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魔法使いのユメ─Ain Soph Aur─  作者: 神代
第二章
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Act.67『四国会談Ⅱ』

 三国の代表者達が案内された先は、国内の中でも“長”を交えた議会でのみ使用される大きな議場だった。

 穢れのない真っ白な石造りの部屋。その中心に置かれた巨大な円卓の奥に、一人の女性が既に席に着いていた。

 アレーテイア共和国の首長であり、総魔導連合(イデイン)の“長”を務める魔界の覇王──麗しの聖女レイア・レア・セレスティアル。

 魔界を代表する三国の長達ですら、その美しくも王者の気品を備えた偉容を目の当たりにすると敬服の念を抱かざるを得ない。

 堂々と席に座しながらも、客人達の姿を目にした聖女は優雅に微笑みながら迎えた。

「ようこそお集まりくださいました、皆さん。総魔導連合(イデイン)を代表し、皆さんを心より歓迎致します」

 挨拶を手短に済ませ、三国の代表者達はそれぞれに割り振られた席へと移動する。

 円卓の奥に座るレイアを北とし、東にアテナ聖王、西にグラン帝王、南にキアラ、キエレ代表達が自国の位置に準えて腰を据える。

 そんな彼らの着席の後、レイアの背後に控えていたイリスが全員に紅茶を振舞う中、レイアは本題に入る前に先ず世間話から始める。

 円卓が大きいために互いの距離は遠いものの、どうやら何らかの魔術が働いているらしく、彼らは互いの声をさながら隣で聞いているように認識出来た。

「お久しぶりですね、アテナ。顔を合わせるのは去年の戴冠式以来になりますか。この一年、さぞかし大変だったでしょう?」

「はい、ご無沙汰しておりましたレイア様。母の葬儀、そして戴冠式の際は、レイア様には大変お世話になりました。まだまだ未熟な身ではありますが、八雲様やアイギス他、家臣達に支えられながらもどうにか王の務めを果たさせていただいております」

 緊張で声を揺らしながらも、しっかりと言葉を返す若き女王の姿にレイアは慈しむように笑う。

 先王の突然の崩御によって王位を継承した彼女は、まだ十八歳になったばかりだ。少女の華奢な双肩には王の責務はまだまだ重く感じられるだろう。

 そんな彼女が聖王として歩めているのは、アテナが言うように傍らに侍る者達の存在が大きい。

「八雲様とアイギスもお久しぶりです。八雲様に至っては、まさかこちらに顔を出していただけるとは思いませんでした」

「ああ、久しいな虹の娘よ。いつも留守居役では飽きるのでな、気紛れに来てやった」

「八雲様。いくら古くから交流があるとは言え、今あの御席に居られるのは大国の王なのです。御身が偉大なる神であろうと、この場では礼儀を弁えていただかないと」

「……相変わらず頭も堅いな、アイギス。お前に関しては謙遜のし過ぎだ。神霊に次ぐ聖霊の身であろうが。人の子相手には、少しはその威厳を示せ」

「八雲様。私はそういう事が言いたいのではなく──」

 いかにも生真面目そうな金髪の女性が、気楽に構える八雲へと食って掛かる。

 八雲が王家の守護神であれば、アイギスと呼ばれる彼女は聖王の守護者だ。

 神話に登場する“盾”の名を冠するように、彼女は聖王をあらゆる事物から守り抜く。

 八雲の態度が聖王の王威に傷を付けることになりかねないのであれば、彼女は必死になってでも止めるしかないのだ。

 だが彼女のそんな性格を知っていても、レイアは八雲の方を擁護した。

「ふふ、良いのですよアイギス。八雲様には幼い頃より、ご姉妹(きょうだい)共々お世話になりましたから。彼にとっては私は今も幼子のままなのです。だから気にしていませんよ」

「む……聖母がそう仰られるのであれば、私は何も言えませんね……」

「あの、聖母と呼ぶのはやめてください。気恥ずかしいので……」

「いいえ、そういうわけには。貴女様は我らがセレスティアル王家にとって偉大なる建国の母なのです。アテナ猊下をはじめ、歴代の聖王が唯一自身以外に信仰心を向けられる絶対の存在に在らせられる。何を恥じることがありましょう」

「……」

 真っ直ぐにそう断言されると、レイアとしては言い返すことが出来ない。

 人間に永く接していると人間臭くなってしまうのは聖霊に限った話ではないが、アイギスのヒトへの馴染み様はある意味貴重であると言える。

 特にレイアへの信仰心が熱を帯びているところは、同類のイリスとしても反応に困るほどだ。

「ふむ。こうして聖女と聖王が並んでるのを見てると、確かに母娘(おやこ)って言っても通じるほど似てやがるな。もう十数世代も離れてるんだろ? 聖女様の血ってのは、どんだけ強いんだか」

「陛下、さすがにそれは失言ってヤツですよ。いくら聖女様が慈悲深い方だと言っても、節度ってモノは守らないと」

 背後に控える護衛役の男に諫められたグラン帝は、苦笑しながらも話を続ける。

「しかしアレだ。ああも似ていると、聖王が聖女の子孫であることは疑わねえが……そこで気になって来るのは聖女のお相手だ。確か魔界七不思議の一つとして語られてなかったか、グラフィアス?」

「……私にそんな爆弾を雑に押し付けないでください、陛下」

 ローブのフードを目深に被った小柄な女性が、帝王から飛ばされてきた火の粉を淡々と払う。

 そんな彼女の反応に最初に諫言を述べた男が失笑し、もう一人控える黒衣の男は物静かに黙り込んだままだった。

 帝王の戯言への対応に困る護衛達に代わり、南の席に座るキアラが彼をたしなめる。

「キエレ、我が国の教育課程の一つにデリカシーという教科を加えるべきでしょうか。かつての教え子の中にあのような教養のない者が出てしまうだなんて、私達の師にどう顔向けすれば良いのやら」

「さあ……流石にそれくらいは、教えなくても身につけておいて欲しいものだけれどね。まあ顔向けするも何も、彼なら一緒に悪ノリしそうじゃない? ねえ、千陽(ちはる)くん」

 キエレは自分達の背後に控える青年に、意味深に呼び掛ける。

 受けた青年は、ステラルム姉妹の師をよく知る者の一人として溜め息をこぼしつつ渋々と首肯した。

「するでしょうね、あの人なら。とは言えあの人は、レイア聖下に対しては殊更甘いと母から聞いていますが。……ところで学長、さっきから朔夜(さくや)がそわそわと落ち着きがないので、何か一言いただいてもよろしいですかね」

 青年が隣に佇む少女を見やると、朔夜と呼ばれたその人物は乾いた笑みを浮かべながら弁解を唱える。

「す、すみません。久々に故郷に帰ってきたものですから、つい……」

「ああ、ここ数年は忙しくて来れなかったものね。ご家族とは何か約束でもしているのかい?」

「ええ、母とは一応……弟も来てくれると良いんですけど」

「──ふふ。では議場も程良く温まったようですし、朔夜さんが早く家族サービスを行えるように、本題に移りましょうか」

 冗談を言って朔夜を恐縮させたレイアは、穏やかな笑顔から一転、数多の魔法使いを統べる“長”としての顔を覗かせる。

 そんな彼女の変化に、他の四人の代表者達も気を引き締める。和やかな空気に満ちていた円卓は五人の長達が作り上げる特殊な緊張感に呑まれ、静まり返っていった。

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