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魔法使いのユメ─Ain Soph Aur─  作者: 神代
第一章
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Act.59『生意気な爆弾魔ⅩⅧ』

 陽が沈み始め、空が茜色に染まってきた頃になって、ラチェット町長のオフィスへ先ほど一報が届いた。

 それは総魔導連合(イデイン)から派遣されて来た『白の光明(オウル)』のリーダー、セン・アルトライト・ウォーノルンからの短い報告だった。

 ──ターゲットの身柄を確保。

 忌まわしい悪童達の拠点を見つけ、今朝から強襲に向かった四人の執行者達。彼らの若さから期待は薄かったものの、まさか到着から僅か一日で成果を上げるとは思ってもいなかった。

 流石は総魔導連合(イデイン)の執行者と言うべきか。監視の目を掻い潜られたことは気に食わないが、あの悪童を捕まえられたのなら構わない。

 孤児院の真実を知るあの少年を早々に始末し、逃げ出した残りの子供達も捕らえて町から追放しなければ。あるいは、どこかに商品として売り飛ばすべきか。

「施設を修繕し、また各地で子供を集めなくてはならんが……まあいい。忌々しいあのガキがようやく消えてくれるんだ。今までのストレスから解放されるのなら、多少の無駄遣いには目をつぶろうじゃないか」

 半年間、あの悪童達にはなかなかに手こずらされた。今日は街の酒場を貸し切って、盛大に解放感を味わうとしよう。これからしばらくは施設の再建のために忙しくなるのだ、今夜くらいは息抜きをしておいた方が良いだろう。

 ラチェットは棚に飾ってあったお気に入りのワインボトルを手に取ってその表面を撫でながら、今夜の予定について考えに耽ってしまう。なのでおもむろに部屋に響いたノックの音に気付くのに、少し遅れを取った。

 気分を害されたことを不快に思いながら、ラチェットは外にいるだろう部下へ声を掛ける。

「なんだね?」

「町長。総魔導連合(イデイン)の皆さまがお戻りになられました。例の少年も連行して来ています」

「おお、そうかそうか! では中へ通してくれ」

「かしこまりました」

 返事の後、ドアが開かれると、アルトライト達の姿がラチェットの視界に現れる。その背後には連行されて来た忌々しい爆弾魔の少年の姿もあり、続々と執務室に足を踏み入れて来た。

 ラチェットはそんな少年の顔を見て嫌悪感を露わにするものの、すぐに笑みを浮かべて、デスクに着いたまま四人の執行者達の功を労う。

「よくぞ私の依頼を達成してくださいました、皆さん! 町を騒がせる問題児達のリーダーを捕らえたことで、ようやく町は平穏を取り戻すことでしょう! これで町の住民も安心してくれる筈ですよ」

 悪態を吐いていたいつもの調子は鳴りを潜め、腕を後ろ手に縛られ、黙って顔を俯かせた少年に優越感を覚えたのか、町長は次第にテンションを抑えられなくなっていく。

「さて、仕事を終えたばかりでお疲れになっているところを申し訳ないのですが、私は彼と話がしたいので、皆さんはどうか席を外していただけませんか? 今夜は宿で充分に疲れを取っていただき、明日にでも改めて感謝の──」

「──話ぃ? だったら今ここで全員で話そうや、町長さんよォ?」

 突然声を上げたのは、顔を俯かせて沈黙していた爆弾魔の少年こと大空阿貴だった。

 彼は後ろ手に縛られていた筈の腕を胸元で組んで、不敵な笑みを浮かべてラチェットを睨み付ける。

 町長は拘束が解かれた少年の姿に動揺し、思わず椅子を押し飛ばして立ち上がった。

「縛りを解いたのか!? ええい、往生際の悪い奴めぇ! 執行者の皆さん、お願いします! 早くそいつを取り押さえてください!!」

「残念ですが町長。あなたに依頼された任務は、我々が彼をここへ連行して来た時点で目的を達成したと見なし、我々とあなたの契約関係は解消されました。ですので、その指示は我々になんの効力も持ちません」

「なにを言って……!? で、では新たに依頼する! 今すぐにその小僧を取り押さえて──」

 言葉にしようとしたところで、ラチェットは違和感に気付いた。

 阿貴を中心にして居並ぶ四人の執行者達は、誰もが自分に敵意の目を向けていると。

「お、お前達……私を裏切ったのか!?」

「裏切りもなにも、我々はもうあなたとは契約関係にないと言った筈。その代わり、別の関係が適用されますがね」

 アルトライトは淡々と言って、ラチェットのデスクの上に一通の封筒を投げつける。

 読んでみろ、と視線を向けてくる青年に対し、ラチェットは怒りに身を震わせながら封筒を手に取った。そして中身の書状を確認すると、そこには目を疑うような文言が並べられていた。

「ソレの内容を平たく言うと、あなたの身柄を拘束して支部へ連行せよ、と書いてあります。昼頃に正式な手続きを踏んで、支部から取り寄せました。本当は現場の判断であなたを捕らえてもよかったのですが、こうした方があなたも納得するだろうと思いまして」

「な、なぜ私が連合に!? 私がなにをしたと言うのだッ……!」

「我々が彼と肩を並べている時点で、(しら)を切れるとでも?」

 阿貴を見やるアルトライトの声色が次第に冷えていく。

 殺気にも似た彼の威圧感にラチェットが言葉を詰まらせたその時、執務室のドアが突然開かれた。するとそこから、前町長であるボリス老人が数人の自警団と共に部屋へと入ってくる。

「き、貴様は……!」

「もう諦めなさい、ラチェット。君があの孤児院でなにをやっていたのか、連合の方々はすべて把握なさっている。言い逃れなど出来んよ」

「っ……こ、孤児院? なんのことだ、知らん! 孤児院には出資していたが、それだけだ! なにをやっていたかなど、私はなにも知らんぞ!」

「あくまでも白を切ると。なるほど、では物的証拠もお見せしましょうか。我々の調査員が調べたところ、あなたが現在会長を務めている会社の金庫に、このような物が保管されていたそうです」

 アルトライトは翼が手にしていた書類を受け取り、それを再びラチェットのデスクへと放り投げる。

 彼の言う物的証拠とは、孤児院で生活していた子供達に関する資料の束だ。名前のリストや一ヶ月ごとに検査された子供達の健康状態はもちろん、子供達一人一人に課されたノルマとその達成率について事細かに記された報告書まで含まれていた。

 それが誰に対して書かれたものなのかも、ご丁寧にしっかりと明記されて──

「証拠はある。被害者達の証言も揃っている。これらの存在だけでも、あなたがアレーテイアの法を犯しているのは明白だ。大人しく支部まで来てもらおう」

「……お、お前達! なにを突っ立っている、早くこのガキ共を取り押さえろ!」

 ボリス老人の背後に並び立つ数人の自警団に怒声を浴びせるラチェットだったが、彼らは冷たい視線を町長に向けるだけで動こうとはしない。

 もはやこの場には誰一人としてラチェットの味方はいない。そう悟った彼は背後の窓から逃げ出そうと試みるが、その瞬間、不意に身体の動きが止まった。

 何事かと自分の身体を見下ろしてみれば、ラチェットの身体中に黒い何かが纏わり付き、四肢を強く縛り上げていた。

 直後、身動きを封じられたラチェットの足許の影から、ゆっくりと黒衣の少年──円山涼が姿を現す。

「お、お前……は、あの孤児院のッ……!?」

「……この様子じゃ、大人しくしそうにないな。どうする、阿貴」

「おう、だったら大人しくさせりゃいい……よなぁッ!」

「ッ、ぎ!?」

 阿貴はデスクを回り込んでラチェットの前に立つと、その顔面に容赦なく拳を叩き込んだ。そしてボールのように打ち飛ばされたラチェットは、壁に強く打ち付けられて気を失い、そのまま床へと崩れ落ちる。

 そんな顛末に、アルトライトは思わず溜め息をこぼした。

「やれやれ……無闇に容疑者に危害を加えるんじゃない。今のは見なかったことにしておくが、二度目はないぞ?」

「分かってる分かってる。──いやぁ、スッキリしたぜぇ! これで孤児院で待ってるあいつらも満足するだろっ」

「……そうだな」

 阿貴と涼、そして孤児院の子供達の反逆から始まった半年間の戦いは、ラチェットの逮捕を以てようやく終わりを迎えた。

 これでもう彼らが街で騒ぎを起こす必要はなくなり、ラチェットの横暴が消え去ることで、この町には平穏が訪れる。その事実に、ボリス老人は深々と安堵の息を吐くのだった。

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