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魔法使いのユメ─Ain Soph Aur─  作者: 神代
第一章
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Act.54『生意気な爆弾魔ⅩⅢ』

 風に運ばれて『白の光明(オウル)』が降り立ったのは、昨日アルトライトが潜入した旧孤児院の庭だ。

 使われていた頃の姿のまま依然として建物が佇むその場所へ訪れた新人三人は、周囲の奇妙な光景を怪訝そうに見回す。

 高々と築かれた鉄骨の外側に張り巡らされた灰色の防音シート。そんな布の壁を見やる三人の後ろで、アルトライトは右手の中に風を呼び起こしていた。

 辺りの空気を巻き込みながら中心に向かって渦巻くソレは、さながら風の卵だ。

 アルトライトがその卵を頭上に向けて解き放つと、風は四方へ広がってさらなる障壁を敷地の中に作り上げた。

「リーダー、一体なにを……?」

「外に見張りがいるからな。中の状況を悟られないように、遮音と認識阻害の結界を設置したんだ」

「……多層結界まで出来るんですか」

 アルトライトの多才さには、もはや驚きを通り越して呆れてしまうメシエ。

 小規模な結界ならまだしも、孤児院跡の敷地全域を包み込むほどの結界を詠唱もなしに作り上げたのだから、彼女の気持ちも分からなくはない。

 一方、孤児院の建物をじっと見つめていた翼は、その入口の扉に人の気配を感じて身構えた。

 すると彼の視界の先にある大扉が、重々しくゆっくりと左右に開かれる。

 アリエルとメシエもその音に気付いて、すぐにそちらへと視線を走らせた。


「俺達のアジトに直接乗り込んでくるとは、いい度胸じゃねえかよ」


 入口に現れたのはターゲットの少年である大空阿貴と、黒衣の少年こと円山(まるやま)(りょう)。奇しくもどちらも日本人の父祖を持った、孤児達のリーダー格だ。

 二人はアリエル達の行く手を阻むように扉から少し離れた先で立ち止まり、侵入者達を睨み据えた。

 そんな彼らの方へと進み出て、アルトライトは敵意を感じさせないように努めて穏やかに声を掛ける。

「突然押し掛けてすまない。我々は総魔導連合(イデイン)の特務執行科所属、『白の光明(オウル)』という者だ。君達と話がしたいと思い、勝手ながら押し掛けさせてもらった。先ず最初に、我々は君達と敵対する意思がないことを伝えておきたい」

「ハァ? なに言ってんだ、お前。こちとら、お前らがあの町長に呼び出された連中だってことは知ってんだよ! そんな連中と話なんざ──」

「お前じゃ話にならん。バカは黙っていろ」

「ってなんだよ、涼!」

「で、話とはなんだ」

 敵意を剥き出しにする阿貴を黙らせた涼は、アルトライトへと真っ直ぐに視線を向ける。

 その目は敵意を帯びながらも、何かを探るような疑念の色が浮かんでいた。

 アルトライトはあちらに冷静な人物がいてくれたことに安堵しつつ、少年の問いに答える。

「君達がラチェット町長とどうして敵対しているのか、その事情を知りたい。俺達も依頼者である彼には不信感を抱き始めていてな。一体彼がなにを隠しているのか、それを教えてほしいんだ」

「ハ、その手には乗らねえぞ! そんなこと言って油断させておいて、俺達をヤろうって考えなんだろう? 俺にそんな手が通じ──むぐぅッ!?」

「バカは黙れと言っている」

 実体を得た影を操り、阿貴の口を塞いだ涼は話を続けた。

「俺達の話を聞いてどうするつもりだ。お前達はあの男に雇われているんだろう? まさか裏切ってこちらに付く、などと言うつもりではないだろうな」

「さて。それは君達の話を聞き、考えてからの話だ。俺達執行者は依頼者に忠誠を誓っているわけではないし、報酬を求めているわけでもない。俺達が支持する“長”が望むのは世界の安寧だ。その大義に沿うためにも、俺達は真実を知らなければならない。

 この町で一体なにが起こっているのか。君達と町長の間になにがあったのか。その真実をな」

 そう告げるアルトライトへと、突然石が投げつけられた。

 石は一瞬にして亀裂を走らせ、閃光を放つと共に爆炎を撒き散らすが、アルトライトが手を払って生み出した風に容易く阻まれ、すべての威力が四方八方へと受け流される。

 アルトライトへ爆撃を放った少年は、口を塞ぐ影を無理やり引き剥がしながら、怒気を孕んだ声を漏らした。

「……イデインだかなんだか知らねえが、よそ者が急にやって来て、なにも知らねえくせに大層なことをペラペラ言ってんじゃねえよ。ここは俺達の町だぞ? 関係のない連中に勝手に横から入られる筋合いはねェ!」

「確かに君達にとってはお節介だろうな。だが俺達はそういう存在だ。困っている人々には手を差し伸べるのが俺達の仕事なんだ。だから教えてくれないか、あの男が一体君達になにをしたのかを。事情さえ分かれば、俺達は君達の力になれるかもしれない。膠着していると思われるこの町の現状を打破する力にな」

「ッ、だから──」

「まあ待て、阿貴」

 今にも飛び掛かりそうな勢いだった阿貴を手で制して、涼は『白の光明(オウル)』を改めて見据える。彼は総魔導連合(イデイン)というものがどういう組織なのか、大雑把ながらも理解があった。

 魔界の平和を維持するための巨大組織。その力を借りることが出来るのなら、確かにこの町の膠着している現状を打開することは不可能ではないだろう。彼らなら、自分達にとって望ましい結果をもたらしてくれる筈だ。

 しかし、彼らは今までこの町に何もして来なかった。世界中を見渡しているとは言え、こんな辺境の町まで目が届かないのは仕方がないとは思うが、それでも今までこの町の腐敗に気付きもしなかった彼らの力を素直に借りるのは、涼も抵抗を覚える。

 半年以上もの間、自分達の力だけで抗い続けてきたのだ。もはや二人の心の底には、自分達の戦いの行く末を他者に譲ることの出来ない意地が存在していた。

 だからこそ──

「お前達の言い分は分かった。……だがよそ者にすんなりと頼るほど、俺達は物分かりがよくない。特にこっちのバカは最悪だ」

「あぁんっ!?」

「そんな俺達を納得させたいのなら、お前達の力を見せてみろ。既に風使いのあんたの実力は俺が見ている……だから、見せてもらうのはそこの三人だ。その三人だけで、俺達二人を倒してみろ。そうすればこのバカも納得するだろうさ」

「……ははぁ、なるほどねぇ? 確かに弱いヤツの手なんか借りるまでもねえよな。ついでにここで遠慮なくぶっ潰しておけば、敵の数を減らせるってもんだ!」

 アルトライトは涼の言葉に、何やら作為的なものを感じていた。

 彼は敢えてああ言うことで話を明確化かつ単純化させ、阿貴に分かりやすくしたのだろう。ついでにこちらの提案にも譲歩している。……影を操るだけでなく、陰から人を操るのも実に巧い少年だ。

 そして彼の提案はこちらも望むところである。この話に乗らない手はない。

「分かった、君の提案を受け入れよう。先ほど、ここの敷地には俺が人除けのための結界を張っておいた。これで外の連中には、中の様子は伝わらない。お互いに存分に力を振るっても問題はない筈だ」

「へぇ、いいのかよ? 俺に全力なんて出させたら、お前らなんかあっという間にふっ飛んじまうぜ?」

「後ろの孤児院をふっ飛ばすようなバカなマネだけはやめろよ……?」

「それ止めんのはお前の仕事だろ?」

「……はぁ」

 余裕綽々といった様子の彼らを、アリエル達は思わず目を据わらせて()め付ける。

 そんな仲間達へと向き直って、アルトライトは苦笑交じりにエールを送った。

「という訳だ。戦闘に不要な荷物は俺が預かっておこう。君達の実力、ここで見せてもらうぞ」

 三人は声を返さず、闘志を秘めた目を向けて彼の言葉に応えた。

 新人達は各々の能力を考え、連携の打ち合わせは事前に済ませてある。その成果を、アルトライトや彼らに見せつける時だ。

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