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魔剣アロンダイト、いざ参る!  作者: はたらかない
グレイハウンド辺境にて
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13 はらぐろじじい



 グレイハウンド領・グレイハウンド城。

 威風を持った外観を持ち、内観もそれに見合った質素堅実のつくりがされていた。

 その威容はダイトが現代で知り得るなかで、フロースガル王国城と並ぶ程。つまりは、それ程の権威を(いただ)く程の財と権力を築いているという象徴でもあった。

 事実、グレイハウンドの名は有名であった。みっつの国の交易路を担いながらも、治安維持とインフラの整備にちからを割き、多くの商人をふところに抱え込んで得たちからは、ひょっとすると一国を左右しかねない程のものである。


 そんな、貴族界隈の化け物の城だが、素人目でも判りやすいような派手派手しい豪華な調度品などはなく、どこか趣のある品々が並べられており、エルフの3人はそれに感銘を受けていた。

 そうして、ライムの先導の下、多くの扉をくぐって、通されたグレイハウンド城主の執務室。

 重厚な執務机には、たくさんの書類がうず高く積み上げられており、書類の山を割るようにして顔を出しているのは、グレイハウンド家4代きっての名君と言われる、ガルフォード・グレイハウンド。その老人は、書類に埋もれながらも、壮健な様子でダイト達を迎えた。


「ひとつきぶりになるか、息災……というのもおかしいか? ダイト殿」

「いえ、わざわざ丁寧にありがとうございます、ガルフォードさん」


 豊かに蓄えたひげを撫でて、ほっほっほ、とひとつ笑うと、ライムに視線をやる。

 ガルフォード卿は一見、好々爺とも思えるような顔をした老人であったが、その背筋は鋼でも入っているかのようにピンと立っており、肩幅は広く、手には剣ダコと古傷を多く残しており、見る人から見れば、歴戦の古豪と言った風情のある人柄であった。


「まさか、ライムがかようなところに、御仁を連れてくるとは思わなかったわい」

「あら、最近じゃ珍しいエルフだから友好の為にっていうのと、あとでダイトにここの訓練場を借りて胸を貸してもらうところだったの」


 エルフがめずらしい。これには理由がある。

 というのも、一年前までこの国の貴族は腐敗しており、自分の好き放題勝手放題していたのだ。実際に何人かエルフは囚われ、貴族の慰みものになったものもいる。それ故に、メアリリ達の部族達が先陣をきって、フロースガル王国に戦争を起こしてもおかしくない雰囲気さえあった。


 しかし、それを止めたのが、アレクサンダーだ。

 ガルフォードはフロースガル王国の行く末に滅びを見て、己の財を積んで、この国に引導を渡してやろうとおもっていた。そんな折に、ふらりとまるっきり農民上がりの装いでアレクサンダーがガルフォードのもとに現れて、この国の変革を訴えたのが革命のはじまりだった。

 アレクサンダーは多くの街を駆け、悪徳貴族を引き摺り下ろして首を刈り、世論を背にしてガルフォードの、グレイハウンドの門戸を叩き、その豊富な財と名前を借りて、悪しき前王フロースガル6世を引き摺り下ろしたのは、記憶にあたらしい。

 こまごまとした(まつりごと)の類の世話は、未だにガルフォードが兼務しており、グノーグの森への外交も彼の仕事の範疇であった。

 どうにか軌道に乗り始めて、エルフが矛先を収めてくれたことに、ほっとしたのはつい最近の事だ。


「ふむ、その飽くなきまでの向上意欲は感心するが、また貴様は学問を修めるでもなく街をぶらついていた理由にはなるまい。おって、罰を下す」

「う、うぐ……」


 ライムは項垂れて沈黙したのを確認すると、ガルフォード卿はダイトに視線を移す。

 その視線は孫でも見るかのような、優しい目つきであった。


「おそらく、この馬鹿娘が言い出して聞かなかっただけじゃろうて。すまぬな、もし迷惑だったならば、拒否してもらっても構わんよ」

「いえ、こちらも助けられた手前です、拙い腕ですが、この腕振るいましょう」

「すまぬ、恩に着るぞ、ダイト殿」


 そう言って、立ち上がると、ガルフォードは深く頭を下げた。

 じじいが頭を下げるなんて珍しい、と零すライムにガルフォードはぎろりとひと睨みして黙らせると、どうせならばともうひとりの息子を呼びに行かせた。

 その間に、エルフにガルフォードは語りかける。


「グノーグからはるばるお越しいただき、ありがとうございます。君達が、或いは君達の誰かがダイト殿の言っていた"聖遺物(レリック)"の魔剣の使い手であろうか?」


「あ、は、はい!わたしがそうです!」


「ほう、なるほど。エルフの歳は人族からは計り知る事が出来ないと聞くが、大層若く見える。随分と素晴らしい才に恵まれ、研鑽を積んできた事でしょう」


「い、いえ、あ、はい!それはもういっぱい修行とかしてて」


「……よくサボってるのに?」

「……ねー」


「そこ、うるさい」


「それに、その御二方も随分な手練とお見受けする。やはり、グノーグという厳しい環境は人を育てるのであろうか」


「確かに、狩猟も命懸けだからね」


「魔物と獲物の奪い合いもあるわ、だから、最初は森に溶け込む事から学ぶの。狩りを出来て、ようやくあそこでは一人前を名乗れる」


 そう、自慢げに鼻を鳴らして、ストロロは語る。

 ストロロとサムタウは、若手では一、ニを争う程の狩りの名手で、その語りは饒舌(じょうぜつ)であった。狩りの技を鼻高々に曝しては、ガルフォードは絶妙なタイミングで合いの手を打って、話を盛りたてる。ふたりは、多くのエルフ固有の技術や考え方を晒す事になるが、気付かない。

 メアリリは違和感のようなものを感じて、ダイトの袖を引いて居たが、それでも知ってもらう事は悪く無いか、と多少思い直して、黙ってそのさまを見届けていた。

 ガルフォードは、エルフの狩人ふたりの語らいにしめしめと、(まなじり)を柔らかくし、それを横目で見るライムは「……はらぐろじじい」とつぶやくのであった。





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