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魔剣アロンダイト、いざ参る!  作者: はたらかない
グレイハウンド辺境にて
13/37

12 魔剣、気っ風がいい少女と出会う




「なんでぇなんでぇ。けったい奴だね」


 突如、ダイト達を追う形で現れた少女は、三文役者な男達に食って掛かる。

 役者掛かった口調ではあったが、それは堂に入ったもので、普段から荒事慣れしてる様子すら伺えた。

 身なりはちいさいけども、すくなくとも、半端者に口を挟むだけの武威はあるな、とダイトは少女のちからを認めた。


「な、なんだこのチビ!」


 男のひとりは、乱入してきた少女に口を尖らせる。しかし、その口調とは裏腹にどこか喜色に満ちた表情を各々は浮かべていた。何故ならば、標的がまたひとつ増えたと単純に思ったからだ。


 少女はそれ程身の丈が高いわけではないが、その身体は蠱惑的であった。それでありながら、十分に器量は良しと言えるほどに顔立ちも整っていた。

 身長はダイトよりすこしだけ大きい位で、日に焼けた小麦色の肌に、きりりと強気そうな切れ長の目。赤い髪のポニーテールに、高くて真っ直ぐな鼻梁(びりょう)をしていて、唇はふっくらと柔らかそうであった。(かんばせ)はすっとしているのに、男好きそうな肉感的な身体をしており、些か軽装が過ぎる肌着のような衣服と、急所しか覆っていない防具は、扇情的な格好であった。


 三文役者どもは、口では罵りつつも、新しい鴨が来たと内心ほくそ笑む。

 ダイトは男達に呆れていた。すくなくとも、あの身の丈を超える槍を軽々と片手で使っている時点で、ある程度の実力は持っていることがわかりそうだが、所詮は半端者か。それとも、それ程までに自分達を過信する理由があるのだろうか。


「かっちーん!誰がチビか!それにこのライム様を知らないだなんて、あんた達流離人(ながれもの)ね?」


「ああ、そうさ!だが、俺らは(オーガ)を倒したパーティだぜえ?女がひとりふたり増えようが、どうってこたぁねえんだよ!」


 そう(うそぶ)く男たち。その様は滑稽にすら思えた。

 ダイトから見ても、男らの実力のそれはチンピラと変わらない。とてもじゃないが、3mを超える化け物である鬼を倒せるなどとは到底思えなかった。


「はぁん……? でも、その割には貧相な身体してるね!」


 不敵にライムは言うと、唐突に槍を旋回させると、柄で男の顎をかち上げて吹き飛ばした。

 男は路地裏の壁へ背中を(したた)かに打ち付け、そのまま気を失う。小さな身なりではあるが、ライムはそれなりの怪力を持っているようだ。

 あまりにも呆気ない有様に、ライムも思わず目が点になる。

 一方の男達は、仲間がやられた事に憤り、唾を飛ばす。


「はぁ、しょうもな。嘘じゃないの」

「てめえ!」

「この野郎!」


 陳腐(ちんぷ)的な台詞を吐きながら、男達はライムに襲い掛かる。

 途中、ダイト逹をすり抜けようとした者逹は、サムタウとストロロに足を引っ掛けておおきくすっ転び、とどめの一撃とばかりにそれぞれから、顔面に一撃を加えられて、気を失った。


 さて、ライムはというと。

 掴みかかってくる男のひとりを槍の柄で鳩尾を打ち据えると、即座に顎先に拳を叩き込んで昏倒させる。次に、その男の影からあらわれた男を即座に標的として、鼻っ柱に拳を打ち据えた。

 そうしている間に迫ったもうひとりが、ナイフを取り出してライムに襲いかかるが、稚拙な太刀筋で振るわれたものを槍を振るうことで弾くと、すぐさま蹴りを膝に叩き込んで相手の戦闘能力を奪い取る。


「ほんと、口先だけは威勢がいいね!」


 ライムは鼻で笑いながら、たたらを踏んだ男のうち、膝を叩き込んだ方の額を槍の石突きで突き飛ばした。額がかち割れて、血の糸を伸ばしながら、男はもんどり打って倒れる。

 鼻っ柱が折れて血みどろになった男は、それでも根性があるのかライムに襲いかかる、が。途中でぴたりと身体を止めた。いつの間にやらライムは槍を戻し、槍の刃先が男の眼前にぴたりと止められていたからだ。

 しかも魔剣だったのだろう、魔法の詠唱もなしに槍に炎を這わせて、ライムは邪悪に嗤う。


「さて、死ぬ?それとも、降参する?」


 苛烈なまでのライムの様子とその槍の刃先が向いているを見て、最後の男はひっと喉を鳴らして、股間から暖かいものを漏らしながら、その場にくずおれた。




*--*--*--*




 それから幾許か経って。

 ダイトはことを収めてくれたライムに礼の言葉を述べた。


「助けてくれて、ありがとうございました」

「良いってことよん!一応、騎士団の仕事だからね」


 ライムは気っ風良くそう言うと、自前の槍を担ぎ直した。

 ダイトらは路地裏から出て、騎士を呼んで下手人を捕縛されるさまを見送った後、ライムへ素直に頭を垂れた。


「ちゃんとお礼出来るなんていい子ね、ぼく。フードで顔を隠しているのは恥ずかしがり屋さんかな?」

「ええ、そうです。ちょっと人前だと恥ずかしいもので」


 ライムの気安い返事にダイトはフードで顔が隠れているが、にっこりと応じる。

 そんなダイトを見て、メアリリは庇護欲を掻き立てられると同時に無性に独占したいという欲求が生まれて、


「渡さないわよ」


 と、メアリリは謎の対抗意識をライムに燃やして、ダイトをぎゅっと抱きしめた。

 ライムとダイトはメアリリの意図が読めず、ともに小首を傾げた。


「それより、若い子逹だけでこんなところに来るなんて、駄目じゃないか」

「いえ、それには訳がありまして。お店で空いている宿を聞いたら、この道を案内されたんですよ」


 と、ダイト。

 どうやら、ここは柄の悪い男らが(たむろ)する、あまり品性によろしくない通りであったらしい。

 現に、どこか小汚い身なりをした人々は、先程からダイト達を冷めた目で見つめるだけで、動こうとすらしない。

 あまり気持ち良いものではないな、とダイトはおもった。

 ライムは合点がいったようで、ああ!と思わず言葉を漏らしながら言う。


「そりゃあひとさらいの業者ね。あとでとっちめてやるから、教えて。宿場なら、私が知ってるから案内してあげるよ」

「ありがとうございます、助かります」


「良いって良いって!あなたはちいさいのにしっかりしてるね!」

「よく言われます」


「お兄ちゃん逹も、これっくらいしっかりしないと駄目よ」

「あ、はい……」


 ダイトはローブに(かんばせ)を隠しながらも、愛想よく振る舞って、頭を下げる。

 ライムの世辞にも慣れたように応じて、ストロロとサムタウは舌を巻いた。


「ダイトくんかわいい……」


 一方で、メアリリはどこか恍惚とした、蕩けた表情でダイトを見るのであった。

 おそらくはなにか、小児愛に触れてはイケナイ部分にダイトは触れてしまったのだろう。美人が台無しである。


「ん?ダイト……?」


 ライムはその名前に覚えが合った。確か、あれはじじいと――

 ばっとライムはダイトに振り向くと、乱暴な手つきで目深にかぶったローブを剥ぎ取った。

 すると、あらわれたのは、魔剣に"喰われた(・・・・)"特有の青白い肌をした、おさなさが目立つ少年。


「ダイト……フルンティグ様に不埒を働いた魔剣!」


 突如、豹変(ひょうへん)したライムは、槍をダイトに向かって振り下ろす。


「フルンティグ様……きみは、フルンティグの関係者かい?」


 ダイトは焦らずに、その振り下ろしを柄を持って受け止めると、事も無げに聞いた。

 押しても引いてもぴくりとも動かない槍にライムは舌打ちした。

 だが、それだけでライムを抑えられる筈はなかった。

 槍を受け止めた手に、ダイトはするどい痛みが走るの感じ取ると、即座に槍を手離した。手放した瞬間、丁度ダイトが掴んでいた部分から炎が吹き荒れる。ダイトは間一髪の所でライムから距離を取ることで難を逃れた。


「待ってください!一体なんですか!?」


 すると、メアリリがダイトの前に躍り出ると、両腕を挙げて彼をかばう。

 ライムは槍の刃先を彷徨わせながら、メアリリを睨む。


「フルンティグ様に襲いかかって、よくもぬけぬけと……しかも、呼び捨てですって!?」


「いや、あれはフルンティグが襲ってきたんだけど」


「そりゃあ、当たり前よ!人の部屋に知らない人が勝手に入ってきたら、誰だってとりあえず追い出そうとするわ!」


「うん、そうだけど……」


 ―――これに、ストロロも首肯。立場は違えども、彼女もダイトに攻め入られた立場であった。



「それに、フルンティグ様を易易と下したっていうのが気に食わない!」

「そこも語弊があるし……別に自分で易易とか言ってる訳でもなければ……」


「問答無用!と、言いたい所だけど、他人の軒先(のきさき)で派手に暴れるのも迷惑だから、いずれの機会で」


 一歩踏み出そうとするライムだったが、間にメアリリを挟んでいたことと、ひと様の迷惑を考えてか、既に矛先を治めるつもりであったらしい。殺気がすでに霧散していることに気付いていたダイトは、それに首を縦に振って応じた。

 ストロロもサムタウも気付いていた為、茶番を見るような眼差しでそれを見守っていた。ただ、唯一固唾を飲みながら庇い立てていたメアリリは、肩を落としてほっと一息ついた。

 

「あなた逹、宿を探しているって言ったわね?なら、グレイハウンド城(わたしのとこ)に来ると良いわ。ダイト、あんたに復讐したいのもあるしね!」


 再び、槍を担ぎ直して、ライムは言った。

 これにグレイハウンド候―――ガルフォード卿に会うのには好都合だと考えたダイトは頷くと、メアリリ逹を連れて、ライムのあとに続くのであった。




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