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魔法使いのユメ─Ain Soph Aur─  作者: 神代
第二章
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Act.89『妖精猫の王国ⅩⅡ』

 襲撃者を全滅させた九人の執行者は、後始末を済ませてすぐさま自分達の帰りを待つアースの住居へと舞い戻った。

 無事に帰って来た彼らの姿に少女王は安堵の息をこぼしながらも、不安に曇らせた表情でアリエル達を家の中に迎える。

「皆さん、ご無事で何よりです。……侵入者の方は?」

「すべて撃破しました。結界を破って侵入して来たのは、どうやらこれのようです」

 答えて、カイエンは回収した残骸の一部──狼型と思われる頭部の骨をアースへと見せた。

 それを見たアースは残骸の正体を察しはしたが、頭に疑問符を浮かべる。

「魔獣の骨、ですか?」

「ええ。術者の姿は確認することが出来ませんでしたが、死霊魔術によって作った使い魔を送り込んで来たのだと思われます。この国は今までに何者かから襲撃を受けたことはありますか?」

「いえ……今回が初めてです。そもそも私達の結界が破られたことが初めてでして。内側から私達が許可しない限り、破るには十日を要するほどの厳重な護りなのですが……」

 それほどまでに堅固な結界を聖霊級の霊格でもないケット・シーが創れることに疑問は覚えるが、ともあれ彼女の言葉を信用するならば襲撃を受けるような理由は思い当たらないようだ。

 であれば、今回の襲撃の意図は自ずと見えてくる。まだまだ推測に過ぎないが、アルトライトは既に相手の狙いについて結論を出していた。

「ふむ。なにやら悟った顔だな、セン君。襲撃者が何者なのかはさて置き、相手の狙いが分かったのか?」

「まだ憶測の域を出ませんが……おそらくあれは、俺達を狙ったものなのではないかと。俺達がこの国に到着した直後に襲撃が起こるなんて、あまりにタイミングが奇妙ですからね」

「ほう。では君の考えを詳しく聞こうか」

 アルトライトの考察に、カイエンは興味深そうに続きを促した。

 求められたアルトライトは軽く頷き、考えをすぐにまとめながら口を開いた。

「根拠はさっき言った通り、タイミングがあまりに不自然だからです。ケット・シー達を狙うなら俺達がいない時を狙うべき筈なのに、わざわざ俺達がここへ入った直後に襲うのはおかしい。それにこの国の厳重な結界を破れるような者が、堂々と結界の中に入った俺達の存在を見落とす失態を犯すとは考えにくい」

「しかし最初から我々が狙いならば、この国に着く前に襲撃してもよかったのでは? わざわざこの国に入ってから狙うのは手間だと思うのだけど」

 疑問を口にするソニカの意見に頷きながらも、アルトライトは変わらぬ調子で続けた。

「確かに、ここへ来る道中に俺達を襲う機会は幾度もありました。この国を探して周囲を警戒する俺達に奇襲が出来なかったからなのか、あらかじめこの国の近辺で待ち伏せする算段だったのか。まだ相手の思惑は掴めませんが、どちらにせよ俺達がこの国に入った直後に襲撃を行ったのは、なにか意味があると思われます」

「意味、ね。さて、目的がさっぱり分からんのだが。俺達を襲ってなんの得がある?」

「……さあ。現状では、これ以上の推測は難しいですね」

 淡々と答えるアルトライトだったが、彼には一つだけ仲間達に明かしていない心当たりがあった。

 必ずしもそうだという確信は持てないが、その可能性を否定し切れない一つの疑念。だからこそ説明の出来ないアルトライトの個人的な直感。

 それはあの魔獣の骸で作られた兵達を目撃した時に感じた既視感から来るものだった。骨を主体にした死霊魔術の使い手など、アルトライトの記憶の中で真っ先に思い浮かぶのは一人しかいない。

(狙いは俺なのか? ……いや、あの男にそんな事をする理由があるとは思えない)

 その既視感の正体は、現在のチームに移籍する前に遡る。

 父が率いるチームの一員として請け負っていた最後の任務で、アルトライトは数多の屍を操る死霊術師(ネクロマンサー)と一戦交えたことがあった。

 その魔術師の名は、ヴィクトル・フランシュタット。

 ある犯罪者達を追跡する手掛かりとして接触した際、身柄の拘束を恐れて抵抗した高位の骸使いである。

 しかし一時的に交戦はしたが、ヴィクトルとは情報交換による交渉の後、その身柄を拿捕することなく見逃していた。

 仮に襲撃の狙いがアルトライトだったとして、彼の恨みを買った覚えはない。むしろヴィクトルは、アルトライト達とはもう二度と関わりたくもないと吐き捨てて逃亡した筈だ。そのため彼が襲撃する理由(メリット)がまったく考えつかないのだった。

 だから今は、アルトライトらその疑念を胸の中で留めておくしかなかった。

「襲撃犯がもう一人の行方不明に関与しているのかどうかは分かりませんが、少なくとも俺達の任務が今後妨害される可能性については考えておいた方がいいでしょう」

「ふむ、そうだな。……やれやれ、少し雲行きが怪しくなってきたな。ただでさえ手掛かりが少ないというのに、これは捜索には骨が折れそうだ……」

「皆さん、姉の捜索を始められる前に少し休まれてはいかがでしょうか。ここまでの移動と先ほどの戦闘で、身体がお疲れになっている筈では?」

 リーダー達が話をまとめたところで、アースがおもむろに二人の元へ歩み寄り、休息を提案する。

 彼女としては早々に姉を見つけてもらいたいだろうに、執行者達への気遣いを優先するのは、やはり不意の襲来を受けたせいで慎重になっているのかもしれない。

「お、賛成! 俺、実はもうくたくたなんだよな……」

「ふん、情けない男ね。もう音を上げるなんて、それでも執行者の端くれなの?」

「うっせえな。執行者だろうが、疲れた時は休むのが一番だろ」

 アースの提案に早速賛同したのは阿貴だった。

 そんな彼の反応を鼻で笑うシルビアだが、まだ執行者になったばかりで余計な見栄を張ろうとしない阿貴の姿勢を、リーダーのカイエンは素直に評価した。

「ああ、阿貴の言う通りだ。今後も戦闘を行う可能性が現れた以上、捜索は万全の状態で臨みたいからな。これから三十分ほど休憩を取るということで構わないかね、セン君?」

「ええ。捜索の前に一度、打ち合わせをしておきたい考えていましたから。カイエンさん、少しお時間をいただいても?」

「いいとも。アース殿、我々が外に出ても構いませんか?」

「はい。既に民には皆さんのことを周知しているので、自由に出歩かれても大丈夫ですよ」

「それはありがたい。では、少しの間失礼します」

 アルトライトの申し出を受けたカイエンは、アースに軽く一礼を済ませて彼と共に家の外へと退出する。

 すると外に広がるケット・シー達の世界に興味を抱いていたのだろう。リーダー達の外出を切っ掛けに、阿貴が興奮気味に涼の肩を叩く。

「なあ、涼! せっかくだから俺達も外を出歩いてみようぜ!」

「……その目は俺が断っても行くつもりだろう。逆にそちらの方が不安だ、付いて行ってやる」

「ふん、そうね。そのバカが村で変なことをやらかさないように、ちゃんと見張っておかなくちゃ」

「そう言うシルビアも外に興味津々って顔だけど?」

「そ、そんなことないしっ」

 『雪花の冠(カローラ)』の面々が続々と出て行ったことで、空気を読んだメシエも翼に目配せして、自分達も外へ向かうことを促す。

 察した翼は不承不承と頷いて、アリエルへ合図として一瞥をくれた後にメシエと共に扉の方へと歩いて行った。

 そんな彼らに続こうと、アリエルも一歩踏み出したところで、


「あの……」


 突然、背後からの声に呼び止められた。

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