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2-5

 先日と同じように世界が暗転して、なんの問題も起こらずに転移は完了した。

エルナの時はダメだったのに、俺の時は成功なんてどうしてだろう。

理由はわからなかったけど、エルナはここへはやってこられなさそうだ。

今回は一人で探索するしかないだろう。


 俺は改めて周囲を確認した。

間取りから考えてここは俺のワンルームなのだが、見慣れた自分の部屋とは明らかに違う。

部屋の中央にはあるはずの万年床はなかったし、本や衣類なども消えている。

がらんとした室内に残されていたのはパソコンやテレビなどの家電類だけだ。

どれも見覚えのある家電なので俺の物であることは確かだ、

本当にどういうことだろう? 

ひょっとしたら誰かが服や本を持っていってしまったのかもしれない。

ふと気がついてドアを見ると、鍵は開けっ放しの状態で、よく観察すれば、積もった埃の下に靴跡が無数に残っていた。

冷蔵庫やキッチンの棚が空いていることから推測するに、誰かがこの部屋に押し入って、食料と衣料を物色していった感じだ。

急に怖くなって、扉の鍵を二重にかけた。


 スイッチを押してみたけど、予想通り電気は通っていないようで電灯は何の反応も示さない。

空っぽの冷蔵庫は口を開けたまま沈黙を保っていた。

蛇口をひねっても水さえ出てこないところをみると、やっぱりここは荒廃した世界のようだ。

6リットルの飲み物は多すぎたかなと思ったけど、そんなことはなかったな。

デブの生存本能もあながち馬鹿にできないようだ。

やっぱり生命活動の基本は食料だよね。


 しばらく呆然としていたんだけど、リュックサックを背負ったままだったことにようやく気がついた。

緊張していて降ろすのを忘れていたのだ。

荷物を床に置いて、鉄パイプを握り直した。

部屋の中の確認が済むと、今度は外部の様子が気になる。

新宿の喫茶店に転移したときも、表には出なかったので外の様子はわからない。 

この部屋の窓はフロストガラスだから外の景色は見えないのだ。


 右手で鉄パイプを構えながら、左手だけで鍵を外し、ゆっくりと窓を開けていく。

次の瞬間、目の前に広がるあまりの光景に衝撃を受けて、鉄パイプを取り落としそうになった。

くすんだ風景がそこにはあった。

まるで、戦争でもあったかのようだ。

多くの建物は崩れかけていたし、焼け跡みたいに黒く焦げていた。

ベランダから上半身を出して防衛省のある方角を見る。


「なんてこった……」


 国防の要である建物でさえ無事ではなさそうに見える。

いったいここはどういう世界なんだ?


 目を転じて道を観察すると、人やよくわからない生物の骨がいくつも転がっていた。

状況によって変わってくるらしいが、人間の遺体が地上に放置されると、夏場なら1週間から10日くらいで白骨化するそうだ。

だから、これらの骨がいつ死亡したのかはわからない。

一つ言えるのは、この世界では人が死んでも弔う余裕がないということだ。

それは文明の崩壊を意味するんじゃないのかな? 

ちょっと見まわした限りでは、生きている人間は一人も確認できない。

目につくのは鳥や虫ばかりだ。

完全に怖気づいているのだけど、このまま部屋に引きこもっていては、わざわざ異世界まで来た意味がなくなってしまう。

腹を決めて、表に出なくてはならない。

俺はここまで出稼ぎにきているのだ。


 持ってきた食料の大半をユニットバスの点検口に隠し、僅かな荷物だけを身につける。

そして、身軽な恰好になって外に出ようとしたところで気がついた。

部屋の中から転移した俺は靴を履いてこなかったのだ。

玄関にだって靴はない。

これも持ち去られてしまったのだろう。

まさか靴がないなんて……。


 俺の異世界探索は出だしからつまずいてしまった。

先日の喫茶店では床にガラスの破片が散乱していた。

屋外だって似たようなものと思われる。

靴下だけで街を歩くのは危険すぎるよな……。

そういえばベランダにゴム製のサンダルがあった!

さっきはいたばかりだから記憶違いということはないはずだ。

経年劣化で一部に亀裂が入っているけど無いよりはずっとマシだろう。


装備

頭  :なし

上半身:ジャージ

下半身:ジャージ

左手 :鉄パイプ(両手装備)

右手 :――

足  :壊れかけのサンダル


 考えなしに異世界へ来てしまったと情けなくなるが、こうしてみるとRPGゲームの初期装備よりはマシかもしれない。

主に鉄パイプの部分だけね。

ヒノキの棒より攻撃力は高いはずだ。

一緒に来てくれるはずの魔法使いもいなかったけど、どうせ死んでも元の世界に戻るだけだと開き直り、俺はこの世界の探索を開始した。


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