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魔法使いのユメ─Ain Soph Aur─  作者: 神代
序章
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Act.22『旧友Ⅱ』

「……師匠」

「あ、ああ……すまん、アリエル。お前のことをすっかり忘れていた」

「……ふむ、俺達も流石に老いたな。話を始めれば、つい周りが見えなくなってしまう。やはり寄る年波には勝てないようだな」

「それを言うなよ」

 苦笑交じりにそう返して向き直り、エドとアリエルの間に立つキョウ。

 二人のことを互いに紹介するべく、キョウは先ずエドへ目を向けた。

「お前がレイアからどこまで話を聞いているかは知らんが、この娘が俺の新しい弟子になったアリエル・アイン・ウィスタリアだ。現状、あのアウルの最新にして最後の子孫だよ」

「ほう。彼奴とは流石に似ても似つかないな」

「で、アリエル。この目付きの鋭い、如何にも大物感溢れる金髪の名前はエド・グランド。魔界創始者の一人にして、この総魔導連合(イデイン)創立から“副長”の座に千年近くも就き続けている、言わば魔界の影の王だ」

「え?」

 エドの紹介を聞いたアリエルは、突如次々に叩き込まれた濃密な情報量に混乱を起こした。

 総魔導連合(イデイン)の“副長”。

 魔界創始者の一人。

 千年近くも君臨する影の王。

 そう聞かされた途端、目の前に佇む青年から漂う存在感が急激に膨れ上がり、思わず目を逸らしてしまう。

「……誰が影の王だ。そんなものになったつもりはない」

「実質お前が魔連の裏の顔なんだから良いだろうよ、別に」

「まったく……誰のせいだと思っている」

 そんな生ける伝説の偉人が、どうしていきなり自分の目にいるのだろう。これから“長”と再会するにあたって入念に心の準備をしていたところなのに、“長”の次に偉い人物に突然出て来られては緊張は限界に達してしまう。

 と言うかこの人は何故こんな所にいるのだろう。まるで自分達がここにやって来ることを分かっていたような、そんな登場の仕方だった気が──

「──し、師匠、家に帰りませんか? なんか胃が急にキリキリしてきましたよぅ……っ!」

「お前、みんなとあんな別れ方をしておいて、どの面下げてトンボ返りするんだ?」

「あ、そ、あっ、む、むぅりぃー! それどのみち胃が痛いです、むぅーりぃーっ!」

「まあまあ取り敢えず落ち着け弟子よ、だから俺の服を乱暴に引っ張るな。結構気に入ってる服なんだからさぁ!」

 身震いしながら自身に縋り付いてくる弟子をどうにか剥がそうとするキョウだったが、仕舞いにアリエルは師匠の脚にしがみつき、さながらコアラのごとく動かなくなってしまう。

 そんな二人の様子を呆然と眺めたエドは、“副長”としての顔を覗かせて親友を見やる。

「師弟で仲が良いのは結構だが、その娘は大丈夫なのか? レイアが常々気に掛けていたが、三年間ただ甘やかしていただけでは困るぞ」

「……まあ、お前の心配は重々解るけどさ。安心してくれよ、“副長”。この娘は俺達全員が手塩にかけて育てたんだぞ?」

 自分の足許に張り付く弟子の頭に手を添えて、キョウは不敵な笑みを浮かべた。

 彼──イデアの師としての手腕は、エドもよく理解している。

 彼の弟子達は元々才能に恵まれていたとは言え、どれも特殊な性質を持つ扱いの難しい逸材だった。そんな弟子達が正しく育ち、秘めていた才能を開花させたのはイデアや彼の従者達の指導に因るところが大きい。

 そんな彼があれほど自信に満ちた笑みを見せるのだから、今度の弟子にはキョウも大きく期待しているのだろう。

 神妙な面持ちで少女をもう一度見据えたエドは、やがて納得したように息をこぼす。

「解った。お前がそこまで言うのなら、今の失言は取り消そう。ならば俺も陰ながら期待させてもらおうか、アリエル・アイン・ウィスタリア」

「は、はいっ」

 師匠の手を借りて立ち上がったアリエルにそう言うと、エドは静かに歩き出して二人の横を通り過ぎた。

 どうやらターミナルの中心部へ向かうつもりのようだ。そんな友の背中へ、キョウは怪訝そうに声を掛ける。

「で? これから外交か何かか、エド?」

「ああ、クラウンヴァリーに向かうところだ。これからグラン帝と昨今の情勢について意見交換を行わねばならんのでな」

「何だよ、供も連れずに外交とは豪気だな」

「いや。俺は別にそれでも構わんのだが、周りが許してくれないのでな。部下達は既に転移門(ポータル)の前で待たせてある」

「おいおい、それを先に言えよ。立ち話に付き合わせてしまって悪かったな」

「構わん。そもそも俺の方から声を掛けたのだからな。久々に旧友と話せるのなら、部下の小言くらい聞いてやるさ」

 そう言って二人の前から立ち去ろうとするエドだったが、彼は最後に一度だけ立ち止まり、再びキョウを見やる。

「お前がようやく手に入れた平穏だ、何処だろうが自由に生きれば良いがな。たまにはこちらにも顔を出してやれ。あの娘を慰められるのは、お前だけなんだからな」

「はいはい、お節介な忠告をどうも」

 渋い顔を浮かべる友を笑って、“副長”エド・グランドは颯爽と去って行った。

 大きな存在感が離れたことで、アリエルはようやく安堵の息を漏らす。

「いやー……なんかいきなり過ぎてびっくりしましたよ。心臓が止まるかと思いましたぁ……」

「随分と大げさだな」

「だ、だって仕方ないじゃないですか!? 魔界の創始者の一人って、つまりご先祖様と一緒の時代を生きていた伝説の中の伝説ですよ! 道端で芸能人とすれ違う以上の奇跡体験ですって!?」

「そうか? 俺は道端で故郷の幼馴染に久々に会った気分だがな」

「師匠の感覚がおかしいんですよぅ……ってそうだ、それです! 師匠、ご先祖様だけでなくあんな人とも友達だなんて、師匠は一体どういうレジェンドなんですか!? そろそろ教えてくださいよー!」

「さてと、それではレイアの所へ行くとしようか。何かエドにも釘を刺されてしまったしな」

「師匠、ちょっと話を逸らさないでくださいよ! しーしょー! しぃーしょーってばー!!」

 去ったエドとは逆方向へ歩き出すキョウ。

 そんな彼に続くアリエルの騒ぎ声で周囲からは視線が集まるが、キョウが指を鳴らすと衆目はすぐに何事もなかったかのように散らばっていく。

 そして纏わり付く弟子を引きずりながら、彼は自分達を心待ちにする聖女の元へと足早に向かって行った。


 ………

 ……

 …

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