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レムリアの大地 ~三十男と日ノ本娘~   作者: 大本営
第一章「アクイレイアへの道」
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第7話  冒険者ギルド「前編」

 護衛を終えたボルトたちが冒険者ギルドに入ると、ホールは男達で溢れていた。

 男、男、男。

 どこを見ても男ばかり。

 蒸せるような汗と男の匂いに、レムは顔をしかめる。

 女性もいるにはいる。

 例えばホールの一角を陣取る赤毛のパワー系女子。巨大な二振り大剣を小剣かなにかのように扱う女傑を知らぬ者はギルドにいない。噂では彼女の姿をみとめるとオーガすら我先へと逃げだすとか。実に輝かしい武勇談を持つ女傑だが性格は粗暴ではなく、同性からは面倒見の良い姉御と認識されるいるらしい。

 男を顎で使う様は女首領か女王様といったところだが、これがある種の男性には熱烈な支持を受けている。現に彼女の周り控える男達へあれこれと指図しているが、男達の表情に不満の色は皆無だった。

 その赤毛のパワー系女子はボルトを見つけるとウィンクをする。「自分の部下になれば可愛がってやるよ」と熱い視線が語る。ボルトは肩をすくめ「気が向いたらな」と答えた。実はパワー系女子はボルトにぞっこんなのだ。彼女はギルドに所属当初からボルトにラブコールを送っていた。ボルトは毎度それとなく袖にしているのだが、パワー系女子は決して諦めない。狙った獲物は仕留めるまで諦めない狼のような執拗さは、彼女の気性をよく表している。

 パワー系女子は毎度袖にされても逆恨みなどしない。

 その気風のよさもあって、ボルトは彼女に対して嫌な感情を抱いたことは一度としてなかった。

 良い女と素直に思う。

 ただし、その評価は一人の人間としてなのだ。

 三十過ぎの女日照りも一丁前に好みとやらが存在し、残念ながらパワー系女子はボルトのストライクゾーンから大きく外れていた。

 

 ボルトは無意識に誰かを探す。

 目に飛び込んできたのは金髪のエルフ女。

 赤毛のパワー系女子と並ぶ二大女傑の一人だ。指先一つで強力無比な魔術を発動させる手並みは、神の御業としか思えぬと恐れられる凄腕の魔術師。

 ロンデニア王国は宮廷魔術師として迎えようと試みてきたが、彼女が首を縦に振ったことはない。冒険者ごときが王国の要請を断れるはずもないのだが、現に金髪エルフ女は宮廷に参内していない。噂では彼女が気分を害して他国へ走るより現状維持のほうがマシ、と王国が判断しているとか。

 いや、それだけが理由ではないはずだ。

 金髪のエルフ女が美しすぎた。

 それが問題なのだ。

 彼女はエルフの中でも飛びぬけて整った顔立ちを持ち。女性らしい曲線美を維持したままエルフ特有の線の細さを併せ持つ。彼女の存在は最早芸術品の領域と断言できる。

 しかも年齢による劣化がない。

 彼女から甘い声で囁かれるなら犬と呼ばれてもいいと考える冒険者は少なくない。

 実はボルトもその一人。

 その金髪エルフ女は巨漢の男に(しな)を作って手なずけていた。


(……また別の男か)


 金髪エルフ女は多情な女性だった。

 女神のごとき美貌をもった彼女がその多情さを宮廷で発揮すれば、ロンデニア王国に収拾不可能な混乱が訪れるだろう。その未来を危惧した王妃が大反対していた。

 巨漢男の腑抜けた面をみれば、王妃の危惧が単なる思い過ごしでないのは明らか。巨漢男は己の幸運に舞い上がっているのだろうが、いずれいつまで愛の対象者にありえるのかと怯える日々が訪れるだろう。

 哀れと思うが、生憎金髪エルフはボルトなど歯牙にもかけない。

 哀れと思う感情は実のところ嫉妬の裏返し。金髪のエルフはそのようにして男たちを手玉に取ってギルド内に一定の勢力を築いていた。彼女がギルドに加入した時からボルトは密かに狙っているのだが、残念ながら金髪のエルフのお眼鏡に叶わない。

(あの巨漢の男と自分に一体どんな差があるというのだ。俺だってあいつに負けない逞しい肉体がある)

 今日も人知れず敗れた恋心に、ボルトは心を痛めていた。


 少数の女性たちは大なり小なり似たような態度で男たちと接していた。女性であることを捨てるか女性であることを武器とする。冒険者ギルドはレムのような御淑やかな少女が訪れるには刺激が強すぎる場所だった。

 レムの表情に変化はないが、それは表面上にすぎない。現にシオンの手と繋がれた手を強く握りしめている。痛いくらい握りしめられているはずなのに、シオンは文句ひとつ言わずそっとにぎり返す。イケメンすぎる態度にレムの中でシオンの好感度が急上昇しているのは、彼女の表情をみれば明らかだった。

 アレンは昨日までは自分の役目だったのを奪われたのが少しだけ面白くない。が、少しだけなのは自分以外に頼る人間ができたことを弟として嬉しいのだろう。それが男性であれば良かったのだが、残念ながらシオンは女性である。

 弟して姉の変化を喜ぶべきなのか微妙な問題だった。


(そこまで気付きながら異常さがわからないとは……)


 ボルトはアレンの未熟さに嘆息する。

 そう、シオンは僅かな変化すら見せないのだ。この場所がホームであるかのように行き交う男たちへ気さくに声をかけていく。あまりに自然すぎて声をかけられた男のほうが動揺している。不信な表情を浮かべる男達もいるにはいるが、そいつらの疑念はシオンの笑みが溶かしていく。

 金髪のエルフとは別種の魔性の女かもしれない。「こいつは誰だ?」とボルトは散々問い詰められる。「隠し子か?」「恋人にするにはちょっと無理があるぜ」「まったくだ。あれが千切れてしまうわ」などとほざいた奴らは、ボルトの鉄拳が飛んだのは語るまでもないだろう。


「――俺はこいつの保護者じゃないのだが」

「ひどいよボルト。僕はこいつじゃないよ」

「似たようなものだろう」

「違うよ。僕の名前は詩音、いい加減覚えて」

「諦めるのじゃなボルト。アレンやレムをパーティーに迎えた段階で、お主は保護者のレッテルが張られておるのだ」

 ジャックの言い分にしては珍しく道理があり、ボルトは黙るしかなかった。

「ボルトはアレンとレムの保護者なの?」

「ちょっと違うのぉ。ボルトはアレンとレムの後見人なのじゃ」

「後見人?」

「そのうち話す。いまはそれよりシオンの登録の方が重要だ」

「わかったよ」

「そうだのぉ」


 冒険者たちに挨拶を終えたシオンは、冒険者登録をするため受付カウンターへ移動した。

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