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魔法使いのユメ─Ain Soph Aur─  作者: 神代
第一章
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Act.52『生意気な爆弾魔ⅩⅠ』

「けどな、俺達は執行者である以前に人間なんだよ。ただ最適に、速やかに、確実に任務を遂行するのは、確かに優れた執行者ではあるが……そんなものは感情を持たない装置でしかない。俺達は感情を持つ人間で、意思があって欲もあり、価値観も個々人によって多様に違っている。

 そんな俺達を尊重するように、かつて“長”は執行者達へある言葉を贈ってくれた」

「……“長”の言葉?」

「『望むのなら、より善い結果(ミライ)を選ぶように』──ただ漫然と任務に従事せず、各々の正義に従って行動せよ……とな」

(より善い、結果(ミライ)を……)

 聖女が執行者達へ贈ったというその言葉には、実に彼女らしい想いが込められていた。

 ──もし任務の結果に不満を覚えるならば。執行者の義務に従うのではなく、己の正義に従ってより善い結果を選べ。

 執行者の職務の性質を鑑みれば、本来それは切り離さなければならない考えの筈だ。何故なら個人の正義など、時には任務の妨げになり得るものだからである。現に今、アルトライトの個人的な意欲によって任務の目的から遠ざかろうとしているのだから。

 如何に“長”が慈悲深い人物と言えども、組織の首魁であるからには無慈悲な一面も持っていなければならない。執行者に対しては、任務を忠実に遂行せよと命じて然るべきだ。

 だが聖女はそれでも敢えて告げたのだ。己の正義を第一とせよ、と。

 それは執行者達の善性を信じているが故の言葉である。誰一人としてより善い結果を望まぬ者はいないと信頼しているからこそ、彼女はそう告げられたのだ。

 そんな聖女からの期待に応えるべく、執行者達が皆すべからく従うのは、間違いなく“長”の人望が成せる業だろう。

「実力さえ伴っていれば、任務を遂行するのは簡単だ。だが俺達の仕事は良くも悪くも他人の人生に大きな影響を与えてしまう、とても大きな責任を背負うものだ。

 だからこそ……俺は、こう思うんだよ。関わる以上は可能な限り知るべきだと。そして事情を知った上で、より善い結果を残すために自分はどう動くか。それを考えるのが、俺達──執行者の果たすべき責任だとな」

 アルトライトの言葉を、三人は黙って聞き入っていた。

 ただ与えられた任務を遂行し、時には戦うことを強いられる存在が執行者であると漠然と認識していた三人にとって、彼の信念はとても新鮮で衝撃的なものだった。自分達とあまり変わらない年齢の若者がここまで深い考えを持っていることに、思わず己の未熟さを恥じてしまいそうになる。

 ……とは言えアルトライトの語った信念は、すべて尊敬する父からの受け売りなのだが。

「とにかく、なにも事情を知らないままターゲットを捕らえるのは俺としては後味が悪い。先ずは彼らの事情を聞いてから、どう動くか判断したい……と俺は考えているんだが。しかし俺の考えだけでチームを動かす気はない。三人の考えも聞かせてくれ」

 リーダーからの問いに、アリエル達は視線を交えて意見を確認する。

 どうやら全員の意見は既に一致しているらしく、三人はすぐさま口を揃えて彼に答えた。

「……俺はリーダーの方針に従います。あなたの考えは正しいと思うので」

「私も賛成です。初めての任務で後味が悪いっていうのも、なんか嫌ですから」

「私も……異論はありませんよ」

 アリエルはアルトライトを試すようなことを言ってしまった自分の行為を反省しつつ、彼の意見に同意した。

 アルトライトはリーダーとして信用出来る人物だと認めていたが、全幅の信頼を寄せるかどうかは未だ決めかねていたアリエル。

 だが、今の彼の態度からアリエルは確信を懐く。

 これほど確固たる信念を持っている人物になら、自分の背中を預けても構わないと。

(……こういうのが、仲間意識って言うのかな)

 胸の内に初めて湧いてくる感情に戸惑いながらも、少女は嬉々と受け入れる。

 師匠達との生活では一度も味わったことのないその思いは、アリエルの心に深く深く染み入っていくのだった。



「──という訳で。我々は明日、ターゲットの拠点に潜入を行います」

 仲間達に宿での待機を指示してから、少しばかり時間が経って。

 アルトライトは一人、ラチェット町長のオフィスを訪ねて、今後の活動について報告を行っていた。

 まだこの町に到着してから半日も経たないうちに早くも成果を上げた彼らに、町長も機嫌よく応対する。

「いやはや、さすがは天下の総魔導連合(イデイン)と言ったところですかな! 我々が半年も費やして見つけられなかったネズミ共の棲み処を、こうもあっさりと見つけてしまうとはっ。才能溢れる若者達の活躍は、実に喜ばしい!」

「お褒めいただき、ありがとうございます。しかし、港での一件はお騒がせして申し訳ありませんでした。自分の魔術で可能な限り補修は行いましたが、後で専門の方々に不備はないかどうか確認してもらった方がよろしいかと。なにぶん、そちらは素人同然なもので」

「ええ、構いませんとも。幸い、港の要である停泊所(バース)には被害がありませんでしたからな」

 長々と苦しめられてきた憎き存在を、いよいよ追い詰めている状況にご満悦なのだろう。町長は自分の庭を荒らされたことは、特に気にも留めなかった。

 だが顔には笑みを浮かべたまま、何やら心の内に動きを見せた町長の感情の機微を、アルトライトは静かに見逃さない。

「……ところで、例の少年のアジトのことなのですが。それは一体どこにあったのです? 差し出がましいとは思いますが、私の自警団も皆さんを支援させていただきますので」

「申し訳ありませんが、それはご遠慮願いたい。ターゲットとの交戦が考えられる以上、現場に誰も近付けさせるわけにはいきません。特にターゲットの魔術特性は周囲に被害を生みやすいものですから、安全のためにも我々だけで対処します」

「では……我々の失態を反省するためにも、場所だけでも教えていただきたい」

「それはすべてが終わってからでも遅くはないでしょう」

「む、むぅ……そ、それはそうですが。いや、しかし……」

 邪魔だから余計な手出しはするな、とアルトライトは言外に告げているのだが、町長は何故かターゲットの拠点の場所を知ろうと食い下がる。

(俺達が動くのは明日と言ってある……今夜にでも、なにか手出しをしたいのか?)

 町長に対して不信感を抱いているアルトライトは、そんな疑念を覚えた。

「我々にお任せください、町長。明日のうちにはターゲットの身柄を確保してみせますので」

「……わ、分かりました。あの小僧を捕まえ次第、すぐに我々へ身柄を引き渡してください。私が依頼したのは、少年の身柄の確保まで。そこから先の問題は、我々の仕事ですから」

「ええ、それはもちろん。こちらもしっかりと理解していますよ」



 それから二、三言ほど言葉を交わして、アルトライトはラチェット町長のオフィスを後にした。

 夜になっても活気のある街の様子を一瞥して、青年は仲間達の待つ宿へ向けて歩き始める。

(さて……町長がなにかを隠したがっていることは、あの様子からして明白だが。それがなんなのか、やはり知っているのは彼か)

 ターゲットの少年──大空阿貴。

 町長を敵視している彼ならば、すべての事情を把握していることだろう。問題はどうやって彼らと交渉するかだが、あの好戦的な性格からするとなんとなく展開は予想出来る。

「ん……」

 明日の行動について再確認をしたところで、アルトライトは何かに気付いたように意識だけを周囲に向けた。

 だが歩みは止めず、そのまま素知らぬ顔で宿を目指す。

(やれやれ……信用していないのはお互い様か)


 ………

 ……

 …

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