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魔法使いのユメ─Ain Soph Aur─  作者: 神代
第一章
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Act.60『生意気な爆弾魔ⅩⅨ』

 ラチェットの逮捕から一夜が明けた。

 町長の逮捕の知らせは瞬く間に町中に広まり、住民達は歓喜に沸いた。それほどまでに彼の横暴な振る舞いは目に余り、不満を溜めていた住民が多かったのだろう。何より、子供達に非人道的な扱いを強いていたような者が町からいなくなることは喜ばしいことだ。

 そのせいか、マーケットではラチェットの逮捕を祝して朝から盛大にお祭り騒ぎを始めていた。

「それでは、我々は容疑者をワークワーク支部へと連行します」

「よろしくお願いします、タイムさん。今回はあなたにとてもお世話になりました。どうかお気を付けて」

「はい。『白の光明(オウル)』の皆さま、初任務の成功おめでとうございます。またご縁がありましたら、ぜひまたサポートさせてください。今後のご活躍を期待しています」

 昨夜のうちに増援として駆け付けてきた四人の調査員と共に、タイム調査員はラチェットを連れて空間転移で町を後にした。

 五人の魔術師と専用の魔術道具(アーティファクト)を用いた長距離空間転移。執行者達が捕らえた容疑者の連行において、よく使用される輸送手段だ。

 宿屋の前でそれを見届けた『白の光明(オウル)』の新人三人は、任務を終えた達成感で気持ちを昂らせながらも、本部への帰還までは喜びを取っておくことにした。

 自分達は総魔導連合(イデイン)の顔でもあるのだ。派遣先でだらしない表情を見せてしまっては、“長”に申し訳が立たない。

「さて。本部へ帰る前に用事を済ませようか」

 やおらそんなことを言い出したアルトライトに、アリエル達は首を傾げた。

「用事って……なにかあるんですか、リーダー?」

「彼らに挨拶もせずに帰るのは、マナーが悪いだろう? それに少し話もしておきたいからな」

「ああ……確かにそうですね」

「あ、私、この町がこれからどうなるのかボリスさんに聞いてみたいです。このまま帰っちゃうと、しばらく気になってしまいそうですし。アリエルとツバサもそう思うでしょう?」

「……まあ、多少は」

「それもそうですねー」

 メシエの言葉に同意する二人。

 数日前に顔を合わせたばかりなのに、初めての任務を通じて親交が深まったようだ。彼ら新人達のそんな様子にアルトライトは笑みを浮かべ、阿貴や涼のいるだろう孤児院に足を向ける。

 するとそこで、彼らの行く手に一人の老人が佇んでいた。

 ちょうど今話題に挙がっていたボリス老人その人である。

「連合の方々、おはようございます。昨日は大変お世話になりました。住民達を代表して、私から感謝の意を述べさせていただきます。本当にありがとうございました」

「おはようございます。その言葉、ありがたく受け取っておきますよボリスさん。……これから、この町はどうなっていくので?」

「ええ……正式に新たな町長が決まるまでは、私が臨時に職を務めるつもりです。いろいろと好き勝手にやってくれたみたいですからな、先ずは元通りにしていかねば」

「そうですか。月並みなことしか言えませんが、どうか頑張ってください」

 町の今後については、自分達には何も出来ない以上、そんな言葉を伝えるしかない。

 そうしてアルトライトがチームを代表してボリス老人といくつか言葉を交わしていると、アリエルはどうしても聞いておきたいことがあったのか、おずおずと彼らの会話に割って入った。

「あ、あの。孤児院の子達は、これからどうなるんですか……?」

「ああ……彼らは我々にとって小さな英雄達だ。悪いようにするつもりは絶対にありません。それは私が責任を持って断言しておきましょう」

「よかった……」

 孤児──同じ境遇であったアリエルにとって、彼らには何か思うところがあるのだろう。自分は新しい家族を得られたが、そのような存在がいない彼らの行く末が心配だったのだ。

 しかしそれは杞憂だった。町のためにラチェットと戦っていた彼らを、陰ながら支援していた大人達。そんな人達がこれからも見守ってくれるならば、きっと彼らの未来は明るい筈だ。

「ところでボリスさん。一つ、あなたにお伝えしておかなければならないことがあるのですが」

「む? はて、なんでしょう?」

 アルトライトが突然そう切り出すと、彼はアリエル達には聞こえないようにボリス老人と共に少し離れた場所で話し始めた。

 一体何の話だろう。気になる三人であったが、アルトライトはボリス老人に別れを告げた後も、その内容については何故か明かそうとしなかった。



 街のとある一画、鉄骨と灰色の防音シートに囲まれた孤児院へ『白の光明(オウル)』は足を運んだ。

 監視の必要がなくなったので周囲には誰も立っておらず、通りに面した表側の入口は大きく開け放たれていた。

 四人はそんな入口を通り抜けると、ちょうど礼拝堂の入口のところに人影が集まっている様子を発見した。

 大空阿貴と円山涼をはじめとして、他の十数人の孤児達と、ヘルメットを被った数人の大人達が、何やら大穴が開いた入口を見上げている。

 彼らが一体何をしているのか、直感的に理解してしまったアリエルは見る見るうちに表情を曇らせた。

「ん? おお、あんた達か」

 やって来た四人の気配に気付いて、阿貴が振り返った。

 彼の言葉に釣られるように、子供達も一斉に四人へと目を向ける。

「あ! あのれんちゅーだ!」

「そとからきたっていうやつ?」

「わるいやつらだっけ?」

「ちがうよ、わるいおっさんをつかまえたやつだよ!」

「じゃあいいひとたち……?」

「でもここをこわしたの、あいつらだろー?」

「べんしょーだ、べんしょー!」

「こんなにおおきなあな、だれがあけたんだろ」

「あのおっきいおとこじゃないの?」

「いやいや、もうひとりのおとこのひとかも」

「あのちっちぇーやつじゃないよなー、うん」

「ないない。あんなちっこいのが、こんなのむりだって」

「だよねー」

「おいお前ら、一斉にしゃべんなよ。うるせえぞー」

(すいません……その小さい奴が思い切ってやってしまいました……)

 アルトライト、翼とは背丈が離れているメシエと比べても十センチほど小さなアリエルは、より一層縮こまるように心の中で猛省した。

 どうにか弁償だけは勘弁してもらえないだろうか。弁償をしたい気持ちは山々だが、ざっくりと計算してみても数ヶ月くらいは食費を削らなければならないほど支払う必要がある気がして、どうにも名乗り出るのは躊躇われた。

「ああ……任務の方に気を取られて、その穴のことをすっかり忘れていたな。すみません、少し離れてもらっていいですか」

「ん? なにをする気だね、君」

 補修工事の見積もりをしていたのか、作業員達が訝しげにアルトライトを見やる。

 そんな彼らの視線を流して、アルトライトは壊れた礼拝堂の大穴へと歩み寄って一通り見回した。

 そして短く呪文を詠唱すると礼拝堂の中を風が渦巻き、堂内に飛散した壁の破片を運びながら大穴へと吹き出し──壁を瞬く間に修復していく。


「「「「「おおおおお、すげ────────っ!!!!!」」」」」


 初めて目の当たりにする風の魔術に興奮した子供達が、絶叫と共に黄色い声を上げる。

 一躍ヒーローとして子供達に囲まれたアルトライトは、苦笑しながら作業員達に説明した。

「壁は石造りだったのでどうにか元通りに直せましたが、扉に関しては新しいものに交換した方がいいと思います。あとは修復した壁に問題がないかどうか、プロの目にお任せしますよ」

「あ、ああ……どうも。手間が省けて助かったよ」

 アルトライトの鮮やかな魔術の手際に驚いた作業員達は、戸惑いながらも彼の言う通りに壁の確認から始めた。

 彼らの作業の邪魔にならないように、アルトライトは子供達や他の面々を中庭の方へ連れて行く。

 アリエルはそんな彼に心の底から感謝しつつ、みんなの後に続いて行った。

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