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魔法使いのユメ─Ain Soph Aur─  作者: 神代
第二章
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Act.73『聖王の依頼Ⅲ』

 セレスティーナ家の暫定当主が出奔することになった経緯はともあれ、消息を絶った時期と彼らの人数、一人の特徴が一致している以上、確かにアテナの推測は正しいのかもしれない。

 話を聞いたレイアでさえ、半ば確信を得られるほどに筋は通っているが──

「アテナ。貴女は、その彼らが率先して人々から魂を奪うような方々だと思いますか?」

「い、いえ……少なくともアルティス様はとてもお優しい方でした。王城の中でも評判は良く、悪い噂など聞かないほどの人格者で。お母様が彼をあの子の後見人に選んだのも、そんな彼を信頼してでしょうから……」

 となれば、もし仮にアテナの言う彼らであるのならば、彼らは『トゥーレ』によって都合の良い手足として扱われている可能性が高い。何らかの理由で『トゥーレ』に従わざるを得ず、心を殺して魂の蒐集を行っているのだろう。

 レイアは例の六人の実行犯について、そんな印象を抱いた。

「よく勇気を出して話してくれましたね、アテナ。ですがその件については、こちらで詳しく調べてみます。貴女は当面、ケット・シー達の依頼に意識を向けていなさい。『トゥーレ』に関して考えるのは、その後で構いませんから」

「……はい、レイア様」

 俯くアテナの頭を優しく撫でながら、レイアは様々な事情が複雑に絡み合う現状に、苦い想いを覚えた。

 しかし、自分まで気を落としていても仕方がない。アテナを元気付けるためにも、やはり自分が彼女を導いてあげなければ。

「さあ、話はお終いです。取り敢えず食事の席を用意しませんと。イリス、任せても構いませんか? 私はアテナ達をもてなしていますので」

「承りました。要り様がありましたら、遠慮なくお呼び掛けください。それでは失礼致します」

 イリスが虹色の光を散らして去ると、レイアはアテナの手を取って立ち上がらせる。

 席に着いていたので目測では大まかにしか解らなかったが、目の前に立たせるとアテナの成長が如実に感じ取れた。

「ふふ。一年でまた背が伸びましたね、アテナ。幼い頃は小さく可愛らしかったのに、もう私とあまり変わりませんよ」

「そ、そうみたいですね」

「小娘だったのはお前もだがな、レイア。小僧に常に付いて回っていた甘ったれのお前が、今ではすっかり老いぼれのような事を言うようになりおって」

「あ、甘ったれって何ですか」

 気恥ずかしくなって抗議するレイアを一笑に付した八雲は、隣で呆れているアイギスを見やった。

「アイギス、(オレ)も少し席を外す。二人の面倒を任せるぞ」

「え。八雲様、一体どちらへ行かれるおつもりで?」

「なに、いつも王城から変わり映えのない景色を眺めさせられているのだ。たまには外で物見遊山をしても構うまい」

「……はあ、分かりました。くれぐれも騒動は起こされないようお願いしますよ」

(オレ)を何だと思っているのだ、お前」

「八雲様が若い時分の頃は随分と乱暴者で迷惑を被ったと、照様から伺ったことがありますが」

「……まだ根に持っているのか、姉上は。解った解った、騒ぎを起こさねば良いのだろう」

 過去の汚点を持ち出されて気まずいのか、八雲はアイギスの要求を素直に受け入れて、空気に溶けるように姿を消した。

 そんな彼の退場に安堵の息をこぼしつつ、レイアはアテナの手を取ったまま一歩を踏み出す。

「では私達も行きましょうか。ここには貴女にまだ見せたことのない庭園があるのです。そこで貴女の日頃の話を聞かせてください」

「……はい、分かりました。レイア様」

 空間転移を用いず、仲良く手を繋いで歩き出した聖女と聖王の後ろ姿を眺めて微笑み、アイギスも続く。

 母娘と言うよりは姉妹のようだが、両親を失っているアテナにとってレイアは唯一心を開くことの出来る家族だ。

 彼女が王位を継いでから一年。その小さな双肩に重荷を乗せていた疲れを、聖女との交流でどうにか和らげて欲しい。

 主を想い、そう思わずにはいられないアイギスだった。



 休暇を満喫するアリエル・アイン・ウィスタリアの姿は、いつぞやのカフェの一席にあった。

 最初に訪れた店だからか、すっかりこの店に愛着を抱いてしまった彼女がテーブル席でミルクティーとケーキに舌鼓を打っていると、同じく店の常連である二人の知人と出会(でくわ)してしまう。

「おや。今日も来ているのですね、アリエルさん。おはようございます」

「おはようございます。すっかりあなたも常連ですね」

「あ、おはようございます。孔明さん、メリッサさん」

 白衣を身に纏った小柄な少女と、それに従う白衣の女性にしっかりと一礼するアリエル。

 魔法医療科のトップ、“管理者”の諸葛孔明とその補佐のメリッサ・A・アリスフルス。

 休日のうちにこのカフェで何度も会っているので打ち解けて来ている大事な知り合いだ。流石に目上の相手を友人と呼べるほど、図々しくはなれない。

「相席、構いませんか?」

「どうぞ」

 アリエルの対面に腰を下ろした二人は、そのまま流れるように注文を早々に終えて一息を吐く。

 何だかその溜め息に疲労の色が滲んでいるような気がして、疑問に思ったアリエルは訊ねてみた。

「なにかあったんですか?」

「なにかあったと言いますか……なにも起こらないことを願っていたと言いますか。今、上の方で要人の方々が集まっていまして、医療科はちょっとした厳戒態勢の最中だったんです。急病人が出ないかどうか、ずっと気を張っていたので疲れてしまったんですよ……」

 よほど気疲れしているのか、孔明は溜め息交じりにそう漏らした。メリッサも同感なのか、彼女の失言を注意する様子はない。

 そんな機密事項を末端の執行者に話してしまって大丈夫なのかと思わなくもないが、彼女達がアリエルをそれなりに信用してくれているのだろう。

「その言い分と、お二人が下りて来られたということは、もうその集まりは終わったんですか?」

「はい。つい先ほど会談が終わったとの連絡がありまして、こうして息抜きに。……ケーキ、美味しそうですね」

 孔明の目がケーキを捉えて離そうとしないほど、甘味に飢えているらしい。いつも礼儀正しい彼女がこれほど砕けているのだから、きっとアリエルの想像を絶するほどの緊張感の中にいたのだろう。

 しかしこのケーキはお気に入りの品なので、どうか自分の注文が届くまで我慢していて欲しい。

「そう言えばアリエルさん、任務から帰られて一週間以上になりますね。そろそろ次の任務が与えられる頃ではないでしょうか」

「そうなんですか? 私、休暇が初めてなのでどれくらい間隔が空くのかは分からなくて」

 メリッサが言うには、休暇の期間は事前の任務の内容によって決められることが多いようだ。そして新人は与えられる任務が慎重に選別されるので、必然的に期間が少し長く空いてしまうらしい。

 その間に怠けることなく自己鍛錬に努めたり、執行者としての意識を保持出来るのかどうかが、新人の今後の成長に関わる分水嶺になるのだとか。

 そんな話を聞いて自分の事を振り返ってみたアリエルは、何故か苦笑を浮かべていた。

「どうかしました?」

「い、いえ。別に」

 小首を傾げる孔明に、アリエルは言葉を濁してカップに口を付ける。

 鍛錬を怠ってはいないものの、この休暇中は気を抜けばついつい家のことを考えてしまっていた。

 師匠達は今頃何をしているのだろう、と何度も思い耽ることがよくあった。言うなればホームシックというヤツだ。

(うーん……仕事しないとまずいなあ)

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