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レムリアの大地 ~三十男と日ノ本娘~   作者: 大本営
第一章「アクイレイアへの道」
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第4話  検問所「前編」

 蒼い海と空、そして広い港。

 植民都市アクイレイアはその立地条件から、多くの人と富を惹きつけ続ける魅惑の都市である。人口十万を誇る大都市は春の訪れによりその輝きを増していく。

 ボルト達が辿りついたときは祭りでも始まるような賑やかさであった。


「にぎやかな街みたいだね」

 シオン達を乗せた馬車はアクイレイアの入口にある検問所で順番待ちをしていた。厳密にはまだ街に入っていないが、行き交う人と馬車の数からアクイレイアのにぎわいを察するのは充分だった。

「そうですね。でも悪い人達も多いから気をつけないとだめですよ」

「ボルトみたいな?」

「失礼ですよシオン。ボルトさんはああ見えて悪い人ではないです」

「それは知ってる♪」

「少しくらい悪いところがあれば女性にモテルのでしょうけど」

「それも知ってる♪」


 話題にされているボルトの顔には無数の向う傷が刻まれていた。

 悪相であるが悪いところには違いない。

 向う傷は勇気の証明として男性に評価されるものの、悪相すぎて女性には不評なのだ。


「ボルトさんは向う傷を気にしすぎです」

「そうそう、僕は恰好良いと思うよ」

「シオン、その評価は少し盛りすぎです」

「そうかなぁ。『相模の獅子』と呼ばれた北条氏康公も向う傷のオジサンだったけど、渋くてワイルドだから人気だったよ」

「ワイルド?」

「荒々しく野生身に溢れるけど粗暴とは違う頼れるできる男性のこと」

「なるほど。でも、それなら相模の獅子さんが人気があるのは向う傷だからでなくて、少し悪いところがある男性だからということになりますよ」

「そこに気付いちゃ、ボルトが可哀想じゃないか♪」


(お前ら言いすぎだぞ!)


 不満を口にしようとしたところので、ボルトの肩にジャックが手を置く。

 口の減らない腐れドワーフに諭されては、ボルトも大人しく従うしかなかった。

 男は我慢、そう我慢なのである。


 女三人寄れば(かしま)しい。

 女三人寄ればと定義されているが二人であっても大差ない。普段お淑やかななレムも、陽気なシオンと馬が合うのか会話に花が咲いていた。こうなれば男は弱い。言われ放題になるしかなかった。

 護衛なのに気を緩めすぎかもしれないが、アクイレイアに入れば護衛の仕事など無いと同じなのだ。

 都市の外で武器を振るうのは自由だが、都市内部で武器を振るのは御法度である。魔法については言わずもがな。法度破りは強制労働送りと決まっており、これがとてつもなく過酷。

 以前ジャックが酔った勢いでグレートアックスを振りまわしたときなど、止めに入ったボルト共々三日間の強制労働送りをくらった。その彼等が二度と御免だと思うほどなのだ。

 アクイレイアに入りさえすれば護衛の仕事はほぼ終わりなのは、そういう理由からだった。


「シオンはアクイレイアを訪れるの始めてですよね」

「まあね。もっとも僕はロンデニア王国自体訪れるの自体始めてだけど」

「アクイレイアはロンデニア王国の北方防衛のために整備された植民都市です。アクイレイアは辺境諸都市を結ぶ重要な街道「ポストゥミア街道」で結ばれた陸路の拠点ですけど、同時に広い港を有しているため港湾においても重要な都市なのですよ」

「凄く利便性が高い都市みたいだね」

「辺境諸都市は魔物に襲われる確率も高いので、アクイレイアを拠点にする冒険者が派遣されるのです。そのためアクイレイアは交易都市ですけど、冒険者の街という側面も併せ持つ大都市として発展しています」

「一つ疑問があるけど」

「どうぞ」

「魔物なんか軍隊が討伐すればいいんじゃないの?」

「軍隊の派遣をしていると軍の規模が大きくなり維持費にお金がかかるので、ロンデニア王国はあまり積極的ではないらしいのです。そのかわりに討伐報奨金は支給してるので、冒険者はそれをねらっているのですよ」

「でも、その討伐報奨金はどこからでているの?」

「……どこからなのでしょうね」

「ふしぎだよね」


 レムは答えに窮してしまう。

 彼女を困らせる気のないシオンは、不思議がるだけで追求するのを止めた。ロンデニア王国の国民ではないシオンは金の出処までは興味がなかった。

 シオンへ得意げに説明していたレムであったが、披露している知識は彼女が通う魔法学園で受けた表面的な事実にすぎず、深い理由を知らないのは仕方ないことである。

 


「聞きそびれていましたけど、シオンはどこの出身なのです?」

「そいつは俺も気になっていたな」

「えぇ――と、日本……いや日ノ本だよ」

「ヒノモト?」

「ボルト、お主は心当たりがあるのか」

「……誰かから聞いたことがあるが思いだせん」

「俺も聞いたことない。姉ちゃん聞いたことある?」

「私も聞いたことないです」

「知っているはずないよ。遠い遠い東の果てにある武を尊ぶ侍の国、それが日ノ本だよ」

「それでか! ギルドに所属するサムライマスター『ノブツナ』から、そんな話しを聞いたことがあった」

「へぇ、僕以外にも日ノ本出身者がいるの?!」

 予想もしない返答にシオンの目が見開く。

「嬉しそうですね、シオン」

「そりゃ、嬉しいよ。こんな地の果てみたいな土地で同郷の人と会えたんだし」

「俺らにしたらヒノモトのほうが地の果てだけどな」

「アレン。貴方少し口が悪いですよ」

「ごめんなさい」


 怖いもの知らずにみえるアレンだが、実の姉であるレムには弱いらしく素直に謝る。シオンが茶々でもいれれば拗れるのだろうが、彼女もレムを怒らせたくないらしく余計なまねはしない。

 先日の一件から、このパーティーにおける影の実力者が誰か理解したのだろう。


「あのノブツナに会いたけりゃ、ギルドに行ければ会えるかもな」

「相当偏屈な爺さんという話しだったの」

「……偏屈なだけならまだマシなんだがな」

 レムの発言が途切れたので発言を控えていた男衆が喋り出す。

「ジャックから偏屈呼ばわりされるなんて相当に偏屈なんだろうね」

「ワシは偏屈ではないぞ」

「わかっている♪ わかっている♪」

「分かればよい」

「興味があるならギルドに行けばいいさ。ロンデニア王国に訪れたことないなら、一度はギルドに顔をださなければいけないしな」

 ボルトの口からギルドの名が出たことで、ジャックの表情が一瞬引きつる。もっとも一瞬だったので誰もその変化に気付かなかった。

「僕、ギルドとかいうのに所属したことないけど問題ないの?」

「問題ないわ。シオンなら大歓迎じゃ!」

 ジャックは少し不自然なくらい大きな声で答える。お前に聞いていないだろうとボルトは睨めつけるが、ジャックは聞く耳を持たない。

「少し声が大きいぜ」

「腐れドワーフの声帯は俺達と違うようだから諦めるんだな」

「でも、ボルトの兄貴」

「――ボルトもたまには真実を言うのぉ。そこの三十過ぎの女日照りでもギルドに所属できるくらいじゃ。冒険者は引く手あまたなので問題ないわ」

「三十過ぎも女日照りと、ギルドに登録するかは関係ないぞ!」

「大有りじゃわ、馬鹿者が!!」

「そういうことだぜ。シオンくらいの年齢でも実力さえあれば冒険者になれるさ。なんなら、俺が紹介したっていいぜ」

 ここぞとばかりアレンは頼れる男をアピールする。

 


 会話内容が徐々に脈絡がなくなっていく。

 シオンは困惑の表情を浮かべるが、その行為が彼らの親切心からだと理解できたので迷惑に感じなかった。

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