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魔法使いのユメ─Ain Soph Aur─  作者: 神代
第一章
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Act.51『生意気な爆弾魔Ⅹ』

 アルトライトが地上に降り立った瞬間、少年が起爆しようとした術式が一瞬にして無効化(キャンセル)される。

 突然消えた手応えに少年は何が起こったのか分からず混乱し、そんな彼の傍に黒い影が湧き出でた。

 影から現れるのは総身を黒衣に身を包んだ黒ずくめの少年。街中には一切姿を現さないように立ち回っている筈の仲間が現れたことに、爆弾魔の少年は驚愕の声を上げた。

「おい涼、なんでお前がここに!?」

「……退くぞ、阿貴。あの男は相手にするな」

「はぁッ!?」

 いつになく弱気な意見を述べる仲間に少年は反感を抱くが、涼と呼ばれた少年は警戒の色を強めてアルトライトを睨み据えていた。

 彼がそんな表情をするのを初めて見たのだろう、阿貴少年は目の色を変えて風を纏う青年を見やる。

「お前、広場にいた……なにをしやがった?」

「それは後でそこの彼に聞くといい。それより君達は、さっさと逃げた方がいいんじゃないか? 随分と派手に騒いだようだし、もうすぐ町の自警団がやって来る筈だ。そうなると困るのは君達だろう?」

 アルトライトからの思わぬ忠告に首を傾げたのは少年だけではない。彼の後ろに居並ぶアリエル達も、アルトライトの言葉には疑問を覚えていた。

「どういうつもりだ、テメェ──」

「退くぞ、バカ」

「おい、ちょッ……!?」

 影の少年が阿貴の腕を掴むと、二人の身体は足許の影へ沈んでアリエル達の前から姿を消した。

 空間転移ではないにしろ、影の中に潜んで移動されては手出しが出来ない。少なくともアルトライト以外の者には、彼らがどうやって消えたのかもよく分からなかった。

 何度も爆発が繰り返されていたことで、静かだった港の方に騒然とした気配が漂っている。間もなく港に務める者達や自警団がやって来て、状況確認を始めるだろう。

 それへの今後の対処に頭を悩ませながら、アルトライトは自分の指示を無視した三人を見やった。

「……さて。町の人々には俺が適当に説明しておくが。後で俺には経緯を詳しく説明してもらおうか。俺の指示に違反したのは気に食わないが、別に戦闘を行ったことに関して咎めたりはしない。勢いが余るのは良くも悪くも新人の特権だからな」

「……はい」

 そう告げるアルトライトに、翼は努めて静かに答えた。

 メシエも疲労からか大きく息を吐き、アリエルは真紅に染めていた瞳を冷やすように青へと戻す。少女の背中に宿っていた三つの紋章も、一斉に消え去った。

 執行者としての初めての実戦に対し、三人は何だか物足りないとでも言いたげな表情をしている。そんな彼らの様子に失笑しつつ、アルトライトは集まってきた人々を相手にするために歩き出した。


 ………

 ……

 …


 アルトライトに連れられて宿に戻ったアリエル達は、阿貴という少年と戦闘に至った経緯を彼へと説明した。

 事の発端はターゲットの方から三人へ追跡の手が伸び、彼らに襲撃の意思があったからに他ならないものの、港の近くに陣取ってしまったのは三人の方に問題があった。

 何せ港はラチェット町長の息が最もかかっている彼の庭だ。たとえ正当な理由があろうとも、そんな場所を踏み荒らされては町長も快くは思わないだろう。

「……町長には俺が後で説明に行く。三人はこのまま宿で待機。移動や戦闘で疲れただろう、今日はゆっくり休むといい」

「あの……どうして彼らを追わないんですか? 港での一件、私にはリーダーが彼らを逃したように見えたんですが……」

 任務の目的に反した行動を取ったアルトライトに違和感を抱いていたのか、意を決して胸中の疑問を投げ掛けるメシエ。

 するとアルトライトは少し考える間を置いてから、彼らへと自分の考えを述べ始めた。

「俺はもう彼らの拠点の場所を特定していてな、追う必要がないと判断したのはそのためだ。明日にでも君達を連れて、彼らのアジトに向かうつもりでいる」

「もう特定したんですか……!?」

「たまたまだよ。彼らの手掛かりを掴もうと潜入した場所が、偶然にも彼らの根城だっただけだ」

 彼はそう言うが、本当に偶然なのかは疑わしい。

 若くしてリーダーに選ばれるほどの能力があり、未だアルトライトの実力の底が知れない以上、メシエは淡々と謙遜する彼に疑問の目を向けざるを得なかった。

「……では、ターゲットの確保は明日に?」

「いいや。確保するかどうかは、彼らと交渉した後で決めようと思う」

「交渉? どういうことです……?」

 翼もアリエルもアルトライトの発言に首を傾げる。

 我々は少年の身柄を確保するためにこの町へやって来たのに、そのターゲットと何を交渉すると言うのか。

「ターゲットとその一味は、どうしてこの町で騒動を起こしていると思う?」

「どうしてって……生きるためでは? 彼らは街で窃盗を繰り返して生計を立ててるんですよね?」

「確かにそうだ。だが生きるのが目的なら、何故わざわざ町長と敵対する必要があるんだ?」

「それは……自分達を捕まえようとしている人と敵対するのは当然なのでは……?」

「自分を捕まえようとしている相手とは、わざわざ敵対なんかしないんだよメシエ。敵対せざるを得ない状況はあっても、普通は関わり合うことを避けるものだ。だがターゲットは町長に対して、明確な敵意を持っている。それは最初に広場で襲われた時から感じていた」

「そう言えば……」

 アルトライトの意見を聞いて、翼は港でターゲットと対峙した際に彼の口から放たれた言葉を思い出した。

 彼は確かに言った。町長に与する者は自分達の敵だと。

 翼達に向けられていた敵意の核心には、町長への敵意があったのだ。翼もその理由については気になっていた。

「でも、町長に追われ続けている中で恨みを抱くこともあるんじゃないですか?」

「メシエの意見も一理ある。その線も捨て切れないが……俺は、ターゲット達は最初から町長(・・・・・・)達と敵対すること(・・・・・・・・)が主目的なんじゃないかと考えているんだ。そこで気になるのは、どうしてそんな目的を抱いたのか。その疑問を解くために、この町に潜入している魔道情報科(エアー)の調査員に調べてもらっているところだ」

 アルトライトは翼達の持っていない視点で、大局的に物事を見据えている。

 それは新人である三人とは違い、これまでに執行者として様々な事件に関わってきたからこそ持ち得る視点なのだろう。実に素晴らしい能力だし、素直に感心させられる。自分達のリーダーは優れた人なのだと、誇らしくさえ思うほどに。

 だがアリエルは、新人である自分だからこそ抱く疑問を彼へと投げ掛けた。

「でもそれは……私達の任務には関係のないことなんじゃないですか?」

 アリエルが口にしたのは非情な言葉だった。

 ターゲットにどういう事情があるのかは知らない。彼らなりに正義があるのかもしれないし、もしかしたらそれは正しい行為である可能性もあり得る。

 しかし執行者にそんな事情は関係ない。たとえターゲットにどんな事情があろうと、正式に認可された任務は遂行するべきだ。

 それが執行者にとっての正義なのだから。

「ああ、ないよ。これは俺個人の私情を挿んだ考えだ。俺達の任務には何ら関わりのないことさ」

 対してアルトライトは、あっさりと答えた。

 彼自身、そんな事は新人に指摘されるまでもなく分かっていることだ。だが彼は三人の先輩として、敢えて任務に私情を挿み込む意義を語る。

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