Act.68『四国会談Ⅲ』
「昨今、我々とクラウンヴァリーが警戒していた集団、仮称“魂の蒐集家達”について、一つ報告があります。先日、私の部下から報告があり、彼らと『トゥーレ』の関連の確認が取れたとの事です」
レイアの言葉に、グラン帝は渋い顔で口元の髭を撫でる。
「ふむ、『トゥーレ』か。厄介な連中が背後にいやがったもんだ……そりゃ聖女も目を付けるわけだぜ」
「その名を聞くことはここ二十年ほどありませんでしたが……彼らが活動を始めたとなると危険ですね」
「うん。警戒は強めた方が良いだろうね」
グラン帝に続き、キアラとキエレも神妙な面持ちで危機感を抱く。
だがそんな彼らとは対照的に、まだ王位に就いたばかりのアテナは申し訳なさそうに手を挙げた。
「あの……水を差すようで申し訳ありません。『トゥーレ』と言うのは一体何者なのでしょうか? 私、この場で初めてその名前を聞いたので……」
「無理もありませんね。キアラさんが述べられた通り、彼らは二十年前から、活動の形跡が見られませんでしたから」
最後に活動が確認されたのは、まだアテナが生まれる前の話だ。彼女が知らないのは当然のことだが、今は一国の王である彼女は知っておかなければならない。
レイアは他の二国の長へ目を配って同意を得てから、アテナのために『トゥーレ』という存在について語り始めた。
「『トゥーレ』とは、半世紀ほど前に結成したとされ、確認されているメンバーの誰もが魔導師ばかりという危険な集団です。集団と言っても、普段は各自での活動が目立つのですが……ある目的においてのみ、メンバーは互いに協力し合うことを誓っているようです」
「……目的、とは?」
「“大偉業”。彼らは自分達の活動をそう呼称しています。その活動の目的が、“聖遺物”と呼ばれる代物の製造なのです」
「レリ、クイア……?」
「要は伝説級の魔術道具の事だ。聖人を刺した槍だの王を選ぶ剣だの、そういった昔話に出てくるようなアイテムを下地にしたヤツだな。ま、伝説と言ってもほとんどは旧世界から伝わるモノだがよ」
グラン帝の説明に、アテナは理解の色を示す。
“聖遺物”とは呼ばれていないものの、そういった伝説級の道具ならばセレスティアルにもいくつか伝わっている。八雲が所有する大太刀もその一つだった筈だ。
「伝説級と例えるように、“聖遺物”はその表現に相応しい力を具えています。しかしそんな代物を製造するためには、多大な代価が必要となるようなのです。それ故、彼らは過去に三度も大事件を引き起こして来ました」
その三度の記憶を持つグラン帝、キアラ、キエレはそれぞれ苦い顔を浮かべて口を閉ざす。
彼らがそんな反応を見せるのは、三度のうち二つの事件で数多くの人命を失うという悲痛な経験を味わっているからだ。冷静な面持ちのレイアでさえ、『トゥーレ』には並々ならぬ感情を抱いていた。
「製造方法の内容は、“聖遺物”によって異なるようです。今回はおそらく、無数の人間の魂が関係していると見るべきでしょう」
魂の蒐集。明確な意図で行われているそれは、過去二つの惨劇に並ぶ凶行である。数多くの人命を脅かしている以上、野放しのままにしておくわけにはいかなかった。
「既に被害者は各国で出てしまっています。『トゥーレ』が関わっていると解った以上、私は四国が連携して相応の戦力を用意し、対処に当たるべきだと考えています。セレスティアルやステラルムには難しい要求だとは思いますが……」
「ご心配には及びません、レイア様。我々ステラルム連邦も、我が勢力圏での被害の多さを鑑みて、独自に何か対応するべきではないかと協議を重ねていたところでした」
「四国での連携が必要とあれば、僕達も持ち得る力で最大限の協力を約束しますよ。ね、千陽くん、朔夜ちゃん?」
「ええ、まあ……」
「はいっ」
「おう、そいつは心強いな。特にそこにいる煌魔千陽が動いてくれるなら百人力、いや千人力……うむ、万軍以上の戦力だからな。頼もしいったらねえよ」
「……グラン帝。そういう過度な期待はやめていただきたいのですが」
「謙遜すんな。お前さんは魔界で五指に入る最高位の魔導師だろうがよ」
ステラルム姉妹の背後に佇む千陽という青年は、困ったように溜め息を吐く。
しかしグラン帝が口にした彼の評価は、この場の誰もが認めていた。
彼は総魔導連合が有する現代最強の魔導師セン・ルクス・ウォーノルンと唯一互角に渡り合える存在なのだ。
戦闘を生業としていないために最強の称号はルクスに譲っているが、千陽の実力に関してはルクスも認めているという。
そんな彼の協力が得られるのならば、いかに『トゥーレ』と言えども甚大な被害は避けられない筈だ。
だが当の千陽は、自身の実力を客観的に評価した上でも、『トゥーレ』には警戒の目を向けていた。
「学長達の指示とあれば、俺も協力するのは吝かではありませんがね。ですが学長達の話では、確か『トゥーレ』には俺やルクスさんと同格の魔導師がいた筈だ。その男が存在する以上は、俺にあまり過度な期待を寄せるのはやめていただきたい」
「ん、なんだそりゃ? ……そんな奴が『トゥーレ』にいたか、聖女?」
「それはアルハート・F・リーティアの事でしょうが……成程、皆さんは彼を認識出来ていないのですね」
レイアの意味深な発言に首を傾げるグラン帝と聖王アテナ。
ステラルムの者達はそんな彼らの反応に困惑し、レイアは察しが付いたように深く溜め息をこぼした。
アルハート・F・リーティア──ルクス、千陽と同格と見なしている世界有数の魔導師であるが、その存在は世界には全く知られていない。きっとそれは彼自身の魔導による力だろう、とレイアは結論付けた。
彼の奇蹟の影響を自分やステラルムの者達が受けていないのは、おそらくは彼と同格の存在である事やその存在に連なる者だからだろう。
殊、対人においてアルハート・F・リーティアという男は絶対的なアドバンテージを有する魔導師である。数に関係なく、ただ生物であるだけで彼の力の前では屈服するしかない。
アルハート・F・リーティアという男は、そういう■■なのだ。
かつてレイアも、彼にはひどく辛酸を舐めさせられた。
総魔導連合創立以来初めて、たった二人の人間によってレイアすら窮地に追い詰められた最悪の事件は、今なお傷として彼女の記憶に深く残っている。
だが今のレイアは、彼をそこまで警戒する必要のない人物だと捉えていた。
何故なら彼はもう、総魔導連合と敵対する意義も理由も失っている筈だからだ。
「ルクス君や千陽君の協力を得た上でも、『トゥーレ』を侮ってはなりません。他にも警戒すべき人物は何人もいます。彼らに対応するためにも、様々な案について充分に議論を重ねて行きましょう」
レイア、グラン帝、ステラルム姉妹が神妙な顔で『トゥーレ』について語るのを見て、聖王アテナは彼らがどういう存在なのか興味を覚えた。
自分よりも遥かに生きている四人が、これほどまでに警戒心を露わにする存在。王としてセレスティアルの民や生物を守るためにも、この会談で彼らについてよく知っておかなければ──




