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レムリアの大地 ~三十男と日ノ本娘~   作者: 大本営
第一章「アクイレイアへの道」
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第?話  初クエスト「前編」

 今日もアクイレイアの街を朝日が照らし始める。

 コケコッコウー!

 起床にはまだ早すぎる時間だが、働きものの鶏は甲高い鳴き声で朝を告げる。「もう少し遅く鳴いてもいいのに」と愚痴をこぼす人々を無視し、鶏はより甲高い声で鳴く。

「さっさと起きんかバカ者どもが」とでも主張してるのだろうか?

 畜生の分際で生意気な。

 アクイレイアの住民には不評な存在であるが、「大都市で鶏を飼うな馬鹿やろう!」と息巻いて養鶏業者に殴り込む者は一人もいない。

 交易都市アクイレイアにおいて時は金よりも価値があり、時を告げる鶏は重宝されていた。殺すなどもっての他である。鶏は時を告げる神聖な生き物であり、その神聖な生き物の卵と肉を得る崇高な権利は聖職者のみ許されていた。

 他の諸都市の事情は不明だが、アクイレイアの法ではそうなのだ。

 結果アクイレイアにおいて鶏肉と卵はより高価になるのだが、それでも市民は購入をやめなかった。日々の恨みつらみを、食すことで晴らしているのだ。そのせいかアクイレイアの鶏料理は逸品である。「朝のうたた寝を邪魔した者を重罪にする法律を作る」と放言した某提督ほどではないが、朝寝の恨みは根深いのだろう。


 コケコッコウー!

 コケコッコウー!!


 アクイレイア名物である鶏の大合唱はまだ続くが、シオンの寝室に動きはなかった。

 防音処理などはもちろん施されていない。

 鳴き声はシオンの部屋にも聞こえているはずなのだが、前夜部屋の主が横になったベットに動きはなかった。

 四畳半相当の間取りである部屋は、カーテンや床のジュータンも薄いピンク色でデコレーションされていた。家具やベットのシーツなどピンク色が調達できなかった品物は白であるが、かえってそのコントラストが強調されている。そういえばシオンは下着もピンクだったような。

 快活な性格をしている割に少女趣味なところがある。

 少女趣味は少し言い過ぎか。

 シオンは14、15歳の少女なのだ。


 寝間着姿のレムがそっとシオンの部屋に入ってくる。

「朝ですよー」

 レムはシオンに語りかけるがベットの主に変化はない。もっともレムが声量を抑えているから聞こえているか怪しいものだ。

 起こす気がないのだろうか?

 レムは足音を立てないように気を付けながら、シオンのベットへと近づいていく。穏やかな寝息に未だ変化はない。すぐ傍まで辿りついたレムは心の中でガッツポーズをすると寝具に手をかけた。


(今日こそ、今日こそは先手を取りますよ)


 寝具に手をかけたレムは布団を思いっきり引き剥がす。

 レムは勝利の笑みを浮かべたが、その表情は直ぐにひきつる。ベットにあったのはシオン愛用の抱き枕だけ。穏やかな寝息は未だ聞こえるが、どうやら抱き枕に張られた音声再生用の呪符が発信元らしい。

「……起きるの早過ぎですよ」

 レムはため息をつきながら抱き枕に貼られた呪符を剥がす。

「おはようレム。これぞ日ノ本の秘儀『変わり身の術』だよ」

「はいはい」

 呪符は剥がされたことで別の音声を流し始める。レムは相槌を打ちつつ呪符をポケットに入れようとした。

「あと窃盗は日ノ本において、十年以下の懲役又は五十万円以下の罰金と規定されているよ。レムのことだからそんな真似をしないと思うけど必ず返してね」

「――わかってます」

 多少の未練はあったが、レムは呪符を抱き枕に戻す。


 早起きをしたシオンがどこに行っていたのかは分かっている。

 早駆けに出かけたのだ。

 いつ?

 どうやって街の外に出ているのか?

 レムはそれらを知らないが、かなり早く起きているのは知っていた。もっとも鶏が日が昇ったと知らせるより早いとは予想もしなかったが。

 シオンがアクイレイアにきてから二週間。毎朝こうなのだ。雨が降ろうとも一日だって鍛錬を休んだことがない。

「騎士だってこんなに朝早く鍛錬しないのに不思議です、これでは、まるで……」

 そこまで言いかけてレムは言葉を繋られなかった。

 あまりに不吉な未来だからだ。

 それでも思う。

(これでは、なにか未知の脅威に備えているみたいです)


 レムは言葉にできなかった予感を頭を振るって否定する。

(今年のキャラバン護衛は今までなかったくらい順調です。その予兆すらないのですから、魔物の大攻勢なんてあるとは思えません。そうです。シオンは鍛錬が好きな女の子なだけです)

 心が落ち付いてきたためか、汗だらけになって帰ってくる友人の姿が予想できた。

 レムは笑みをこぼす。

 シオンは汗馬のように人目を気にせず行水しかねなかった。少女趣味があるのに女性としての自覚がどこか欠けているのだ。

 レムは衣類が収納されたタンスに近づく。

「水浴びをする友人の着替えを用意するのは、決してやましい行為ではないですよね」


 呟く自体後ろめたさがあることを示しているのだが、レムはそこまで気が回らなかった。


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