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04 とある双子猫と老人の場合

◇双子の暮らし方①


 お母さんからお乳貰うの。

 どっちがどこを取るかでいっつも喧嘩なの。

 上に乗ったり下に乗ったりして、お乳を奪い合うの。

 上に乗ると楽しいの。

 でも下にされる事もあってムカつくの。

 だから、そういう時には双子の弟の耳、噛むの。


「ミィヤアアアアッ。」

「ンミィイイイイイッ」


 お乳争奪戦は、いつも楽しくてムカつくから、面白いの!




◇双子の暮らし方②




 お母さんが変なの持ってきたの。

 ペイッってやって、持ってきたの。

 その後からずっと、ピョンピョン跳ねてるの。

 しかもそのままどこかに行こうとするの。

 こっちは無視なの。

 無視してるの。

 ――……。

 ちょっとは遊んでいくべきだと思うのね?

 無視は駄目なの。

 そう思って触ってみたの。

 そうしたら、もっとピョンピョンするの。

 ちょっと面白いの。

 おかしいの。

 それを見たのか、弟も真似して触るの。

 もっともっとピョンピョンするの。

 面白いの。

 おかしいの。

 そう思って遊んでたら。


「ミグッ。」


 ――弟が食べちゃったの。

 それ、食べ物なの?




◇双子の暮らし方③




 弟はダメダメなの。

 ダメダメなのね?

 お母さんが持ってくるオモチャ、いつも食べちゃうの。

 勝手に先に食べちゃうの。

 食べるよりも遊ぶ方が良いの。

 遊んでから食べる方が良いの。

 それを分かってないから、ダメダメなのね?


「ミィイイイイイッ!」

「ンミャアアアアア!」


 そう思ってきょーいくてきしどーをしようとしたのに、はんこーされるの。

 発音がおかしいって言っても、別におかしくないのね?

 これは、全然おかしくないの。

 だって、きょーいくてきしどーという遊びだから、本気の教育的指導じゃないの!




◇双子の暮らし方④




 寒いの。

 冷たいの。

 冬だから?

 雪が降ってるから?

 だから、弟も寒くて冷たいの?

 おかげで、くっついても全然温まらないの。

 おかしいの。

 変なの。

 お母さんも帰って来ないの。

 ずっとずっと、帰って来ないの。

 おかげでお腹空いたの。

 しかも寒いの。

 冷たくて、寒くて、痛くて、お腹空いてて、すっごく恋しいの。

 お母さん。

 ねぇ、どこに行ったのかなぁ?




◇ダンボールの中の猫――だったもの




 家の車庫に猫が住み着いたのが、確か秋くらいの事だっただろうか。

 気付いたら子猫を産んでいたようで、数ある空きダンボールの一つで汚い子猫達を見つけた。


「またか。」


 その数は二匹。

 一匹はもう既に死んでいるようで、触れても固くなってしまっている。

 後で埋めるなりしないとならないだろう。

 もう一匹は、か細くピーピーと鳴いてるが、そう長くは保たないだろうな。

 そんな事を思ってスコップを手にしたのだが、


「――何だ、これは。」


 気付けば、子猫だったはずのものがどんどんとその姿を変じていっていた。

 思わず魂消て後退ってしまった。

 こんな事、現実であるのか?

 生えていた毛が抜け落ちていき、かわりに手足が伸びて、褐色の滑らかな肌へと変わる。

 胴体も同様に伸びていくと、肋が浮いた痩せこけた身体へと転じていた。

 極めつけはその顔だろう。

 野性味溢れるもののまだあどけなさの残る横顔は、まるで彫刻のように整っていて美しい。

 それにも思わず固まっていたが、


「ミィイイイイイッ!」


 子猫だったはずのその少年が、一声鳴いて何かを訴えかけた。

 まるで、何かを求めるかのようにして、こちらを見つめてくる。


「お前さん、まだ生きる気力は失っておらんのか。」


 寒い季節だ。

 車庫の外は雪が積り、腰まで埋まる程の積雪量で、とてもじゃないが外では過ごせない気温である。

 もともと、この辺りはいつもそうだったが、そのせいか出産場所へとこの車庫を使う雌猫が多く悩みの種だった。

 どうせ長くは生きられないし――と、好きにさせていたものの、その親猫が戻ってこなかったのか、子猫の内の片方は死んでしまったようだ。

 唯一生き残ったのは、子猫だったはずのこの少年。

 見れば、随分と必死な表情を浮かべている。


「仕方無かろうな……。」


 最近、TVや近所の噂で、人に転じた猫の保護活動が活発だと聞く。

 保護団体も次々に立ち上げられ、中にはよからぬ事を企んでいそうな場所もあるらしいが、幸いにも町内に出来た場所はまともだと聞いている。

 そこに連絡を入れつつも、目の前で人と化した少年へと着ていた上着を被せて、家の中でツナ缶を食わせつつもやり取りを交わした。

 そうして後日。


「良く来たな。さぁ、お前さんの新しい家だ。ダンボールの中は狭かったろう?好きに探索すると良い。」


 俺の家に、一匹の擬人化した少年猫が、新たな家族として加わっていた。




◇双子だった猫の暮らし方




 お母さん帰って来ないの。

 弟も居なくなったの。

 その代わりに、大きかったはずの同じくらいのに保護されたの。

 その後からずっと保護なの。

 保護されてから、ご飯貰ったのね?

 おかげで、お腹空いてたのが満たされたの。

 お水も貰ったのね?

 白いお水だったの。

 お母さんのお乳みたいな匂いだったの。

 良く分かんないけど、飲めたの。

 それがとても美味しかったの。

 喉の乾きも無くなったの!

 凄いのね?

 その後も、暖かい物も貰ったの。

 良く分からないけど、それがあると暖かいのね?

 被せられるのもあるけど、前に見た事あるのも、眼の前にもあるのね?

 速攻でその前に行ったの。

 だって、そこが一番、暖かいから。


「またストーブの前を占領しおって……。」


 そうしたら、保護してくれたのが何か言うの。

 嬉しそうな顔して言うの。

 でも、意味は分からないの。

 理解は出来ないのね?

 見た目一緒だけど、理解までは出来ないのね?

 それがちょっと不思議なのね?

 でも、暖かくてご機嫌だから喉鳴らして応えるの。

 尻尾も立てるの。

 それだけで伝わるの。

 もっと、喜んでくれるの。

 実際、こうしたらご満悦なのね?


「全く――お前さんには敵わん。」


 冷たいのも、寒いのも、痛いのも、お腹空くのも、保護してくれたのが色々と用意してくれたから、もう無いのね?

 それ、知ってるのね?

 ちゃーんと、理解してるの。

 だから、目一杯くっついておくの。

 だって、そうしていないと、居なくなりそうだから。

 弟ともお母さんとも会えなくなったみたいに、この保護してくれたのも居なくなりそうだから!

 それは、ちょっぴり寂しいの。

 それは嫌なの。

 だから、くっついておくのね!?







 とある家で保護された擬人化済みの子猫は、幾つかの注意事項と引き換えに一人の老人の家に託された。

 理由としては、もともと見つけたのがその老人であった事。

 状況的にも飼育する事に度々確認しに向かう事を了承された事。

 環境的にも問題が無かった事。

 そして何よりも、当人の強い希望があったからだ。


「なに、あんなに必死に鳴き叫ばれて、知らぬ存ぜぬを貫ける程、俺も冷酷にはなれんというだけの話だ。」


 そんな老人は、妻に先立たれてからというものの、仕事一筋で頑張ってきたらしい。

 後妻を娶る事も無く、ただ只管に仕事に打ち込んできて、早数十年。


 気付けば、定年退職と共に社会から切り離されていた。


 仕事一筋だった為に、趣味と言えるものもない。

 仕事関係以外で人脈を築いた事も無ければ、誰かと語り合えるような事も無かった。

 友人も無く、ただ一人、孤独の中を過ごす日々。

 そこに突如として起きた一つの出会いは、しかしそんな彼に変化を生み出していく。

 買い物で言葉を交わす人間が出来た。

 そこから徐々に、他の人との会話に話題を提供出来るようになっていった。

 笑顔が増え、笑い声が絶えなくなった。

 そんな中、ある日突然、倒れた。


「思えば、ずっと着いててくれたな――何か、感じるものでもあったか。」


 それを救ったのは、一匹の擬人化した猫。

 あの、冬の最中に泣き叫んでいた子猫だった存在だ。

 少年のような見た目をした彼は、しかし、飼い主たる老人の異変を周囲に知らせて、その命を繋いで見せた。

 更には、この残り少ない老人の人生に、ずっと寄り添うようにして居たという。


 たまに良くあるお話。

 たまに聞くんだけど、何故かよくある話(展開)なんです。

 それだけ、種が違っても通じるものがあるという事でしょうか。

 作中の猫が勘違いなのか、何かを感じ取っての行動だったのかは、ご想像にお任せです。

 特にその辺りは読み手の自由だと思うのです。

 妄想ふくらませるのって楽しいよね!

 特に二次創作系はこの『余地』がオリジナルに有るかどうかで決まると言っても過言じゃない。


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