Act.45『生意気な爆弾魔Ⅳ』
広場から十分ほど歩いた距離に、町長の仕事場であるオフィスは存在した。
案内されたそこは町役場と言うよりも小さな個人事務所といった印象を受ける場所だったが、四人が連れ込まれた執務室にはいかにも高価な調度品の数々が至る所に備えられていた。
それらは町長として客人に対する誇示のためもあるだろうが、彼個人の趣味も多少は反映されているように見受けられる。
そんな部屋の主である町長は、中央に置かれたソファへ先に腰を下ろすと、自身の対面の席を手で示した。
「さあ、どうぞそちらにお掛けください」
「はい。それでは失礼します」
町長と意見を交わす代表としてアルトライトが一人でソファに座り、聞き役に徹する他の三人は彼の後ろに整列した。
すると早速、アルトライトは前置きを必要とせず、すぐに本題へと切り込んだ。
「さて、お聞かせ願えますか町長。あの少年の素性や経歴、主な活動場所、それから彼の使う魔術。そういったことを知っている範囲で充分なので教えてください」
「ふむ……ではそれらを順番に答えてみましょう。あの子供の名前は……確かアキと言いまして、この町に住み着く悪童達のリーダーです。元々は移民だった両親の子供らしく、その両親を半年前に亡くしたことで町の孤児院に入れられていたと聞いています」
「入れられていた? ……我々が事前に受け取った情報には、孤児院に入る前に反発して逃げ出したというような内容が書かれていましたが」
「ま、まあ似たようなものです。あの子供は孤児院に入って数日後に、突然暴れ出して脱走したのですよ。その時、あの子供の口車に乗った他の子供達も共に孤児院から逃げ、悪童の集団になりました。それからは窃盗を繰り返しては町を騒がせ、治安を乱し、住民を不安に陥れてばかり……私も眠れない日々が続いていて、頭がおかしくなりそうなんですよ。君達には必ずやあの悪童達を一網打尽にしていただきたい!」
「……それで、その悪童の集団とやらの主な活動場所はご存知ですか。拠点などが分かっていると話は早いのですが」
「いやぁ、奴らの居所については我々も未だ見つけられておりません。町中をどれほど探し回っても、なぜか見つからないのですよ。いつも主にマーケットに姿を現すのですが、逃走を始めるとすぐに行方をくらませてしまうのです。まるでネズミのような逃げ足の速さでしてな」
「なるほど。では後ほど、街の地図を提供していただきたい。もしかしたら彼らは何か魔術を用いて拠点を隠しているのかもしれません。であれば我々の専門分野ですから、きっと手掛かりを掴めるでしょう」
「おお、それは心強いですなぁ!」
アリエル達は二人の会話を眺めながら、念話で密かに相談を始めた。
それは町長と話すアルトライトの、あまりに冷淡な態度がアリエルには気になったからである。
『リーダー、町長さんになんか冷たくないですかね?』
『ええ、必要な情報だけを聞いてさっさと会話をやめたいって感じよね』
『……実際、メシエの言う通りだろうな』
彼と知り合ってまだ間もないアリエル達だが、そんな彼女らの目から見てもアルトライトの様子が奇妙なのは察せられた。
初対面である町長には疑われていないが、仕事中だとしても過度に事務的な態度である。
──本当に、一体どうしたというのだろうか?
「それで、先ほどの爆発ですが。あれはあの少年の魔術で間違いありませんか?」
「ええ。分別のつかない子供が持つにはとても危険極まりない、強力な魔法です。あの小僧は自分が触れたものをなんでも爆発させられる力の持ち主でして、周囲にあるものすべてがあの小僧の武器になるのですよ。あんな子供一人に我々が手こずっているのは、まさにあの魔法のせいで……」
「……分かりました。情報提供はこれくらいで充分です。町長に教えていただいた情報を元に、これから我々なりに動いてみましょう。それと失礼ですが、どこか宿を紹介していただけませんか? 時間を掛けるつもりはありませんが、活動拠点は必要なので」
「う、うむ……承知しました。では私の方で皆さんのお宿の方は手配させていただきましょう。ですが連合の方々、くれぐれもよろしくお願いしますよ。あの悪童達を早くどうにかしてください。いつまでも野放しにしておいては、町民達はいつまでも気が休まりませんからねえ」
「ええ、善処致します」
町長との話を終えて執務室を後にした四人は、先に移動の疲れを取るべく彼に紹介された宿へと向かっていた。
その道すがら、アリエルは先頭を歩くアルトライトへと先ほどの疑問を直接訊ねてみた。
「あの、リーダー。一つ訊いてもいいですか?」
「どうした、アリエル」
「さっき町長さんと話している時、なんかリーダーの態度が冷ややかと言うかなんと言うか……その、あの人を嫌うような感じでしたけど、どうしてですか?」
「なんだ、見抜かれていたのか」
アルトライトとしては感情を隠していたつもりだったようで、それを見抜かれたのは気恥ずかしいのか苦笑を浮かべた。
「そうだな……ではアリエル。さっきの町長の話を聞いていて、なにか思ったことはないか?」
「思ったこと? ……ええっと、相当あの彼にやられてまいってるんだなぁ、と」
言葉の端々で語気を荒げていたので、よほどあの少年が憎らしいのだろうというのがアリエルの率直な感想だった。
「他の二人はどうだ?」
「私もアリエルと同じ意見です。町長のターゲットへの敵意の強さからして、今までかなり辛酸を舐めさせられてきたのだろうと思いました」
「俺は……」
メシエに続く翼は逡巡するように言葉を切り、周囲を一度だけ流し見た。
「……町長の言葉には、違和感を覚えました」
「「違和感?」」
アリエルとメシエが声を揃えて首を傾ぐ。しかしアルトライトだけは翼の答えを聞いて、ニヤリと微笑んでいた。
「俺も翼と同意見だ。少なくとも俺は、その違和感の正体には確信を得ている」
「町長が嘘を言っているってことですか?」
「いや、あの様子だと嘘は言っていないが、認識のズレを感じるな。俺の予想が正しければ、あれはおそらく……」
「……?」
アルトライトが肝心な部分を言わないので、アリエルとしては疑問が膨らむばかりだった。
目でメシエに訊ねてみても、彼女も理解には及んでいないのか首を横に振るう。
「宿に着いたら少し休憩して、街の調査に出るぞ。そうすれば俺達の感じている違和感が、二人にも少しは分かってくるだろうさ」
「は、はあ……」
答えを教えずに自分達に考えさせようとするやり方は、まるでアリエルの師匠を彷彿とさせる。
だが彼がそういうやり方をするのは、アリエル達が自力で答えに辿り着けると信じているからこそだろう。
ならばその期待にも応えるしかない。師匠にも言われた筈だ。
──彼を驚かせてみせろ、と。




