Act.18『新風Ⅲ』
情報を聞き出し、ヴィクトル・フランシュタットの離脱を確認した五人は、大樹林にぽっかりと開けた広場の中心に集まった。
総魔導連合特務執行科所属『黄金の剣光』。それがルクスをリーダーとした、現執行科最強の呼び声高いチームだ。
“魔法殺し”セン・ルクス・ウォーノルン。
瞬速の剣士、守御斬夜。
剛剣の剣士、御剣陽桜。
斬夜の従者、御玲。
そしてルクスの息子、セン・アルトライト・ウォーノルン。
五人は戦闘を終えた休憩がてら、ヴィクトルから得られた情報について話し合うことにした。
「ヴィクトルの遺骨の入手ルートについて、みんなはどう思う? 例の事件と何か関係ありそうかな?」
ルクスの問い掛けに、四人は顔を合わせて互いに気付いたことはないか確認する。
すると最初に口を開いたのは、半人半獣の女性である御玲だった。
「ヴィクトルが大量の遺骨を買い取ったというその商人に当たってみないことには、まだ判然としませんね。魔術師の遺骨なんてそう簡単には入手出来ませんし、それを大量に商品として扱っていた商人について疑問は覚えます」
「……骨の身元が分かれば、事件の被害者かどうか照合出来るのだが。先程の男、やはり捕らえて所持している骨を情報科に調べさせるべきではなかったか、ルクス」
御玲の主である斬夜が、ルクスにそう言葉を返す。
しかし少年はゆっくりと首を横に振るい、先程まで巨大な骸がそびえ立っていた地点へと金色の瞳を向ける。
「彼の魔術は骨を一度溶かし、既存の物に混ぜ合わせて使うものらしい。その方が自分の魔力を通しやすいんだろうね。不特定多数の骨が融け合っている以上、個人の特定なんて不可能だよ斬夜」
「……趣味の悪い魔術だ」
「陽桜は? 何か気付いたことはある?」
「御玲の言った通り、商人とやらに当たるしかあるまい。今のところ得られた手掛かりはそれだけだろう」
「確かにそうだね。じゃあ一度本部に戻って、その商人について情報を集めてもらおうか。丁度アルトの件で、本部に用があるからね」
「俺の件? ……何の話だ、父さん」
首を傾げ、アルトライトは父である少年を軽く見下ろした。
二人の身長にあまり大差はないが、ルクスの容姿が年若く、アルトライトが長身の青年であることもあって、奇妙な親子の構図がそこにあった。
見慣れている他の三人ならばともかく、彼らの関係を知らない者には変わった兄弟のように映ることだろう。
「アルト。君にはこのチームを抜けて、新しいチームを率いてもらう。そろそろ巣立ちの時だよ」
「なっ──き、聞いてないぞ、そんな話!」
「うん、だって今初めて話したからね」
くすりと笑う父親に対し、アルトライトは渋い表情を浮かべる。
するとルクスの話は他の三人には予め伝えられていたのか、彼らもルクスと同じように微笑んでいた。
「もうお前も十八歳だろう。巣立つには遅いくらいだ」
「ルクスが過保護だったからな。仕方あるまい」
「斬夜と陽桜だって、未だにアルトに剣を教えたがるじゃないか。僕だけのせいにしないでよ」
「ふふ。お二人にとって、アルトくんは甥っ子のような存在ですからね。我が子のように可愛らしいのですよ」
「……」
大人達に門出を祝福されているのは理解出来るが、何だかからかわれているような気がして素直には喜べないアルトライト。
するとルクスは喜色を滲ませながらも、少年の顔立ちの中に父親の表情を浮かべ、不安を覚える息子に語り掛けた。
「アルト。君はもう一人前だ。それは君をずっと見続けてきた僕が保証する。僕がかつて憧れた父の名を受け継ぐのに相応しい男になったと思うよ」
「や、やめろよ父さん。急に……気味が悪いな……」
「まあ、まだまだ未熟なところは目立つけどね。ほら、こんなに森を荒らしちゃってさ。ここは一応セレスティアルの領内だよ? 聖王猊下に文句を言われたらどうするのさ」
「……し、仕方ないだろ。戦闘だったんだから」
己の未熟さには自覚を持っているのか、アルトライトは気恥ずかしそうに父から顔を背ける。
そんな息子の様子に笑いつつ、ルクスは他の三人を見やった。
「じゃあみんな、本部に戻ろうか。報告と情報収集の間、少しは休めると思うから。それまでは頑張ってもらうよ」
頷いた三人と共に、ルクスは先頭に立って歩き出した。
森を抜けて近くの支部に到着すれば、本部へと通じる転移門を利用して帰還することが出来る。
それまでは通ってきた陸路を引き返すのだが、アルトライトは突然告げられた報せについて未だ受け止め切れず、立ち止まっていた。
「俺が……チームを率いる……」
その日がいつか来るかも知れないと思ったことは何度かある。今や最強の執行者と謳われる父のチームで、数年間活動して来たのだ。積み上げてきた実績から、そういう可能性は充分に考えられた。だけど、まだまだ先の話だろうと思っていた。
何せ自分はまだまだ未熟だ。父は自分を一人前だと言ってくれたが、彼は息子に甘いところが目立つ。母に言わせれば、あんたがチームリーダーになるなんて十年早いと平然と言い出すだろう。
だけど。リーダーになることを告げられて、胸の中に湧き上がる感情があった。
──やれるだろうか、父さんのように。
父への憧れから来る、彼と同じ視点に立ってみたいという向上心。それは自分がチームを率いるという事実を確認するごとに、アルトライトの中で強くなっていくように感じた。
「アルト、置いて行くよ?」
「ああ、ごめん……」
風と共に駆け出し、父達の元へ合流するアルトライト。
するとアルトライトは胸の内に湧く感情に後押しされたのか、父に自分が率いるというチームについて、思い切って訊ねてみることにした。
「父さん。その……俺が率いるっていうチーム、もうメンバーは決まってるのか……?」
「正式なメンバーについては僕もまだ知らないよ。だけど一人、既に決まっている子なら知ってる」
「決まっている? それって……?」
「君が最後に会ったのは物心がつく前だから覚えてないだろうけど、兄さん──僕の師匠については、アルトも知っているだろう?」
懐かしそうに声を弾ませるルクス。
その人物のことは父母から過去に何度も聞かされているため、アルトライトもすぐに理解を示した。
「ああ、あの……今はこっちの世界にいないっていう人、だったか?」
「うん。僕や母さんの義理の兄であり、僕の魔術の師匠なんだけど、三年前に新しい弟子を取ったらしくてね。つまり僕にとって初めての妹弟子に当たる子なんだけど──」
「その子が……既に決まっているって言う……?」
「そう。彼女は“長”のお気に入りでね。実を言えば君が率いるチームはそもそも、その子のために作るチームなんだよ」
「……」
それを聞いたアルトライトは、複雑な感想を抱いた。
特務執行科におけるチーム編成は、先ずリーダーを決め、その人物を元にメンバーを選考するのが基本だと聞く。無論、例外もいくつかあり、今回がその例に該当するのだと理解は出来るが……自分がリーダーになることを先に聞かされただけに、肩透かしを食らった感は否めなかった。
「はは、そう拗ねないでよアルト。君をリーダーに推薦したのは僕なんだから。彼女のことを任せられるのは君しかいないと、僕は自信を持って“長”に推したつもりだよ? 母さんにはまだ早いって反対されたけどね」
「……分かったよ。父さんがそう言うなら、納得しておくことにする。けど“長”のお気に入りって、その子は一体どういう人物なんだよ」
「さあ、僕もまだ会ったことはないからね。だけど兄さんがわざわざ弟子に取ったんだ、普通の子じゃないことは確かだよ」
師がいなければ今の自分はなかったと、かつて父がそう言っていたことをアルトライトはよく覚えている。
彼に導かれた者は数奇な運命を辿ることになるが、それを必ず乗り越えられる強さを得るという。
父にそこまで言わせる人物が育てたという新たな弟子。自分がその人物をチームの一員として率いる以上、意識せずにはいられない存在だった。
──どんな人物なのだろう?
その疑問に突き動かされ、本部へ向かう息子の足が無意識に早まっている様子を見て、ルクスは楽しげに微笑みながら駆け出した。




