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魔法使いのユメ─Ain Soph Aur─  作者: 神代
第二章
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Act.106『妖精猫の王国ⅩⅩⅨ』

 アリエル達はついに、ヴィクトル・フランシュタットなる男の姿を視界に収めた。

 そこは先ほど魔獣達の死骸を見つけた広場よりも大きく開け、大地の隆起によっていくつもの起伏が目立つ場所だった。

 死霊使いの魔術師は、まるで彼らの到着を待ち受けていたかのように台地の一つに腰掛けていた。

「よくぞ来た、総魔導連合(イデイン)の犬ども。待っていたぞ」

 男は不敵にそう告げて、台地から降り立って執行者達と対峙する。

 百年以上もの時を生きていながらも、青年のように若い容姿の男だった。しかし闇夜に紛れるために身に纏った漆黒の外套が、緑の森の中では不気味なほど浮き彫りになり、異彩を放っている。

 男が周囲に白骨を連れていないことに警戒心を抱きながらも、カイエンは男へと神妙な面持ちで問い掛けた。

「お前がヴィクトルだな?」

「そうとも。他に誰がいるのだ」

「先ほどお前の仲間と思しき男が現れ、我々の仲間と交戦している。あちらの男がヴィクトルという可能性もなくはない」

「……クク、もっと直接的に言ったらどうだ、若造。人質の姿を見せろとな」

 ヴィクトルは指を鳴らして合図を出すと、自身の後方の木陰に潜ませていた骸の兵を隣へと歩み寄らせる。

 骸は人間の骨格をした兵士のようで、その細い腕には深い眠りに沈んだ小柄な少女を抱えていた。

 金糸で編まれたような鮮やかな金色の髪にネコの耳と尾を持った、ケット・シー王アースと瓜二つの容姿をした人物。

 その特徴から、彼女がもう一人のケット・シー王ヘヴンであることは間違いないと執行者達は判断した。

「これで証明出来たかね? 私が正真正銘のヴィクトル・フランシュタットだと」

「ああ、そのようだ。……どうして彼女を誘拐した? お前の目的を教えてもらおう、ヴィクトル」

「執行者は敵の目的を知らなければ戦えないのか? 愚昧にも程がないかね」

「我々は戦うことを目的としていない。戦闘はあくまでも手段の一つだ」

「クク……成程、成程なぁ。笑わせるではないか執行者。先ほどから互いに事を構えておいて、今さら交渉などするつもりか? 間抜けが、とっくに火蓋は切っているだろうに──」

 そう冷酷に告げて、ヴィクトルは爪先で地面を踏み鳴らして自らの走狗に指示を送る。

 すると巨大な樹木の上に隠れ潜んでいた骸の兵士達が弓を構え、執行者達へと一斉に矢を放った。

 一ヶ所に集まる執行者達へ頭上に降り注ぐ白骨の矢。

 重力を利用して加速するその矢の奇襲に、見てから反応することは困難だろう。しかし当然、罠の可能性を考慮した彼らは既に対策を講じていた。

 カイエンがヴィクトルと言葉を交わしている間にも、魔眼で周囲の様子を注意深く窺っていたアリエルは、矢が発射された瞬間にすぐさま声を上げる。

「メシエ、上!」

「任せてっ!」

 移動中に打ち合わせしていた通り、防御の要はメシエが担う。

 死霊術師と一言で言っても、彼らは各々で専門とする分野がある。

 死霊などの霊体を使役し、呪詛系統の魔術を得意とする者。

 生物の死骸を利用して様々な魔術儀装を作製し活用する者。

 大別すると死霊使いはこの二つのタイプに分かれ、自身の性質に合った分野に傾倒していく。

 ヴィクトル・フランシュタットの場合、生物の骨を操ることに特化した魔術師だとカイエンは分析していた。

 死霊を使役してはいても、その用途は骸を動かすことに徹底しており、攻撃手段も骨を利用したものに依存している。

 ならば魔獣の爪牙であれ骨製の凶器であれ、実体を持つ攻撃方法しかない以上、その防御に最も適している力を持つのは斥力の魔術によって物体を自身から反発させることが出来るメシエ・バーミリオンだ。

 そんな目論見通り、メシエは自身を中心にして他の七人を範囲に収めた斥力の力場を結界のように作り上げ、襲い来る矢の暴雨をすべて弾き返していく。

 その光景にヴィクトルはやや感心したように息を漏らすと、樹上や周辺に潜ませていた骸の兵士達を次々と広場に出現させた。

 数は五十……いや、それ以上だろうか。予測通り待ち伏せをしていたことから、辺りにまだ伏兵を用意している可能性は充分に考えられる。

「獣型ではなく人型ばかり……あれがあの男の主力と言ったところか」

「へっ、二本足で立ってる分やりやすいじゃねえか! なあ、涼!」

「その意見には同意してやるが、あまり調子に乗るなよ阿貴。お前はすぐに油断するからな」

「それを上手くカバーするのがいつものお前の役目だろ!」

 阿貴はそう言うや否や、森に入ってから拾い集めていた大量の小石を指輪から続々と召喚し、魔術によってすべて爆弾に変えて、斥力の働く境界線の外へと放り投げる。

 すると力場の外へ飛び出した小石は斥力に弾かれて加速し、さながら弾丸となって周囲の軍勢へと飛び散った。

「吹き飛びやがれぇッ!」

 阿貴の一声と共に、数多の小石が一斉に爆散する。

 小規模ながらも連鎖的に炸裂した熱風は骸達の包囲を吹き飛ばし、窮地の状況を瞬く間に覆した。

 護りに使っている斥力場を咄嗟に攻撃に利用する彼の機転に驚きつつ、剣を携えたカイエンはヴィクトルと人質であるヘヴンの姿を探した。

 爆撃を受けても骸達の列が厚い箇所が一点だけ存在する。おそらく敵はその後方に退いているのだろう。

「阿貴、あの方向には無闇に爆撃するなよ。敵の傍にはまだ人質がいるんだからな」

「おっと、そうだった……!」

「俺が先ず切り込む。ソニカ、阿貴、翼は俺をフォロー、残りは後方支援を頼んだ。最優先でヘヴン殿を救出するぞ」

 リーダーの指示に全員が頷き、斥力場が解かれる。

 それを皮切りにカイエンが駆け出し、彼に続いてソニカと阿貴、そして翼がメシエ達の元から離れて行った。

 そんな彼らの後ろ姿を見送りつつ、後方支援を任された四人はそれぞれの仕事のために準備に移っていく。

「みんな。攻撃は私が全部防いでみせるから、周りを気にせずカイエンさん達の支援に集中して!」

「ああ」

「お願いっ」

「はい!」

 周囲からの奇襲に備えて、メシエは再び斥力場を四人の周りに形成した。

 これで防備は万全だ。だが守りは堅いとは言え、力場の維持には相当な魔力を消耗する筈である。

 いつまでも彼女に頼り続けていられないことは、三人も重々理解していた。

「ねえ、涼。あんた、影から別の影に移動出来るのよね? それって物を別の影に送り込んだり出来るの?」

「可能だが。……なにをするつもりだ、シルビア?」

「決まってるでしょ。私が得意なのは妨害工作。さっきの悔しさ全部、あの男にぶつけてやるんだから……!」

 敵の正体を視認したことで恐怖が薄れたのか、闘争心に火が点いたようにシルビアはバッグの中を漁り出す。

 まだ彼女の真価をよく把握していない涼は、半信半疑でシルビアの作業を見守った。

 一方で異色の双眸を周辺に向けるアリエルは、敵の伏兵の気配を探りながらも、先ほどから伝わってくる奇妙な感覚に疑問を覚えていた。

(……なに、この感じ……?)

 発生源はアルトライトが戦っている場所からだ。

 強大な魔力に混じって大気のマナを震撼させている、何か別の力。それが何であるのかは分からないが、不思議と身体の奥がざわつくような感覚があった。

 そんな未知の体感に気を取られているアリエルを見て、メシエが鋭い声を放つ。

「アリエル、支援射撃! あんたが支援の要なんだから、ぼうっとしない!」

「わっ、ご、ごめんなさい!」

 無視出来ない感覚ではあったが、メシエの言う通り、今は他に気を回していられる状況ではない。

 アリエルは短く深呼吸をして意識を切り替え、二色の魔銃を手に取り、カイエン達の行く手に立ちふさがる軍勢へと照星を向けた。

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