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魔法使いのユメ─Ain Soph Aur─  作者: 神代
第二章
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Act.75『聖王の依頼Ⅴ』

 セン・アルトライト・ウォーノルンは頭痛を覚えていた。

 休暇も十日続くと流石に腕が鈍ると、本部の施設を借りて鍛錬に励んでいたところへ、“管理者”から突然呼び出しが掛かった。

 いよいよ次の任務についての連絡だろう。少し長い休暇ではあったが、新人ばかりが所属するチームとなれば相応の期間と言えた。

 そう思い、新たな任務の内容に期待しながら意気揚々と母のいる執務室を訪れたアルトライトは、わずか数秒で頭を抱えたくなる事態に遭遇することとなる。


「いやー、大きくなったわねアルーっ! 背もすっかり抜かされちゃって、お姉ちゃんはとっても嬉しいぞぉー!!」


 アルトライトには、実は二十ほど歳の離れた姉がいる。名を、朔夜・ウォーノルン。

 母親や彼女の従兄に当たる人物に因んだという名前を持つその姉は、母の執務室で数年ぶりに再会するなり、立派に成長した弟を抱擁して全く放そうとしなかった。

 頭痛どころか眩暈まで覚えそうだ。ついでに身体に遠慮なく押し付けられる柔らかい感触は、悲しいくらいに控えめだった。

「もういい加減に放せよ、姉さん……鬱陶しい」

「お? 会わない間に言葉遣いがすっかり乱暴になったわね? うんうん、男の子はそうでなくちゃ」

「おい、余計に抱き締めるなよ」

 引くほど機嫌の良い姉に抵抗する気力が削がれたアルトライトは周囲に助けを求めるが、姉弟の再会を母親は嬉しそうに眺め、従兄は同情の視線を送って来るだけで我関せずの構え、プレアデスは空気を読んでアルトライトが来る前には既に退室してしまっていた。

 ──ダメだ、誰も頼りにならない。

 大きく溜め息を吐いたアルトライトは最終手段として自身に風を纏わせ、強引に姉を剥がそうとしたが、その風は姉の手で一瞬にして無効化された。

「んー? お姉ちゃんも魔法を無効化出来ること忘れちゃってた? もうちょっとお姉ちゃんと触れ合えるチャンスを楽しみなさいよぅ」

「ああもう、面倒くさいな!? さっさと離れろよ、姉さん! そんな貧相な胸を押し付けられても楽しくなるかっ!」

「おう、誰の胸が気品溢れる素敵な貧乳だってぇ!? 貧乳はステータスなの、希少価値なの! 千陽くんにいずれ大きくしてもらう予定なんだから、今のうちにこの希少価値を味わっておきな──」

「んな予定ねえよ」

「きゃうっ!?」

 足早に歩み寄って来た千陽に後ろから手で思いっ切り叩かれ、頭を押さえて蹲る朔夜。

 その間にようやく解放されたアルトライトは姉から距離を取りつつ、今度は捕まるまいと身構える。

 そんな一連の流れを見ていたユウヒは、今にも転げ回りそうな勢いで大笑していた。

「あっははははは、はは、あはは! あんた達、相変わらず揃うとコント集団みたいで面白いわねっ」

「変なくくりはやめてくれよ、母さん!」

「……そうですよ。少なくとも俺を含めるのはやめてもらえますか、ユウヒさん」

 二人の青年からの抗議に、どうにか笑いを治めながら適当に相槌を打つユウヒ。

 数年ぶりの娘の帰郷は喜ばしいが、そこへ息子と甥っ子が加わるのは壮快な気分だ。夫や兄姉がいないのは残念ではあるが、こんなにも家族が顔を揃えるのはユウヒにとって久々のことだった。

「ま、朔夜も千陽も元気そうで何よりだわ。あんた達のことだからケガや病気の心配なんてしてないけど、たまには近況報告に手紙とか寄越しなさいよ。仕事が忙しいのは解るけどね」

「うぅ……ごめんね、お母さん」

 よろよろと立ち上がりながら謝辞を述べる朔夜。

 肉体が少女期のままでいるせいか、娘は年齢のわりにまだまだ子供っぽい一面が目立つ。まあ、久々に可愛がっている弟に会ったせいで、テンションのネジが飛んだというのもあるだろうが。

 とは言えどれほど歳を重ねても、母にとって我が子は可愛いものだ。

「千陽も、たまには母親に手紙でも書いてあげたらどう? あの子、絶対喜ぶと思うけど」

「……どうやって違う世界にいる相手に手紙を送れって言うんですか」

「そりゃあ、直接行って手渡しとか。あんたならむこうに行くくらい余裕でしょ?」

「手紙を書くだけでも気恥ずかしいのに、直接渡すなんて余計に無理ですよ……」

「……はぁ。千陽ももう良い歳なんだから、いつまでもそんな青臭いこと言ってるんじゃないわよ。あんたの父親なら、こういう時は文句を言いつつも書いて送るわよ?」

「そりゃリアリストを気取っているけど、根はロマンチストですからね。あの人」

 取り付く島もない甥に呆れつつ、ユウヒはふて腐れている息子を見やって、彼をわざわざ呼び寄せた用件を口にした。

「さてと、それじゃあこの四人で今日は盛大に食事会でもしましょうか! 朔夜と千陽は夜までこっちにいるみたいだし」

「……初耳なんだが?」

「ええ、アルトには今初めて言ったもの」

「まあ、いいけどさ……」

 てっきり新しい任務の受領かと思って期待していたアルトライトは、表情に出さないよう気を遣いながらも落胆した。

 今頃も父は任務に務め、どこかで戦っている筈だ。それを思うと、何だか焦りにも似た不安を感じてしまう。

 ──自分は一体いつになったらあの背中に追い付けるのだろうか、と。

 そんな不安を隠す従弟の様子に気付いた千陽が微笑んでいると、執務室の扉の前に虹色の閃光が鮮やかに現れた。

 そこには主の傍を離れた大聖霊イリスが降り立ち、室内の様子を一目見て理解しつつ、深々と頭を下げた。

「団欒中、水を差して申し訳ありません。ユウヒ様に緊急にお伝えしておきたいことがあって伺いました」

「緊急? それって何か重大な案件かしら?」

「いえ、そういうわけではないのですが……特務執行科に任務の依頼が舞い込んで来まして。その依頼主が、セレスティアル聖王猊下なのです」

「聖王の?」

 イリスはユウヒ以外の三人がいることを承知の上で、聖王が“長”へ依頼した内容を口頭で伝えた。

 ──聖セレスティアル王国領内にあるケット・シーの国で、行方不明の王を捜索して欲しい。

 内容はシンプルであるが、一国の王を捜索するという事と聖王直々の依頼とあって、扱いに関しては慎重さが求められる。しかし急を要する任務であることは明白だった。

「成程ね。解ったわ、じゃあその任務については優先的にチームを選抜して──」

「だったら俺達が引き受けるよ」

 そう声を上げたのはアルトライトだった。長い休暇で暇を持て余し、新しい任務に飢えていた彼にとって、たった今舞い込んで来た任務は実に好都合なものだ。

「そろそろ休暇に飽きてきたところだ。探索能力についても俺達なら問題はないし、適任なんじゃないか?」

「……まあ、アルトとアリエルは感知能力に長けているし、確かに能力的には適任だとは思うけど。でも聖王直々の依頼よ? 新人達に背負わせるには責任が重過ぎるんじゃないかしらね」

 ユウヒの意見も一理あった。

 能力に問題はないとは言え、『白の光明(オウル)』はまだまだ若いチームだ。大国の王からの信頼に応えられるほど、実績も経験も身に付いてはいない。こればかりはやる気だけでどうにかなる問題ではない筈だ。

 そんな母の正論を聞かされてアルトライトが言葉を返せないでいると、思わぬところから助け舟が出た。

 先ほどアルトライトの不安に一人気付いていた千陽が、従弟の背中を言葉で押してくれる。

「良いんじゃないですか、ユウヒさん。アル達に任せてみても」

「千陽……そうは言ってもね。アルト達のチームはまだ一回しか任務を経験していないのよ。新人達もいるし、もう少し気楽にやれる任務があるんだから、無理をさせる必要はないわ」

「じゃあもう一つ、それなりに経験のあるチームでも同行させれば良いのでは? 俺は執行者の仕事についてあまり詳しくないですけど、別に一つの任務にチーム数の制限があるわけではないんでしょう?」

「それはそうだけど……はぁ。千陽に説得されていると、何か言い回しから父親の影がチラついて苦手だわ。まったく、そういうところは父親譲りなんだから……」

「それ、俺には褒め言葉になりませんよ」

 拗ねる千陽に傍らの朔夜がニヤニヤと笑い、アルトライトは顔に喜色を浮かべて従兄を見やる。

 そんな彼らを前に考え込むユウヒへ、イリスは失笑しながら訊ねた。

「どうなさいますか、ユウヒ様」

「……仕方ないわね。当人のやる気を酌んで、任務を振ってあげるわ。明日の午後には正式な令状を出すから、みんなには伝えておきなさいよ?」

「──ああ、ありがとう。母さん」

 笑みをこぼしつつ、アルトライトは母へとしっかりと声を返した。

 チーム『白の光明(オウル)』。その次なる活躍の舞台は聖セレスティアル王国領内、ケット・シーの国。

 東方の聖域と呼ばれる地へ早速思いを馳せるアルトライトを、従兄と姉は楽しそうに見守っていた。

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