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魔法使いのユメ─Ain Soph Aur─  作者: 神代
第一章
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Act.58『生意気な爆弾魔ⅩⅦ』

 ──それは孤児院が創設されてから四ヶ月あまりが経った頃のことだ。最初はある一人の少年の反逆から始まった。

 創設期に他の土地で拾われ、孤児院唯一の大きな労働力として過酷な環境下で働かされていたという円山涼。施設の管理者であるラチェットは大人しく労働に従事する涼のことを評価しながらも、彼のような年齢になると抵抗されるリスクを考えたのか、他に同年代の孤児を集めてくることはなく、仕入れる労働力は彼より幼い者ばかりだった。

 涼はそんな息苦しい檻の中、腹の内では反逆のための機会を窺い続けた。劣悪な環境に屈することなく少年が冷静にその考えを抱き続けていられたのは、彼には大人達に抵抗する力──魔術の才能を持っていたからである。

 しかし、迂闊には動けなかった。たとえ魔術で大人達に一時的に抵抗することは出来ても、一人で他の子供達を守り続けていられるほどの力が彼にはなかったからだ。

 事態が好転したのは半年ほど前。ラチェットと関わったことで両親を失ったという大空阿貴が、孤児院へと送り込まれてきた。幸運にも涼と同じ年齢であるばかりか、彼は涼にはない強力かつ攻撃的な魔術の才能を隠し持っていた。それは自分と協力すれば、大人達と戦い続けられると確信出来るほどに鮮烈な才能だった。

 故に半年前、涼は彼と結託してラチェットへと反旗を翻したのである。

「計画はずっと練っていた。外の情報は影を使って集めていたし、子供にも出来る単純な作業の中、考える時間は有り余っていたからな」

 孤児院に隠された労働施設を散々に破壊し尽くして大人達を排除した後、影を使って街中のどこかに潜伏したとラチェットに誤認させ、敢えて孤児院を占拠した彼らは、そこからラチェットと敵対するために仲間を集めることにした。

 最初に引き入れたのは、ラチェットに強引に職を退かされた前町長ボリス老人だ。ボリス老人に孤児院の真実を明かして味方に付けた後、彼の協力を得ながらラチェットへ反感を抱く者を中心に、着々と町の中に味方を増やしていった。今では町民の大半が彼ら反ラチェット勢力に与しているという。

 それが今、この町の水面下に広がっている現状だ。

 彼らのこれまでの経緯を最後まで聞いたアルトライトは、少しだけ黙考した後、アリエル達への説明も兼ねて町の現状を再確認した。

「仲間を増やしたのはいいものの、ラチェット町長を町から排除するための決定的な手札が欠けている。だから君達は街で騒動を起こし、対応の出来ない町長を協力者である町民達に非難させ、彼の立場を少しずつ危うくしていくことで正当に排除しようとしている……と。君達の現状はそんなところか?」

「……あんた、俺達の話を聞いただけでそんなことまで分かるのかよ?」

「こちらもいろいろ調べさせてもらったんでな。最初から君達と町の人達との繋がりは疑っていたし、その後の調査と今の君達の話でだいたい確信を得たよ」

「はぁ? なんで最初からそんなこと疑ってたんだよ」

「君が最初に俺達の前に現れた時、君は既に俺達のことを知っていた。俺達の任務については公表されていないし、あの時の俺達はまだ町に到着したばかりでなにもしていなかったのにだ。

 だから街の中で孤立している筈の子供達が、どうやって俺達のことを知ったのかと疑問に思っていた。協力者の存在について疑っていたのはその時からだ。おそらく、町長の側にも君達に協力する人間がいるんじゃないか?」

「……なんだこいつ。涼より頭がキレるぞ。なんか怖いんだけど」

 それはアリエル達も同感だった。

 もしアルトライトがいなければ、自分達は今もラチェット町長の下で働かされていたかもしれない。初めてのチーム、初めての任務で彼がリーダーでいてくれたのは、幸運だったと言えるだろう。

「確かにあなたのおっしゃる通り、ラチェットの下で働く者の中にもあの男に反目している者は多いのです。実はこの孤児院を監視している見張り達も、我々の協力者でしてな。おかげで子供達へ物資を支給することに苦労はしていないのです」

「なるほど……」

「ですがラチェットの部下達さえ味方に付けても、あの男をこの町から追い出すことが出来ないのが現実です。我々大人は罪のない子供達を犯罪者に仕立て上げて利用しているのにも関わらず、ラチェットの持つ力には敵わない……情けない話です」

「おい、そんなことを爺さんが気にしても仕方がねえだろ。利用してるって言ったって、元々やり始めたのは俺達なんだ。あんたは俺達に力を貸してくれてるだけだろ」

「君達はそう言ってくれるがね。子供の力を借りるしかないなんて、大人としては良心が痛むのだよ。本当なら私が真っ先にどうにかするべき筈だったのに……」

「──事情は把握しました」

 阿貴とボリス老人の話を遮るように、アルトライトが厳かに告げた。

「ボリスさん、それにふたりとも。そういう事ならば我々が力になれます。ラチェット氏が行っていたことは、この国の法に照らせば厳罰執行の対象に当たるものです。“長”の意志の下、我々には彼を裁く義務がある。今すぐにでも、彼の身柄を拘束することは可能です」

「本当かよ!?」

 目を見張る彼らに、アルトライトはしっかりと頷いた。

 たとえ依頼を反故にしようと、現場の判断で任務を放棄することは許されている。それにラチェットがこの施設を取り壊さず、監視を置いて保護しているのは再び子供達に労働させようという思惑があるからだろう。その意思が予測し得る以上は、彼の身柄を拘束して法で裁くべきだ。

「しかし、あの男を拘束する前に確認しておくべきことがあります。それが認められなければ、彼の身柄を押さえるのは時期尚早と言えるでしょう」

「は? なんだよそれ、一体なんの──」

「おいバカ。分からないのなら今は黙っていろ」

「っ、バカバカ言うなよ! バカって言う奴の方がバカなんだからなー!?」

 阿貴の空しい抗議を無視して、アルトライトは話を続ける。

「あの男のこの町への影響力はとても強いと聞いています。ならば我々が身柄を拘束してラチェットがいなくなった後、良くも悪くも町にはなんらかの影響が及ぶ筈。……それを一体どうするべきか。ボリスさん、そちらは既にお考えですか?」

「……我々はこの半年間、子供達に頼ってばかりでした。被害者である筈の彼らに頼ることに罪悪感を抱きながら、我々は大人としてなにか出来ることはないのか……ずっと考えていました。そして考えた結果が、この子達への恩返しだった。我々大人が、彼らが安心して暮らしていける町へと変えていかなければなりません。そのための苦労は覚悟出来ております」

 ボリス老人は『白の光明(オウル)』の四人へ向き直ると、深々と頭を下げた。

 誰かに頼るのはこれで最後だと。そんな決意を滲ませて、彼は告げる。

「お願い致します、連合の方々。どうか我々に力をお貸しください。謝礼は後ほど用意致しますので、どうか……子供達を解放させてあげてくださいませんか」

「──ボリスさん、謝礼など必要ありませんよ。もしそのような(たくわ)えがあるのなら、それは彼らに使うべきです。言ったでしょう、我々は“長”の意志の下、彼を裁く義務があると」

 アルトライトは仲間達へと目を向け、彼らの意思を確認する。

 三人はリーダーの言葉に同意するように、神妙な面持ちで頷いた。

 ──己の正義を為せ。

 それが聖女から執行者に与えられた自由ならば、彼らはその意志にも従うだけだ。


 ………

 ……

 …

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