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魔法使いのユメ─Ain Soph Aur─  作者: 神代
第一章
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Act.61『生意気な爆弾魔ⅩⅩ』

「あんた達には世話になったな。ありがとよ」

「……あれほどケンカ腰だった奴が、ずいぶんと素直に感謝するものだな?」

「うるせえよ、涼。俺だってちゃんと礼くらい出来んだよ」

 子供達の相手を新人達に任せたアルトライトは、今回深く関わることとなった二人と話し込んでいた。

 偶然にも魔術を扱う才能を持っていた二人の少年。彼らがこの孤児院にやって来なければ、あちらで楽しそうに騒いでいる子供達は今も苦境の中にあっただろう。彼ら自身も孤児として辛い過去を味わってきた筈だが、そんなものを感じさせないほどに二人はそれぞれの強さを持っていた。

 そんな彼らをじっと見据え、アルトライトはおもむろにとある話を切り出していく。

「君達、これからどうするつもりだ?」

「どうって。まあ、しばらくはあいつらの面倒を見るので精一杯かねえ。孤児院は修繕して正しく立て直すってボリスの爺さんが言ってたし、つまんねえだろうけどその手伝いで忙しくなる筈だ」

「……」

 アルトライトの問いに阿貴は率直に答えるが、涼は何やら考えるように黙っていた。

 それを見て、アルトライトは言葉を継ぐ。

「──ふたりとも。これはあくまでもただの提案なんだが、執行者になってみる気はないか?」

「はい? ……それって、あんた達みたいな連中になれってことか?」

「なれ、とまでは言ってない。まだ提案しただけの話だ。けど、君達がそれぞれ独学で磨いた魔術の才能は、俺の目から見ても光るものを感じた。連合で魔術についての正しい知識を学び、技術を鍛えれば、いずれ上級の魔術師になれるだろう。

 ……とは言え、執行者は時に命に関わるような仕事をすることもあるから、無理強いは出来ない。あくまでも君達の今後における選択肢の一つとして、考えに入れてもらうだけでいい」

 アルトライトの提案を聞いて、いまいち納得していない阿貴だったが、涼は彼とは違う反応を見せた。

「……それは、すぐにでもなれるのか?」

「え? 涼、お前まさか話に乗るのか!?」

「ああ……興味は湧いていたからな。俺はこの才能(チカラ)のおかげで今まで生きてきた。ここでもそれは役に立っていた……だが、もうここでは俺の力は必要になりそうにはないからな。だから自分の力を活用出来る場所へ行く……それだけのことだ」

「あ、あいつらはどうするんだよ!?」

「ボリスさんが子供達の生活については保障してくれるという話だっただろう。俺がいなくなれば、孤児院の負担も多少は減るだろうしな。……お前はどうするんだ?」

 涼が静かに問うと、阿貴は頭を抱えて考え込んだ。

 考えるということは、彼にも興味はあるのだろう。しばらく答えを待っていると、阿貴は何か判断材料でも欲しいのかアルトライトへと質問を投げかけて来た。

「おい、あんた。その執行者……ってヤツは、一体どういうものなんだ。命に関わることもあるっていうのは、戦うからってことだろ? あんた達はなんのために戦ってんだよ」

「俺達は世界中から集まる依頼や上層部からの指令を任務として受け、その目的を達成していくというものが執行者の主な仕事だ。内容にはいろいろとあるから、必ずしも戦う必要があるわけじゃない……だが戦いが日常的になることがあるのも、また事実だ。世のために人のために、とそんな正義を掲げてな」

「世のため人のためねえ……なんか俺にはいまいちピンと来ねえな、それ」

「執行者の誰もがそれを念頭に置いて戦っているわけじゃないさ。みんな、それぞれの理由を持ちながら執行者として戦っている。少なくとも俺は、個人的な理由があって執行者をやっているわけだからな。あそこの三人だって、胸に秘めている理由はそれぞれ違う筈だ」

 子供達に囲まれてもみくちゃになっている三人を一瞥して、アルトライトはそう思う。

 特に一人──アリエルに関しては、何やら明確に強い意志を感じる。それが“長”に期待されている理由なのか、それとも逆なのかは定かではないが。

「では、あなたの理由とは?」

 興味本位なのか、執行者の在り様について語るアルトライトへと問い掛ける涼。

 すると彼は少し気恥ずかしそうに頬を掻きながらも、口にするからには堂々と己の理由を明かした。

「──俺は、尊敬する人のようになりたいからだ」

 視界に入るすべての悲劇や惨劇に幕引きを。

 そんな強い信念を胸に懐き、世界を飛び回って救済の剣を振るう父の姿を、彼は尊敬している。

 幼い頃は、父のその在り様に疑問を覚えていた。どうして家族である母や姉、そして自分を置き去りにして他人のために力を振るい続けているのか、と。

 しかし母は、幼い息子の疑問に決まって同じように答えた。

 ──お父さんの背中を追いかけてみれば、きっと解るわよ。

 成長し、執行者となって父の率いるチームに入ってからは、母の言う通り父の信念とその理由が少しずつ分かっていった。

 父が家族の存在をどれほど深く愛しているのか。どうして悲劇や惨劇を憎悪し、無数の他人を救うために剣を執っているのか。

 父の過去を知り、その後の生き様を知り、数々の戦いを共に経ていくことで、父の背中はいつしか目標となっていた。

 だからアルトライトも執行者として剣を振るうのだ。いつかあの人と肩を並べて、彼の理想を共に叶えるために。

「尊敬する人ねえ……俺には別にそんなものいないしなぁ。目標もねえし、理由になりそうなものも思いつかねえし、ついでに金もねえ。せいぜいボリスの爺さんにどう恩返しすりゃあいいのか、それを考えるのが当面の目標だわ……」

「……そんなことを考えていたのか、お前」

「当たり前だろ。借金ばっか作ってくるダメな親の姿を見て育ったんだ。借りは返しておかねえと気が済まねえんだよ。お前も爺さんに半年も世話になったんだから、なにか考えとけよな?」

「ああ、まあ……そうだな」

「しかしどうすっかな……とりあえず金のことでも考えるかぁ?」

「ああ、ちなみに執行者になれば、それなりに収入は期待出来るぞ。なにせ命懸けの仕事もするんだからな。給料の余分を二人で合わせれば、孤児院に仕送りでもして、ボリスさんへの恩返しが出来るんじゃないか」

「よし涼、俺も執行者とやらになるぜっ!」

「現金な奴め……」

 スカウトに前向きな姿勢を見せた二人に、アルトライトは満足げに頷いた。

 優秀な才能を埋もれさせておくのは心惜しい。特にこの二人の魔術特性は珍しく、素人でありながら既に戦闘を難なく出来るほどの逸材だ。きっと“管理者”である母も、彼らのスカウトには快く応じてくれるだろう。

「君達を執行者にスカウトすることは、既にボリスさんには伝えてある。とは言え君達を本部へ連れて行こうにも、旅立つ前にいろいろと済ませたいことはあるだろう?

 俺達はあと数日この町に留まる予定だ。もし俺達が町を発つまでに今の気持ちが変わらないのなら、すべての準備を済ませて俺達の元へ訪ねて来てほしい。我々は新たな仲間を歓迎するよ」

 青年がそう締め括ると、彼らの元にどこからか一陣の風が吹き込んで来た。

 それは二人の新しい道を祝福する風か、それともこれから生まれ変わろうとしている町の息吹きか。

 執行者達によって暗雲が払われた以上、この町の未来は明るい筈だ。そんな未来へこれから歩んでいく町の姿を見られないことを心残りに思いつつ、三日後──『白の光明(オウル)』の初任務は、ひっそりと幕を閉じた。


 ………

 ……

 …

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