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魔法使いのユメ─Ain Soph Aur─  作者: 神代
第一章
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Act.46『生意気な爆弾魔Ⅴ』

 宿に着いた四人はチェックインを済ませ、部屋で三十分ほど休憩を取った後、荷物を置かずにそのまま宿の前に集合した。

 各自の荷物は、主に戦闘で用いるものばかりだ。万が一のことを考え、原則的に常に持ち歩くことが義務付けられている。それは銃以外にもいろいろと携帯する必要のあるアリエルにとっては、動くのに少しだけ煩わしい規則だった。

「それではこれから街の調査に出掛ける。あくまでも調査が目的だから、ターゲットやその仲間を発見しても深追いするな。自衛程度ならば許容するが、それ以上の行為は現時点では禁止とする」

「どうしてですか? ターゲットを捕らえれば、それで任務は終わりなのでは?」

 アルトライトの言葉に疑問を返すメシエ。

 彼女の言い分も(もっと)もだが、アルトライトは静かに首を横に振った。

「俺はもう確信を得ているが……今回の任務は、どうにも単純な問題じゃないように思うんだ。ターゲットを捕らえればそれで終わりとは、俺は思えない」

「どういう意味ですか?」

「君達には、これからその意味を調べてもらうのさ。三人で街の中を歩き、気になる点を調査してみてくれ。俺と同じ感想を抱いた翼が一緒なら、アリエルとメシエにも自ずと意味が分かってくるだろう。というわけでそっちのまとめ役を頼む、翼」

「……俺、ですか?」

「ああ。二人よりも年上だから、なんてつまらない理由で選んだわけじゃないぞ? 君は物事を俯瞰して見ているタイプだから、まとめ役に向いていると思ったんだ。頼む」

「俺に向いているとは思えませんが……まあ、リーダーの指示には従います」

「リーダーは一人で動くんですか?」

「確信したことをもう少し調べてみたくてな。少しの間だけ別行動させてくれ。なにか起こったら、迷わず俺に念話を送ってくるように。すぐに駆け付けるからさ」

 そう言うと、アルトライトは踵を返して三人の前から足早に歩き去っていった。

 雑踏の中へ消えた彼の後ろ姿を見送ると、三人は顔を見合わせて互いの意見を窺う。

 チームを結成して数日。まだ決して気心が知れているというわけではない間柄の三人で、どうやって足並みを揃えようか。何か良い考えはあるだろうかと、アリエルとメシエはまとめ役に任命された翼の顔を見やるが、彼もまだ特に意見を持っていないのか黙り込んだ。

 しばらく三人の間には沈黙が横たわったが、それが我慢出来なくなったアリエルが咄嗟に口を開く。

「え、えっと……取り敢えずさっきのマーケットに行ってみませんか? 町長さんも、ターゲットはマーケットによく出るって言ってましたし……」

「……そうね。うん、私も賛成。あなたは?」

「異論はない。……すまない、こんな男がまとめ役で」

「き、気にしませんよ。いきなり大役を任せられちゃったら、私だって困りますしっ」

 なるべく明るく振舞ったアリエルの言葉に助けられ、メシエと翼は沈黙を破る。そして三人は肩を並べて歩き出し、市場の広がる大通りへと向かって行った。

 そんな彼らに、物陰から視線を送る人影が一つ──



 アリエル達がマーケットの方に足を運ぶと、まるで先ほどの広場での騒動はなかったかのように、依然として平穏な賑わいが大通りに満ちていた。

 本部周辺のストリートもいつも賑やかではあるが、こちらの賑わいにはあちらとは異なる空気が混ざっている。きっとそれは店主と客の距離感が理由だろう。

 首都ということもあって多種多様な人々が入り乱れるあちらでは、店と客の距離は一定で保たれている印象だ。だがこちらは主に常連である町民を相手にしているということもあって、店と客に親近感が感じられる。

 勝手知ったる知人と見ず知らずの他人では、接する空気が違うのは当然だ。この町のマーケットの賑わいには、そんな親しみから生まれる和やかな空気が含まれている。

 故にこそ思うのだ。この町のマーケットはとても楽しそうだと。

「それでツバサ。あなたが感じた町長の言葉の違和感ってなに? リーダーはきっと、その違和感の正体を探せって私達に課したように思うのよね」

 往来の中を歩きながらメシエにそう問われた翼は、言葉を探すように少しだけ間を置いた。

 そして周囲を見やってから、静かに考えを述べ始める。

「俺が違和感を覚えたのは……ターゲット達によって治安が乱れ、住民は不安になっている……という辺りだ。さっきの爆発で確かに騒動は起こったが、特にこれと言って治安が乱れているようにも、住民が不安を抱えているようにも見えないからな」

「言われてみれば……そうね」

 確かに翼の言うように、マーケットの様子を眺めてみても平穏な空気しか感じられない。町長が述べた通りなら、ターゲットの犯行に備えて普段から警戒感を抱いていて然るべき筈だ。

 しかしマーケットには、そんな雰囲気はまったく漂っていない有り様だ。敢えてそういった空気を作っているのかもしれないが、それにしては誰も彼もあまりに安穏としている。

「これがリーダーの言っていた、町長さんの認識のズレってヤツなんですかね?」

 マーケットにはこんなにも穏やかな空気が流れているのに、町長は町の治安が乱れ、住民達は不安になっているという。それは果たしてターゲットに悪印象を植え付けるためなのか、それともマーケットの様子を認識していないのか。

 アルトライトが口にした単純な問題ではないという言葉は、きっとそういった意味も含んでいたのだろう。

『……ところで、ふたりは気付いてる? 後ろのヤツ』

 翼の感じた違和感について認識を共有したところで、メシエはやおら神妙な表情を浮かべて二人に念話で問い掛けた。

 アリエルと翼はすぐにその意図を察し、頷かないまま肯定する。

『さっきから私達を尾行してる気配のことですよね?』

『どうやら子供のようだが』

 三人はそれぞれ、自分達に常に向けられている視線に気付いていた。流石に同じ方向からずっと視線を浴び続けていれば、多少感覚が鋭ければ誰でも気付くだろう。

 その尾行の稚拙さから、翼は追跡者が子供であると予想した。おそらくはターゲットの仲間だと思われる。

『どうする? あっちが網を仕掛けてくるなら、逆にこっちから釣り出すのもアリだと私は思うけど』

『でもリーダーに戦闘は禁止だって言われてますよね?』

『自衛程度なら許すとも言ってたでしょう。ずっと追いかけ回されてるんだから、もう正当防衛に含まれるわよ』

『メシエさんって実は喧嘩っ早いタイプ……?』

『いつまでもまとわり付かれるのが気に障るだけよ。で、あなたはどう思うツバサ?』

 メシエは自分の提案について、まとめ役に任じられた翼の意見を伺う。

 責任を伴う判断を委ねられて溜め息をこぼす翼だったが、メシエの提案には反論しなかった。

『……俺はその案に乗ろう。どの道、後を追われているということはターゲットが俺達になにか仕掛けようとしているということだ。奇襲を受けるよりは、予測出来ている今のうちに対処しておくべきだろう』

 アリエルとしてはあまり賛成ではなかったが、二人がそう決めたのであれば異を唱えても仕方がない。

 三人は意見をまとめると地図を広げて、ターゲットを誘き出すための人気の少なそうな場所を探す。

 すると街の東側に、どうやら大きな運河が流れているようだった。運河ということは貨物船や様々な商人が行き交っている可能性は高いが、街の外の他に開けた場所は見当たらなかった。

 街中でターゲットを誘うなら、この運河のエリアしかないだろう。

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