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魔剣アロンダイト、いざ参る!  作者: はたらかない
グレイハウンド辺境にて
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15 魔剣、『証』を証明する



 グレイハウンド城、訓練所。

 おおきく、広く取られた剥き出しの大地がそこにあり、数々の爪や歯、骨や血などが染みをつくるように散乱している。定期的に掃除はされても、すぐにまた、騎士達の激しい訓練によって汚される為に、こびり着いたように取れない。

 日頃は様々な騎士達が集って、己を高める場所として用いられるそこは、現在、恐ろしいほどの緊張感が、場を支配していた。


「おめーら!騎士としての意地ってもんを見せろ!」


 発奮(はっぷん)の声を掛けるのは、コリンズ。騎士達も緊張の面持ちを浮かべて、各々が武器を携えているが、彼もまた、大いに気を張っている。

 愛用の長剣は剣先が僅かに震え、彼の緊張具合を伝えている。


「ちょっと、騎士を(いじく)って自分の緊張を紛らわせようとするなんて、みっともない真似はやめなさい」


 と、ライム。彼女も、愛用の槍を構えながら、声を上擦らせている。


「おめーだって、声が震えてるぞ」

「なによ」


 コリンズは長剣をライムに向け、ライムも槍を向けてじゃれあう。

 騎士らはそのふたりを見て、多少の緊張をほぐす事に成功するが、それでも、相対するものの圧力に屈してしまいそうになるのは変わらなかった。

 コリンズ、ライムを含め、騎士のべ三百名。一個中隊を並べてもまだまだ余裕がある訓練場に、それらすべてを震わせる程の圧力を発する化け物がいた。


「うむ、相手の殺気で間合いが(かす)んで見えるといった事は幾度かあれど、まさか周囲が歪んで見えるなぞ、ついぞ見たことがなかったわ!」


 心胆が冷え、もの(・・)も縮みこむわい、と他人事のようにガルフォードは唸る。

 実際に、そうであった。苛烈な青年期を過ごしてきたガルフォードをして、震えが止まらないと言わしめるのは、ダイト。

 大きく展開した一個中隊の中にぽつんと居るだけの、銀の人垣に埋もれるはずの、小さな白い影の筈なのに、気配は異常そのもの。

 言葉で言い表すのは不可能とも思える程に、その覇気(はき)はみなぎりを見せており、その間合いの広さも()ることながら、一度踏み込めば生きては帰れないと思わせるような暴力的な圧力がそこにはあった。

 あらかじめ、不殺(ころさず)での調練だと言わなければ、如何に精鋭の騎士を揃えたと言えども、逃げ出したやもしれん、とガルフォードは思う。


「言っておきますけども、『魔王』はこの比ではありません。『人』という脆弱な器でこれです、『亞人』や『魔物』という強靭な器を"喰い(・・)"潰し、ただ魔剣として扱う為の『器』と成り果てた『魔王』は、宿主と寄り添い、十二分に"聖遺物(レリック)"を扱った傑物が集まって、ようやく討てる程の強いですよ」


 と、ダイトは自身の発する空気におびえる者逹に言った。

 ダイトは今、ローブをはずして魔剣に"喰われた(・・・・)"者特有の青白い肌を晒している。というのも、もし仮に、自分に一太刀を浴びせるようなものがあれば、折角(フルンティグ)が用意してくれた召し物を台無しになってしまうのを嫌ってのことだ。

 自分の剣に鞘を被せているが、騎士らの剣は刃引きしたものではない。ダイトは、得意の武器で、全力を以て相手をすることを望んで、敢えて彼らに実剣を持たせた。

 しかし、それにメアリリは怒った。怪我したり、痛い思いしたらどうするの、と。

 それに対して、ダイトはストロロに頼んで、自分を弓矢で射ってみてくれと言って、全力の一矢を弾き飛ばした経緯がある。

 この世界では、魔力の大小で様々な事が出来る。例えば、ダイトのような巨大な魔力の持ち主となれば、身体を鋼のように硬くする事や、身体からは想像出来ないほどの膂力を発揮する事も出来る。

 無論、普通の人族ならば、そのような真似はよっぽどじゃないと出来ないのだが――

 ともかく、それを見たメアリリは、なら大丈夫なのかな?と不承不承納得して引き下がるのだが、その時に生じた、鋼と激突したような甲高い音が、その場に居たライムとコリンズを含む騎士達の心根を、更に暗澹(あんたん)せしめるものにしていた。


「では、いつでもどうぞ」


 ダイトは片手で鞘に収めた自分を構えると、もう片方の手で手招きをする。

 四方に散った騎士は――コリンズとライムを含め――、一拍置いた後に、ダイトへと斬りかかるが。

 だが、すでにそこにダイトはおらず、騎士達の隙間ない連携を縫うようにして抜けると、撫でるようにそれぞれに一太刀を浴びせ、周囲に居た騎士たちを即座に昏倒させてしまう。

 つづいて、氷で刀身を伸ばすコリンズがダイトの背後から唐竹に、断首を行う処刑人のような重々しい斬撃を放ち、炎を槍に纏わせたライムが真正面から槍で全身全霊を持った、乾坤一擲の豪槍を振るう、息のあった連携を見せる。常人(ただびと)では、どちらも必殺と思えるような勢いを有しており、傍から見ればどちらを対処しても、一撃が入ると思うタイミングであったが。これもまた、ダイトはひと回転、目にも留まらぬような速さで剣を振るって、両者の魔法を薙ぎ払って打ち消した。そして、先の騎士達のように、ふたりを撫でるようにして腹や顎を打って昏倒させてしまう。


 そうなると、騎士たちはあとを続かない。

 踏み込むのに躊躇して、その迷いをダイトに見透かされてしまい、ダイトはおのれの身体を捩じ込むようにして騎士達に肉薄。目にも留まらぬ剣閃で、ひとつふたつ剣を振るうと、複数の騎士が倒れる。怯え、縮こまった剣を振るう騎士の剣を弾き飛ばし、即座に喉に突きを叩き込む。騎士はぐえっと蛙が潰れるような悲鳴を上げると、喉に手を伸ばそうとしたまま、失神してしまった。


 さながら、それは銀色の旋風であった。


 ダイトの色素の抜けた髪が、陽光を跳ねるたびに、騎士が倒れ地に臥す。圧倒的な力量差。凶悪なまでの地力の違い。それが、聖遺物であり、あらゆる『魔王』を斬り抜けてきた英傑(アロンダイト)と、『魔王』と言う脅威に晒されたことがない、騎士達の差。

 騎士には、その差がはっきりと理解出来た。自らが振るう剣が、あっさりと空を切り、即座に一撃で失神に至る打撃を受け、地を舐める。しかも、その一撃たるや、こちらを気遣うような、撫でるような、ゆったりとした一撃ばかりだ。それを見て、力量差を悟れない程馬鹿な騎士は居なかった。

 あまりの強靭(つよ)さに、恐れをなして逃げ惑う騎士も居たが、ダイトは地を蹴ってそれに追いつくと、また剣を閃かせて、容赦なく昏倒させてしまう。

 縦横無尽。まさにその言葉が口をついて出てくるほど、ダイトという銀色の旋風は騎士を呑み込み、ただひとりも無事に帰すことはなかった。


 結局、一太刀も浴びることもないまま、一個中隊、三百人もの騎士を倒してしまった。



「あとは、ぼくは不得意ですが、こういった事も出来ます」


 そう言って、倒れた騎士達を尻目に、ダイトが剣を(かざ)すと、人が何十人でも入りそうな程大きな業火が灯る。

 本来、魔法というものは詠唱を伴うもので、発動までにそれなりの時間を必要とする。故に、魔剣のように即座に魔法を発動させる媒体というものは、遠近問わず、いくさを生業とする者ならば好む代物だ。

 だが、ダイトは詠唱する事なく、即座に魔法を出して見せた。

 業火は時折身動(みじろ)ぐように紅炎を唸らせ、今にも爆発してしまいそうだった。

 遠く離れたガルフォードですら感じる程の、温度の変化を与えるそれに慌てて、ガルフォードは制止の声を掛ける。


「わかった!わかった!止めてくれ!そんなものを放たれては、どれだけの被害が及ぶかわからん!」

「さすがにこれを放るつもりはありませんよ」


 そう言って、ダイトはその業火を簡単に消し去った。

 そして、ダイトはおのれが放つ圧力を霧散させると、ガルフォードに向き直り、確認するかのように言う。


「これでわかったと思いますが、"聖遺物"に対応するのは"聖遺物"以上でなければなりません。『魔王』も、そう言った"聖遺物"級以上の魔剣を持った亞人や、人です。必ず、人に大きな災いを及ぼすでしょう」

「うむ……。魔剣というものの認識を、おおきく変えたほうが良いというのがわかったわい」


 ガルフォードはあごひげを撫でながら、後ろに控えた救護班に伸びた騎士の介護に当たるよう伝えた。


「しかし、これ程の事が出来るダイト殿逹"聖遺物"が、複数居ないと勝てぬ『魔王』とやらが存在するとは、これまた(にわか)に信じがたい」


 ガルフォードは、ひとりの騎士に近付き、ただの強打一振りで、意識が落ちていることを確認する。

 これをひとりですべて行えるものが、複数居てようやく『魔王』と対等に戦えるなどとは。まるで神話の話のようで考えがたい。いや、考えたくもない。

 いったいどれほどの災禍が人に(もたら)されるのか。また、ひとという種の軌跡が途絶えるほどの、いや、もしかしたら人族が滅びるほどの災厄が、おとずれるのではないだろうか。

 そんな、ぞっとしない気持ちを、ガルフォードは抱える。


「それに関しては、私が説明しましょう」


 そう言ったのは、メアリリの身体を借りたブリューナクであった。




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