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レムリアの大地 ~三十男と日ノ本娘~   作者: 大本営
第一章「アクイレイアへの道」
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第2話  護衛「中編」

 ジャックが頬張るハムは、美味い保存食として冒険者に重宝されていた。保存性という意味では干し肉の方が優れるが、美味さという点ではハムに軍配が上がる。値は張るが旅のささやかな楽しみとして、少量のハムを携帯する冒険者は少なくない。

 美味いというものは何者にも代えがたいのだ。

 特に依頼人が運んでいるハムは、アルテンブルク産の名品である白い塩をすり込んで調理された垂涎の逸品。市場に出回る多くの品に比べて、三倍以上の値がするだろう。依頼人はその逸品を三つまで提供すると提案してきた。ジャックが珍しくやる気をみせて護衛依頼を取ってきたのも道理である。

 破格の提案にボルトは最初怪しんだが、以前護衛をした冒険者達が商品に手をつけたと聞かされて納得した。喰われないよう適度に手懐けておく。分からない話でないが、護衛に対してまで配慮をしなければいけない依頼人の過去に、ボルトは同情を覚えずにはいられなかった。

 そう、春の陽気で忘れかけていたがボルトは護衛の最中なのだ。


「護衛であるワシらが居眠りなどしていいのかのぉ?」

「休めるときに休むのも冒険者の仕事さ。レムとアレンは先ほどまで護衛をしていたが、今は俺とジャックに交代している。そういうことにしておけ」

「そういう話しならワシは起きてないといかんのぉ」

「当たり前だ、屑ドワーフ」

「やれやれ、三十過ぎの女日照りは口が悪くて敵わん」

「やかましい!」


 痛いところを突かれたのだろう、いままで声量を抑えていたボルトの箍が外れる。急に大声を出されたことでレムとアレンの目が覚めた。「寝てません、寝てませんから」と二人は目で訴えるが呆け眼は正直だ。ボルトは二人に小言を口にしようとしたが、結局なにも言わなかった。いままで起こさなかった責任もありばつが悪いのだろう。

 言外にジャックは護衛中は気を抜くなと、三人に警告をしていたのだ。

 大酒飲みで大喰らいの腐れドワーフだが、ベテラン冒険者の肩書き伊達ではないらしい。


「巧いね、ジャック」

「――おっ、おお」

 隣りに座って少女の讃辞にジャックの反応が遅れる。

「レムにアレンも駄目だよ、昼寝なんかしちゃ」

「寝てませんから――」

「寝てないって言っているだろう!」

「お主がさっさと注意せんから、新入りに間の悪いところを見られたではないか」

「僕は少しくらい昼寝をしていてもいいと思うよ♪」

「意地悪いわないでください、シオン」

「ごめん、ごめん」


 少女はレムからシオンと呼ばれていた。

 レムと打ち解けているのは同じような年頃の少女同士だからか。年が近いという意味ではアレンも同じだが、彼のほうは黙り込んでいる。

 異性に対して少しでも良いところは見せたいと思うのは時間や国境を超える価値観。年が近いとくれば尚更意識してしまう。それが台無しになったアレンはバツが悪かったのもしれない。

 アレンのような端正な少年がむすっとっした態度するのも可愛いいが、赤面もすればより可愛げがでて異性にモテるだろうとボルトは思う。

 若いというのはそれだけで価値がある。

 同じ行為を三十過ぎの強面親父であるボルトがしても、寄ってくる異性などいるはずがないのだ。

 人生をどこで間違えたのだろう。

 三十過ぎの女日照りの悩みは深い。


(得体の知れない小娘と同乗する、と聞いたときはどうなるかと思ったが杞憂だったか。華奢な割に薙刀とか言う化け物みたいな武器を振るい、しかもいつの間にか他の連中と打ち解けている。大した小娘だよ、まったく)


(……まったく? そもそもシオンと名乗る少女は誰だ?)


 春の陽気のためかボルトの記憶は混濁していた。

 ボルトの記憶ではシオンと出会ったのはキャラバンの護衛直前。ジャックの発言にある「新入り」という言葉もそれを裏付けている。

 春のキャラバンは冒険者を多数必要としており、少しでも数を揃えるため臨時のメンバーを加えることは割とある行為だ。ボルトのパーティーは四人しかいないため、数を揃えるため臨時メンバーを探していた。

 臨時メンバーとして加わったのがシオンだった。

 迷宮攻略や魔物討伐のような連携を密にする依頼と異なり、襲撃がなければ護衛の依頼はそこまでの連携を要しない。まったく相性の合わない奴とは組めないが、それなりの面子で構わないのがキャラバン護衛の利点。

 十四、五の少女を加えることに最初ボルトは心理的抵抗を覚えたが、シオンの腕を見せられては納得するしかなかった。

 辻褄が合う理由にボルトは納得しかける。


(いや、なにかが変だ。この違和感は一体?)


 流れ込む記憶と理性がボルトのなかでせめぎ合う。

 シオンに話しかけられたときジャックは明らかに動揺していたではないか。

 会話の流れについていっていたので気にしなかったが、あれは発言に驚いたというより少女の存在そのものに驚いたのではないだろうか。

 酔いどれドワーフであるジャックの記憶が混濁した可能性は否定できない。大言壮語を地で生きているジャックのリアクションは一々過剰なのだ。幻惑魔法を使用されてた可能性もあるが、魔術を嗜むレムとアレンの二人が疑問を抱かないとは思えなかった。


(そもそも、シオンと名乗る小娘はいつからいた?!)


 キャラバン護衛開始からシオンは同行していた記憶が徐々に剥げ落ちていく。

 この馬車に同乗していたのは舟を漕ぐアレンと瞼が半開き状態のレム、そして暇を持て余しながらハムを食べていたジャックとボルト。

 この四人だけ。

 依頼人である商人は同乗しておらず、代わりに空いてスペースに大量の商品が積み込まれた。

 他の面子もいるにはいるが、そいつらは前方の護衛車両に同乗している。

 シオンなどという少女はどこにも存在していなかった。


(何者だ、この小娘は?!!!!)


 ボルトはシオンをマジマジと観察する。

 身体的特徴からみて十四、五才。

 似たような年齢のレムやアレンと比べてもかなり低い。目測で百五十センチあるかどうかの文字通り小娘。華奢な身体の割に出るところは出ている。


 ――目移りするほどではないが。


 ボルトの視線を感じたのかシオンが両腕で隠す。

 右手に握られているのは小柄な体型に似つかわしくない槍のような武器「薙刀」。手にしているのは武器を手放したくないだけであり、幸い気分を害したのでボルトに斬りかかろうとしているわけではない。

 他意はないのだが危険を感じたボルトは視線を他に移す。

 薙刀と呼ばれる得物はハルバードに似ているが先端に独特の刃物が取り付けられている。刃の先に波打つような文様が見える。貴族連中が大金を出しそうな美しさがあるが美しさだけではなく切れ味も鋭そうだ。多彩な攻撃が可能という点ではハルバード似てるように思えるが、ハルバートは重量で叩き切ることを主してするため、刃に求められるのは耐久性である。

 切れ味を重視する薙刀は本質的に異なる武器だろう。

 冒険者として十五年以上キャリアがあるボルトも見たことのない代物、それが薙刀だった。

 このような得物を手にするシオンの技量が並みでないのは想像に難くない。


 武器に視線を移したことでシオンの警戒緩む。

 他意がないと理解してくれたのだろう。

 ボルトは安心して視線を上に戻す。

 容姿は控え目に評しても悪くない。いや、悪いと評する奴がいたら美的感覚疑った方がいいだろう。ただしシオンのそれは、美しいというより可愛いというべきもの。十四、五才という年齢を考慮に入れても童顔すぎるのが難点といえば難点。容姿だけならもう少し若く見られても仕方ないだろう。

 頭髪と同じ黒い瞳。

 黒い頭髪と瞳を持つ人間は要塞都市アクイレイアにいないでもないが、シオンのそれは漆黒もいうべき逸品だった。淡黄白色の肌が漆黒の瞳と髪を引きたてる。ミステリアス雰囲気を身に纏う少女がアクイレイアの街を歩けば、善からぬ考えを持つ人間が出ることは想像に難くなかった。


(トラブルメーカーだ、こいつは)


 ボルトは経験則からシオンに関わることが危険だと判断する。


「なぁ、ジャック」

「なんじゃ、ボルトよ」

「シオンはいつから俺達と行動していた?」

「お主寝ぼけておるのか。キャラバンの護衛を開始したときからに決まっておるだろう」

「ボルトの兄貴、もしかして眠いのかよ」

「私達がいますから少しくらい目を瞑っていてもいいですよ」


 ジャックとアレンに馬鹿にされるのは構わないが、レムにまで気を使われたことにボルトの心は傷ついた。だが、ここで不貞腐れないのが年若いアレントの差。


「俺は至って真面目だ。そもそもシオンを連れてきたのは誰だ」

「……ボルト。お主がボケるにはまだ早いぞ」

「ボルトの兄貴、やっぱり寝た方が良いよ」

「ボルトさん、その発言は少し酷いと思います」

「ひどいよボルト! あんなに僕を熱心に勧誘しておいて、僕のことを知らないなんて」

「――ちょっと待て。俺がお前を勧誘したのか?」

「僕の名前は詩音。お前なんて名前じゃないよ。もしかして、そんなことも覚えてないの!?」

 シオンは流れる涙を手で隠す。


 嘘泣きだ。

 嘘泣きに決まっている。


「最低じゃな」

「兄貴最低」

「最低です」

「……悪かった。俺が悪かったから、頼むから嘘泣きは止めてくれ」

「反省が足りんのぉ」

「兄貴反省してないよな」

「ボルトさん、反省が足りません」

 三人の影に隠れながらシオンは小さく舌を出す。


(こいつ!!)


「お主がそんな態度だから『三十過ぎの女日照り』などと二つ名をつけられるのだ」

「俺は好きで三十過ぎになったわけでも、女日照りになったわけでもない!」

「そういう問題ではないわ、この馬鹿者が!」

「そうだぜ、ボルトの兄貴」

「ボルトさん女性に対して態度がないっていません。前々から我慢していましたけど今日という今日は言わせてもらいます!!」


 三者三様の非難をボルトに浴びせたが、一番ヒートアップしたのは日頃お淑やかなレムだった。

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