14 魔剣、脅威の『証』を求められる
話統合の際に足が出たのでそのまま投下
歓談を破ったのは、日焼けした肌のかなり大柄な青年であった。
「じじい、ダイトとやらが来たってのは本当か!」
その声はよく響き、若干耳煩わしさを感じる程であった。
短く刈り上げた茶髪は、日焼けした肌と相俟って、快活そうな印象を与える。垂れた眦に、整った目鼻の顔立ちに加えて、程よくついた筋肉の肢体とあらば、さぞかし多くの女性が言い寄る事だろう。顔つきといい、身体つきといい、その青年は、ガルフォードを若くしたのならばこうであったろう、と言った風体をしていた。
「客人が居ると言うのにノックもせずに入る馬鹿がおるか」
ガルフォードはその青年を諌めると、手招きして、傍らに立たせる。
「さて、この馬鹿者の名はコリンズ。儂の息子じゃ」
「ごしょーかいにあずかりましたー、コリンズって言います。ダイトとやら!俺と勝負しろ!どんだけ強いのか、確かめてやる!」
「これ!それは後じゃ!勝手に話を進めようとするな!」
中々に愚直な青年で、ダイトはあまり悪い気はしなかったが、メアリリは不機嫌そうに眉根を寄せる。
ガルフォードは、こめかみを擦って頭痛を追い出した。
そして、芝居がかった様子でひとつ咳を吐くと、ダイトらを睥睨するように視線を向けた。
「さて、役者が揃ったようで。儂はひとつだけ、確かめたいことがある。ダイト殿、以前、儂に『魔王』の話をしたな。息子達にもそれは伝えてある。"聖遺物"級――儂らの想像に及ばぬ程の、巨大なちからを持った"魔剣"を集め、『魔王』に対抗しようと。そうして見つけてきたのが、こちらの森人の御仁、メアリリ殿と、そういうわけじゃな」
さきの好々爺の空気とはうって変わって、するどく重い圧力を纏ったガルフォードはダイトに問う。
ストロロとサムタウ、そしてメアリリは、突如変わった雰囲気に気圧され、息を詰まらせる。
ダイトは、その圧力を受けても、ものともせずに、そうだね、と首肯した。
「思うに、ダイト殿。おぬしが語る『魔王』とやら、それはおぬし自身じゃなかろうか。現におぬしは魔剣に"喰われた"者。さきの『魔王』とやらが、どういった魔剣"喰われ"かは知らぬが、おぬしの話した『魔王』とやらの状況に、酷似しておる」
「……そうだね」
ダイトは痛みに堪えるような、そんな表情で、絞り出すように応じる。
ダイトが疑われてもおかしくない状況ではあった。
ダイトはひとを"喰った"魔剣。そして、それでいながら高度な知能を有し、そして多くの魔剣を募る事を欲している。
『魔王』打倒という明確な目標を掲げど、その『魔王』が虚像であるのなら。
ダイト自身が『魔王』として、君臨してもおかしくない程に、状況は整いつつある。
だから、だからこそである。
ガルフォードは目を細めて、ダイトらを睨みつけた。
「なればこそ、化けの皮ならばここで剥いでおかねばなるまい。儂らが決死をもってして、おぬしを止めねばなるまい。魔剣というものは多くの福を呼ぶとともに、おなじだけの災いを生む。おぬしが、その災いを生む前に止めねばならぬのが、儂のような人の上に立つ者の責務。ダイト殿、信に足るものを、おぬしは提示出来るかを問いたい」
それは、証。
『魔王』という"脅威"がいるという証。
手っ取り早く、自分を納得させる為の証を提示せよと、ガルフォードはダイトに詰問した。
ダイトは、それに首を振って答える。
「まず、その問いには、いいえ、としか答えられません。前にも言ったとおり、ぼくは根無し草でしたから。信じろと言われて信じられないならば、仕方ありません。だから、ぼくは行動で示すつもりです。ですが、『魔王』と言った脅威の具体性については、語れます。それこそ、武力をもって」
ダイトは言い終えると、ガルフォードに真正面からじっと視線を向ける。
そして、目深に被ったローブを剥ぎ取り、青白い肌を見せてダイトは挑戦的に言い放つ。
「ぼくひとりでも、この城すべての人間を殺しきることくらい訳ない。そのちからを、示しましょう」




