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魔法使いのユメ─Ain Soph Aur─  作者: 神代
第二章
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Act.87『妖精猫の王国Ⅹ』

 アースと名乗るケット・シーの少女に九人が連れられたのは、道中で見かけた家々に比べて二回りほど大きな木造家屋だった。

 おそらくは彼女の自宅だと思われるが、大きさ以外には他の住居と造りに大差はない。王を自称するほどの者が住むには、少々質素に感じるような慎ましい邸宅だ。

「さあ、どうぞお入りください。大したものはありませんので、遠慮なさらず」

 謙虚な姿勢の少女に促され、九人は玄関口から家の中へと導かれる。

 入ってみると、外見から受けた印象と変わらず中の様子も質素なものだったが、そこには人間の住居と似通った光景が広がっていた。

 テーブルや椅子、タンスなどといった人間用の家具の数々が揃えられた広いリビング。とてもネコの妖精の家とは思えない人間じみた生活空間がそこにはあった。

 全員がリビングに入ったことを確認すると、少女は何やら申し訳なさそうに口を開く。

「すみません。流石にこれほどの人数となると、全員分の椅子を用意出来なくて……」

「い、いや、お構いなく。我々は話を聞ければそれでいいので。このまま立たせてもらいます」

 カイエンの返答に頷いたアースは、自分用の椅子に腰を据えて執行者達をゆっくりと見回した。

 獣の耳と尾を持つ以外は、彼女はどこから見ても人間の少女のようにしか見えない。

 本当にケット・シー族なのか、と誰もが疑念を抱いているのをアースは察したのだろう。

 微笑みながら、集団の中心にいるアルトライトとカイエンを見つめて話を切り出した。

「本題に入る前に、先ずは我々ケット・シーについて、皆さんへ簡単に説明した方が良いかもしれませんね」

「「……」」

 無言の肯定を返す二人のリーダー。

 いくら正体不詳の存在だったとは言え、こればかりは予想外だ。ネコの妖精と思いきや、彼らはほとんど人間と変わらぬ容姿や生活をしているのだから。

「皆さんの知る伝承では、我々はどのような存在として語られているのでしょうか?」

「……二本足で歩くネコで、人間のように王国を作って暮らす妖精だと」

 アルトライトは調べた限りで得られた情報を、そのまま口にしてみる。

 するとアースは少し考えるように黙った後、現代の人間達が知らない真実を明かし始めた。

「おそらくそれは昔の我々の姿のまま、現代にまで伝わっているのでしょう。確かにかつては獣に近い姿で生活していた時代がありましたが、今はこの通り耳と尾だけを残し、我々はヒトに近い姿となって暮らすようになりました。こちらの姿の方が生き易いですからね」

 そう言って部屋の中にある家具を一瞥する彼女に、執行者達は何となく納得する。

 魔界、特にセレスティアルでは幻想生物と呼ばれるヒトならざる者達との共存を謳い、同じ領土で暮らしている。そんなセレスティアル国外でも、故郷を離れた幻想生物達が人々に混じって生活している姿も現代では珍しくないくらいだ。

 しかし現実として、この世界を支配しているのは人間である。いくら共存を唱えていても、この世界を創り、秩序や文明を築いたのは人間達だ。世間に広まっている道具も人間が扱うために作られており、必然的にこの世界で最も生き易いのはヒトということになってしまう。

 故に彼らケット・シーもそんな環境に適応して変化を遂げたのだろう。マナの薄れる人界では成せなかったヒトへの変貌。それに合わせ、彼らの生活様式も人間達に近いものへと変わっていったのだと思われる。

 この閉ざされた国の中で起きていたその異変を外の世界の人間達は知ることもないまま、彼らの姿を現代に伝えていたというわけだ。

「獣かヒトか。どちらの姿を選んだのかは妖精の中でもそれぞれの種族によって異なりますが、この魔界で暮らすことに決めた我々はヒトに寄り添うことを選びました。それがこの国で生きる我々ケット・シーの現状です。ご理解いただけましたでしょうか?」

「……ああ、貴重な話を聞かせていただいたよ」

 全員の感想を代弁して、カイエンが答える。

 そんな彼に柔らかく微笑んで見せたアースは、おもむろにその幼い顔立ちに不相応なほど神妙な顔──王としての威容を現して、厳かに本題へと移る。

「では、我々のことを知っていただいた上で、改めて自己紹介を。私の名はアース。この国で王の一人としてケット・シー達を束ねている者です。この度は私の依頼に応えていただいたこと、皆さんに感謝致します」

 深々と頭を下げる幼い少女の姿に未だ戸惑いを覚えながらも、アルトライトは彼女の素性を踏まえた上で確認を取る。

「王の一人、ということは君以外にも王がいるという認識で間違いないだろうか。そして君が依頼したのは、他の王を捜索するということになるのか?」

「はい。皆さんに捜索していただきたいのは、十日ほど前から行方不明になっているもう一人の王……私の姉になります」

 そこからアースは、簡単に今回の依頼の経緯を執行者達に語り始めた。

 このケット・シーの国『神明』は、双子の女王によって治められている妖精郷だという。王と言っても、人間達の王侯貴族のような存在ではなく、あくまでもケット・シーの中におけるリーダーという意味合いになるらしい。

 個人の自由を尊ぶケット・シーと言えども、一族をまとめるリーダーは必要だ。しかしアースの姉は、そんな一族を代表する立場でありながらも人一倍自由を好む性格だった。

 日頃から度々この国の外へ脱け出しては、数日どこかを徘徊していることも珍しくなく、時には人間達の市井にも忍び込むことがあったようだ。

 今回もアースは当初、姉がいつものように何も言わず一人でどこかへ出掛けているのだろうと思っていたらしい。だが姿を消してから五日が過ぎ、そして一週間が経っても姉は国に戻らず連絡が取れなかったために、非常事態だと判断したアースは古くから付き合いのあったセレスティアル王家の力を頼ることを決めたのだそうだ──

「姉は自由奔放な性格ですが、それでも外出すれば数日もせず帰って来るヒトでした。しかし姉が姿を消してから十日……念話にも応えず、気配も捉えられないまま。生きていることは確実なのですが……」

「失礼ですが、どうしてそう言い切れるので?」

 確信を持った少女の言葉に、カイエンが問う。

「この国の結界は私と姉が作り、管理しています。たとえ意識を失っていても、命を失わない限りは結界が消えることはありません。結界の様子から察するに、姉の状態は解りませんが命に別状はないようですので。……しかし、姉の身に何かが起きていることは間違いないかと。

 本当ならば私の手で捜索したいのですが、姉が不在の分、国の結界の維持に力を割かざるを得ず……」

「お任せを。そのための我々、執行者です」

「……そうですね。実に頼もしいです。流石はマスターの──」

 その時、アースの耳が何かに反応したように微かに動く。

 直後に少女の視線も鋭く動き、ここではないどこかをじっと見つめ始めた。

 彼女のただならぬ様子に不穏な気配を感じたアルトライトが、目付きを変えて訊ねる。

「なにを察知したんだ?」

「……結界の南方から、何者かが侵入しました。しかしこの気配は人ではないような……?」

「我々が確認に向かいます。正確な位置情報を教えていただきたい」

 アースへそう進言するカイエンの考えを読み取り、執行者達は一斉に顔色を変えた。

 自分達とは違い、強硬手段で結界を突破して来た存在。それが何者であるのか、ケット・シー達に代わって確認するべく、彼らはアースの指示に従って現場へと急行する──

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