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魔剣アロンダイト、いざ参る!  作者: はたらかない
グレイハウンド辺境にて
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6 魔剣、蹂躙する



 無言で審判を待つダイトであったが、相手の反応はわかりやすいものだった。


 ――無言の、一矢。


 今度は違う角度から、ダイトの額ど真ん中を狙ったちから強い矢が放たれる。

 思い切りがいいな、とダイトは余所事のようにそう考えながら、身を屈めて矢を避けた。

 これは常人の反応速度を超越したダイトだから出来る事であって、どこから来るのかもわからない強矢を視認したうえで、それに合わせて避けるというのは並大抵の事ではない。

 その難事を理解しているからこそ、エルフはまた息を呑み、そして警戒を強めた。


「なるほど。ブリューナク様の存在を知っているか!それにその身のこなし……只者ではない。貴様は危険だ!ここで永遠の時間、朽ち果ててもらう!」


 そう言い切らないうちに、四方から矢が放たれる。エルフは複数居たようだ。隠密能力の高さを鑑みて思わずダイトは舌を巻く。

 しかし、すぐさま剣を抜き放つと、神速と見紛う剣速を以て、向かってくる矢をひとつ残らず叩き落としていく。

 そして、剣を天高く八相(はっそう)(剣を両手で握り、顔の横で構える)に構えて、叫ぶ。


「言ったはずだ!退く訳にはいかないと!そっちがその気なら、推して参る!」


 言うや否や、地面を抉るようにして蹴飛ばし、近くにあったより大きな樹へと突っ込む。また、その間に飛んでくる矢は、被弾するものだけを限定して最小限の動きをもって剣で弾いていなし、近寄らせない。

 ダイトは速度を落とさぬままに大きな樹へ突っ込むと、蹴破るように樹に足を叩き込むと、そのまま樹の僅かな出っ張りを足掛かりにして、垂直に登り始めた。


「面妖な!」


 するすると樹を走りながら登るダイトにエルフは罵声を浴びせる。

 エルフは姿をあらわさないまま、それでもダイトにあたりをつけて射る事を止めないが、圧倒的な速度と僅かな蛇行により、その狙いは定まらない。

 ダイトは樹を登りきって速度を緩め、ようやく重力に従うと、手頃な枝に着地。矢の射角を考え、そのまま木々の枝を伝って、隠れたエルフ達へと肉薄する。


「く、来るな!」


 今度は、女の声ではない。年若い男の悲鳴がひとつあがると、慌てたのか、ガサゴソとはっきりと解る葉擦れの音を鳴り響かせながら、ダイトから距離を取ろうと動く。

 それを逃がすダイトではなく、援護に回った他の者達の矢を剣で器用に弾きながら肉薄し、男の腕を掴むと、そのまま引き摺りだしながら共に樹から落ちる。流石に怪我をされても面白くないので、両手でしっかりと男を抱きかかえて衝撃を殺してやると、エルフの男は特有の美丈夫顔をぎょっとさせた。髪を突いて出ている細長い耳がぴくりとひとつ震え、金糸が如き髪の毛がきらめく。

 男ははっと正気に戻ると、抱きかかえられたままダイトに向かって拳を振るうが、ダイトに(かか)えた両手を外されると、尻を強く打ち付けて悲鳴を上げて痛がり、すぐさまダイトに剣を添えられると、ぴたりと動かなくなった。


「さて、ひとりは捕らえさせてもらった!まだやるのならば、この者の生命はない!姿をあらわせ!」


 すると、男が捕らえられた時点で観念していたのか既に矢は止んでおり、すこしして更に五人ほど、背の高い樹から降ってくる。

 あの激しい矢衾を展開するには、すこし数が足りないようにも見えたが、五人が五人とも、年若そうな顔からは想像出来ないほどの気迫を兼ね備えていた事から、おそらくは全員であろう。

 正直者だなあ、とダイトはどこか他人事のように思いながら、突きつけた剣をそのままに、五人に視線を送った。


同朋(どうほう)を捕らえて、卑怯な!」


 先頭に歩み寄った、リーダー格と思しき、まだ熟れるという言葉を使うには早すぎる年頃のエルフの少女は、気の強そうな端麗な顔を歪ませ、弓を番えたままで罵る。

 ダイトは、まだ止まぬエルフ達の殺気に、内心で肩を落としながら、毅然と言い張った。


「生憎と、こちらも時間がないのでね。無礼は承知、ブリューナク殿のところへ、案内してもらえないかな?」


「誰が案内(あない)なぞするか、貴様に姿を見せたのは、不退転の決意。そこの同朋と共に、死しても貴様の益になるまいと、全力を以て抗わさせてもらうまで!」


 そう言い切ると、またたく間のうちに弓を引き絞り、それでも、尻もちをついたエルフに当たらないようにしてダイトの急所をそれぞれ撃ち抜いた。

 圧倒的至近距離からの速射であったが、それでも、ダイトを捉えるには遅すぎた。


「その覚悟は見事だと思う。が、今回は相手が悪かったと思ってくれ」


 ダイトは弓が放たれた途端、霞のように姿を眩ませると、矢を避けながら、或いは弾きながら、残る五人に肉薄。

 ひとりめ。リーダー格だと思われる、強気のエルフの少女の鳩尾に拳を叩き込んだ。彼女は、反応もできずに、ぐえっと言う声を出して倒れた。

 ふたりめ。矢を即席の短槍として扱おうとしたのか腰にある矢束から一本引き出そうと、手を後ろに回したが、遅い。ひとり目と同様にがら空きの鳩尾に拳が叩き込まれ、その場で崩折れた。

 さんにんめ。さきのふたりめのように、矢を短槍に見立てて振るうが、苦し紛れの攻撃など当たるはずもなく。即座に(やじり)の部分を切り飛ばして、今度は顎に拳を叩き込み、昏倒させた。

 よにんめ。一瞬の間に倒れる仲間に恐怖したのか、腕をめちゃくちゃに振っていた。構ってやる必要もないので、拳を頬にねじ込んで、森へ沈めた。

 ごにんめ。せめて一太刀でもと、決死の覚悟でダイトの拳に合わせて矢を振るうが。基礎の速度が違いすぎた。矢は当たることなく、拳が顎をかち上げて、最後のエルフは目を回して倒れた。


 圧倒的な速力を以て、ダイトはそれぞれを容易に降すと、さて、といった体でダイトは尻もちがついたエルフの男に振り返る。

 尻もちついた男は、仲間が一瞬で倒される事態に目を白黒させた後に、怯えきった目でダイトを見た。男は化け物じみたダイトの実力に、下半身を温かいもので濡らしていた。尻もちをついたまま、後退(あとずさ)りするが、ダイトが一歩踏み込むと、びくりと身体を震わせて、止まる。


「安心して欲しい。生命までは取っていない。ただ、こんな森の奥で放置されれば……わかるね?」


 それは、この者らが森の掟じゃくにくきょうしょくに従って、死ぬことを意味していた。

 無論、男はそんな運命、受け入れられるはずがない。涙を流しながら、こくこくと頷いた。

 ダイトは男を(おど)かすような言葉を口にはしているが、実際に彼らを見捨てるつもりはなかった。それは彼が魔剣という人生――剣生を生きる際に選んだ徳目にも起因している。


 ――――『義』のアロンダイト。それが七罪六徳の中で彼が選んだ選択。正道をゆく事こそが彼の本懐。

 人道に従うことを是とするのに人を、ましてや里を護っている守り人らしいものを見捨てるなど、ダイトには出来ない。この男が仮に逃げたとなれば、彼女らを保護して里への案内をまたお願いするだけであった。


 ダイトはそんなことをおくびにも出さず、怯えて縮こまったエルフの男ににっこりと微笑みかけながら、剣をしまった。



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