変え浸食し、行き場を失ったそれは床へと逃れていく。彼女は、間違ってアルコールを口にしてしまったのか、顔が赤らんでいて、息遣いを荒かった。おそらく、お酒に弱体質だったのだろう。それでも緊急事態で理性を取り戻し、間に合わないことを察した彼女がひねりだした言葉は弱弱しくも、その場の空気を換えるには十分だった。

 慌てて、同じテーブルに座っていた先輩たちがフォローにまわる。飛鳥は今自分にできることは何もないことを察すると、不意にそのこんことが不憫に思い始めた。

『あまり見たらかわいそうかな。』

 心の中でそうつぶやくと、目線の行き場がないことに少し戸惑いながら、もう一つ奥のテーブルに目線を向けた。すると、そこには一週間前に電車で目があった、あの女性がいたことに気が付く。しかし今回は真由の目線は、飛鳥に向けられてはいなかった。その代わり、その目線は水たまりに一点に向けられ、その表情は一瞬、彼女の上品さからはおよそ似つかわしくないような妖しい光を含んでいたように見えた。とはいえ、そんな時間はすぐに去っていき、その違和感も時間に連れられてすぐに忘れてしまった。と同時に、真由が飛鳥に気が付く。そして、話しかけようと真由が席を立った。その瞬間。

「先ほどは、少々トラブルが起きてしまいましたがすでに片付けは終わりましたのでどうかご安心ください。時間もちょうどいいので、これにてお開きにしたいと思います。」

 タイミング悪く、代表が場を締めた。

 真由は少し悩みつつも解散後の飛鳥に近寄ってきた。

「初めまして。私の名前は真由。その…多分電車で何度か見かけていて、もしかしたら家が近いのかと思って話しかけました。よかったら、貴女の名前も教えてくれない?」

 嘘をホントを織り交ぜながら自然を装って、話しかける。しかし、この時真由は一つ大きな勘違いをしていた。そう、それは、飛鳥を女の子だと思い込んでいることだった。

「名前は飛鳥です。実は、真由さんと電車で一度目があったことがあって、それで、その…、さっきは真由さんを見ていたんです。」

 飛鳥が答えるとその声に少し驚きを隠せないでいる。

「失礼を承知で聞くけど、飛鳥…ちゃん?は男の子なの?」

 真由にしてはストレートに相手のプライベートに踏み込んだ質問をした。

「そうだよね。こんな見た見たねじゃ気になりますよね。男ですよ。失望…させちゃいました?」

「…。いいえ。失望なんて。むしろ、自分の色をこんな堂々とさせて素敵だと思う。」

 驚きを隠せない様子でありながら、真由は素直な感想をぶつけた。

「…///あ、そういえばさっきの質問に答えていなかったけど、最寄りは××駅ですよ。」

 真正面から褒められて、照れくさそうにしながら場をつなげるために答える。

「え!私も同じ!!じゃあ一緒に帰りながらもっといろいろ話聞かせてよ。」

 真由がここまで他人と初対面で距離が縮んだ経験は初めてなのか嬉しそうに心を開いている。二人は帰りの電車で親睦を深めると、同じ講義をとる約束をしたりこれからも一緒に行動することになった。さらに驚くべき偶然が、なんと家が(賃貸)が隣だったのだ。


 こうして、二人の学生生活は幕を開けるのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ