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魔法使いのユメ─Ain Soph Aur─  作者: 神代
第二章
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Act.88『妖精猫の王国ⅩⅠ』

 ケット・シー王国『神明』の南方。結界によって外界と切り離されている南の境界線に、異質な気配が出現していた。

 南方は大樹海に面する方角ということで民家も少なく、畑ばかりが広がっている。そこに、結界に生じた裂け目からぞろぞろと入り込んで来たのは生物ではなかった。

 それは白骨によって形作られた獣の群れだ。

 数は十。狼や虎などの狩猟に特化した獣の姿をしたその群れは、真円の眼窩を周囲に向けて何やら獲物を探すように散開を始める。

 だが群れが村の中心地へ向かう前に、九人の執行者が現場に到着した。

「な、なんだこいつら!?」

 アースに指示された場所に駆け付けた瞬間、阿貴が侵入者の姿に驚愕の声を漏らした。

 獣骨がひとりでに動いている姿など、普通ならば見られるものではない。しかし執行者ともなれば、そんな存在を目にする機会はあり得るものだ。

「……これは」

 動く骸を見たアルトライトが、阿貴とは違う意味で驚きの声を漏らす。

 だが彼が考える間もなく、骸の獣達は一斉に動き始めた。それもまとまって動くのではなく、一体ずつが別方向へ散開するように駆け出していく。

 その動きを見たカイエンが即応して、全員へ指示を放つ。

「全員、残らず破壊しろ! 一体も逃すなッ!」

 頷いた執行者達は事前に確認しておいた通り、先ずは各チームに分かれて攻撃を仕掛ける。

 『雪花の冠(カローラ)』の面々は左方の五体を目標に定め、真っ先に飛び出したのは阿貴だ。

「壊すんなら俺の得意分野だ、まとめて吹き飛ばしてやるぜぇ!」

 腰元のポーチに手を突っ込み、自前で拾い集めていた石を爆弾と化し、阿貴は放射状にそれらを投げ放った。

 タイミングを見計らい、骸の獣達を範囲に捉えた瞬間に起爆。それで一斉に粉々に吹き飛ばしたと確信した阿貴だったが、爆発の直撃を浴びて崩れ落ちた一体の他は、速度を落とさないまま爆炎の中を駆け抜ける。

「げぇっ、仕留められてねぇ!?」

「骨だからと油断するな、バカが」

 涼は隣へ悪態を吐きながらも、自分の足許から影の魔手を生み出し、さながら鞭のごとく横薙ぎに骸の獣達へと振るう。

 だが虚の空いた眼窩を持つ獣骨達はそれを見るや否や、同時に跳躍して魔手の払いを軽々と躱してみせた。

「お前も仕留められてねえじゃねえかよ、涼!」

「だがよく跳ばした。ソニカ、シルビア、下がって防衛ライン確保!」

「「はい!」」

 指示を飛ばすと同時、カイエンは腰元の剣を抜き放って弾けるようにその場から駆け、空いた左手に冷気を呼び起こした。

 そして冷気を地に振り撒くと、着地した骸の獣達は不意に脚の自由を奪われ、駆けた勢いを止められず地面に転がっていく。

 獣達の脚の関節部を瞬時に凍結させたことで、移動する術を封じたのだ。筋肉を持たず、魔力で組まれて駆動する彼らには効果覿面の対応だった。

 カイエンはすぐに一体の獣を剣で切り払いながら、後方の阿貴と涼に指示を飛ばす。

「涼は影で一体を捕獲、阿貴は残り二体を破壊しろ!」

「了解」

「あいよ!」

 涼が大地に伏せる一体の骸の獣を影の魔手で捕らえ、沼の中へ押し込むように獣自身の影に沈めていく。

 それを見た阿貴は両手に石を数多く握り、一斉に投げ放って残る二体の骸の元で起爆した。

 数多の爆炎と爆風を浴びせられた骸の獣達は全身を裂かれ、原形を留めないほどに四散していく。

「っしゃあ!」

 自身の攻撃が鮮やかに直撃した爽快感に阿貴が歓喜の声を上げる一方、『白の光明(オウル)』は見事な連携を見せていた。

 アルトライトが風を操って獣達の進路を阻み、メシエがさらに五体を自身へと引き寄せることで目標を捕捉して逃さない。

「ツバサ、アリエル、お願い!」

「ああ」

「はいっ」

 メシエの声を受け、彼女の後ろに控えていたアリエルと翼がそれぞれ二体に狙いを定める。

 アリエルは魔銃から二発の光弾を。

 翼はハクの力を借り、二本の熱線を。

 二人の攻撃に頭蓋から背骨へと撃ち抜かれた獣達は砕け散り、残った一体へアルトライトはただ手を触れた。

 すると彼の異能の力によって骨身を動かす魔力は絶たれ、バラバラになってその場に崩れ落ち、物言わぬ骸へと返る。

「……これで終わりか」

 アルトライトが目を向けた先、侵入経路となっていた結界の裂け目は修復されて塞がっており、新手が現れる様子はなかった。

 他に気配は感じられないか、念の為にカイエンはソニカへ、アルトライトはアリエルに目を配って敵の残存を確かめる。

 しかし彼女達も他に存在を確認出来ないようで、二人のリーダーは完全に敵を全滅させたと判断し、ようやくそこで警戒を解いた。

「ご苦労、みんな。村に被害が出る前に食い止められてなによりだ」

「なんなんでしょうかね、これ……?」

 カイエンの足許に散らばる獣達の残骸を拾い上げ、目を凝らすシルビア。

 骨であることは間違いないが、魔力を宿して生物のように動いていたことから、ただの骨ではあるまい。

「気安く触るんじゃないの、シルビア。もし毒とか持ってたらどうするのよ」

「お、驚かさないでよソニカ。たぶん、大丈夫……だと思うよ?」

「本当かぁ? 後で急に泡噴いてぶっ倒れても知らねえからな」

「うるさいわねぇ!」

「ばっ、ちょ、投げつけるんじゃねえ!?」

「……やれやれ」

 戦闘の直後にも関わらず緊張感のない二人のやり取りに苦笑するカイエンの元へ、アルトライト達も歩み寄って来る。

「セン君。この骨、どう思うね?」

死霊魔術(ネクロマンス)の類かと。過去にこういった魔術を扱う死霊術師を見たことがあります」

「ああ、俺にも覚えがある。これは骨に霊魂を宿して遠隔操作する使い魔だった筈だ。涼、捕らえたヤツを出してくれるか」

「出した瞬間に暴れ出すかもしれませんが」

「なに、九人で囲っていれば大丈夫だろう」

 カイエンに指示された涼が自分の足許を見やると、他の八人はその地点を囲むように円形に並ぶ。

 そして涼は影を広げ、その中に捕獲していた骸の獣をゆっくりと浮上させた。

 しかし黒い影から現れた白骨は既に霊魂が抜かれたのか力なく倒れており、暴れ出す気配は微塵も感じられなかった。

「ふむ。こうして実物をじっくりと見ると、ただの獣の骨じゃないな。詳しいわけじゃないが、これは魔獣の物じゃないか?」

「……おそらくは」

 何やら考え事でもしているのか、反応が少し鈍いアルトライトを見やるカイエン。

 知恵が回る彼の事だ、この襲撃についていろいろと考察を行っている最中だと思われる。そんなアルトライトの知恵の冴えに期待するのは後にして、今は動くべきだとカイエンは判断した。

「取り敢えずこいつらを回収して、アース殿の所へ戻るとしよう。一体何者の思惑が動いているのかは知らんが、先ずは彼女に報告しないとな」

 頷く仲間達を見て、カイエンは獣の残骸を一つずつ拾い始める。

 アリエル達も彼に(なら)ってそれぞれ散らばり、落ちている骨を集め出す中、アルトライトは捕獲された魔獣の白骨をぼんやりと見つめていた。

 彼の脳裏に()ぎる妙な既視感。

 魔獣の骸を見ているとその感覚は鮮明に感じられ、ある日の光景を思い起こされる。

(……偶然か?)

 確証はない。だが気のせいだと済ませるのは早計だ、とアルトライトの直感は強く告げていた。

 考えろ。あらゆる可能性を考えてみせろ。それが父にはない、自分だけの武器なのだから。

 そうして数少ない情報を頼りに思考を働かせながら、アルトライトは行動を次に移すべく骨を拾い、手を動かしていくのだった。


 ………

 ……

 …

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