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魔剣アロンダイト、いざ参る!  作者: はたらかない
グレイハウンド辺境にて
12/37

11 魔剣、おのぼりさんになる



 エルフの里から出て八日が経った。

 あれからフォレスト・ジャガーよりもおおきな魔物や猛獣に襲われもしたが、ダイトの剣を前にして無事だったものはおらず、みな等しく肉や革などになって、彼らの旅路を助ける食糧や資金源となった。

 その旅路はさすがにダイトひとりのものであった時よりは遥かに遅く、グノーグの大森林(こちら)からグレイハウンド領へ戻るのに前回の二倍ちかくの時間を掛けて、一行はグレイハウンド領城直近の街、テーレスに身を寄せることになった。

 道中、何度かメアリリとサムタウはそれでも、人族としては厳しい進行行程に不平不満を漏らしたが、街につくとその活気に目を奪われ、町並みのすべてに目を輝かせていた。


 グレイハウンド領城直近の街・テーレス。

 そこはグノーグの魔境からまれに漏れ出てくる強大な魔物から、民や販路を開拓する商人らを護るため多くの騎士が巡回する、交易都市。森を迂回してみっつの国の境界を担うこの領は交易が盛んに行われ、大層賑わっている。

 さまざまな文化が入り混じっている為か、軒先は玉石混交とした建物が羅列されており、本当におなじ街なのか疑問におもってしまう程さまざまな建造物に溢れている。

 例えば東に目を向ければフロースガルで一般的なレンガで丁寧に組み立てたどっしりとした風格を持った石造りの建造物が立ち並ぶ居住区だったり、西を向けば加工した樹木を釘などといった留め具を使わずに組む高度な建築技術の店が居並んでいる。北に目を向ければ数多くの屋台が所狭しと並んで芳しい食物の臭いで人を誘い、南を見ればあばら家と小汚い浮浪者が目立つ緊張感のある区域など。多くの交易と交流の末に、人々は街の各所に自然と集まり、おのれの才覚を振るって日々励んでいる。


 中でも目を見張るのが、東区――主に移民が店を開いている区域だ。

 道行く人々はひっきりなしに声を上げて人を呼び込み、時には握手を、時には拳で語り合い、算盤(そろばん)を引く音が常に絶えない。

 ダイトが以前訪れたところは西区のフロースガル国が主に販路開く場所であって、冒険者ギルドという互助組織にその場で狩った獣や魔物の革を換金してもらい、最低限の食料だけを買い込んだ位しか、この街の世話になっておらず、こうしてゆっくりと街を見物するのは初めてとなる。

 ここ最近続いた雨季がようやく終わりを告げ、幾分か雲があるが、天気は快晴。街を巡るのにも良い日取りとなった。


「ほえー。すごい人ねえ」


 興奮の為か、耳をひょこひょこと動かして、メアリリは人の波に指をくわえる。

 現在、ダイトらは冒険者ギルドで持ち込んだ肉や革などの換金を済ませ、この街の宿を探しに東区へとぷらぷらと足を運んでいた。

 エルフの三人は既に旅装を解いて、いつもの緑装束に戻しており、陶磁のような白い肌を晒して、周囲からはちらちらと視線を集めていた。


「メメメメアリリリ、はははははぐれてはいけませんよ、よっ」

「はぐれて困るのはストロロっぽそうだけどねえ……」


 ストロロは、一度に大量の人を見て震えていた。どうやら、彼女はあがり症らしく、こういったおおくの人が入り交じる喧騒は苦手のようであった。

 一方のサムタウはのらりくらりとしたもので、多くの視線を集めても我関せずと町並みに気を取られている。

 ダイトだが、一般に魔剣というものがどれだけ知悉(ちしつ)されているかはわからない以上、肌を曝す訳にはいかず、結局、ローブを目深に着込んでいる。


「そうだね、ストロロの言うように、はぐれないよう手を繋いでいこう。ぼくらは背が高くないから、一度人の波に巻き込まれたら大変だからね」


 そう言ってダイトは手を差し出すと、メアリリが即座にその手を取った。


「ダイトくんの横なら任せて」

「横なら任せてって何……」


 と、謎の一言を(こぼ)していたのは余談であろうか。


 旅路の途中、ダイトは今後の予定を何度か話し合っていた。

 それは権力者に身を寄せる事で、情報を多く仕入れることによって、かつての仲間と『魔王』への情報を一度に仕入れてしまおうという計画を立てていた。

 幸いというか、ダイトは非合法とはいえ一度グレイハウンドの領主と面識がある。くわえて、アレクサンダーより一筆したためてもらっている為、正式な訪問の体を取ってもおそらくは門前払いなんてことはないだろう。

 ただ、領主との面会となると一体いかほどの時間が掛かるのか不明瞭だった為、ダイトらはまず宿を探すことから始めた。


 しかし、雨季が空いたかどうかまだ判別が付きづらい日程だったので、生憎と宿は行商人たちで埋まっており、手頃の宿は見つからない。

 けれども、何件か回った後の小休憩として冷やかした小さな商店を営むものが良い宿があると言って、小肥りの店主が大雑把な道順を教えてくれた。

 ダイトらはその言葉を信じて、その道順を辿る。


 

 人が集まる所には、必ずと言っておかしなものも紛れ込む。

 宿場をさがして、治安の悪い北区に移ってすこし道を外れたところに、突如数人の男があらわれ、ダイト達を取り囲んだ。

 路地裏のようなところで、周囲に人影は見受けられない。

 どうやら、宿を紹介してくれた小さな商店は、この男達とそれなり(・・・・)の関係を築いているらしく、小さな商店からついてきていたらしい事を、ダイトらは察知していた。

 気配からして、相手は素人そのもの。しかし、何の自信を持ってか、よもやここまで堂々と人攫いを企てようとするものがいるとは思っておらず、男らの下衆な勘繰りを許してしまう形となった。

 ただひとつ確かなことは、このもの達はエルフである三人を狙っていること。

 男らは、ローブを目深に被ったダイト(みょうちくりん)なのを無視して、そのほか三人のエルフの別嬪(べっぴん)さんを攫う事で、人買いに多額の金をせびろうという見え透いた勘定をその表情に貼り付けている。

 そのみょうちくりんが、自分らの想像を遥かに超える危険物だと知らずに。

 そのエルフ三人が、素人では手に負えない手練れだということを知らずに。


「嬢ちゃん逹、おとなしくしてもらおうか。そうすれば、痛い目見なくて済む」


 男は如何にも三文役者が吐きそうな台詞を吐く。

 美少女なエルフに対して淫らなことが出来る事を期待してか、その表情はどこか下卑たものとなっている。


「痛い目見なくて済むってなんなんですか?」


 こてんと小首を傾げて、メアリリは微笑みながら聞く。

 ダイトの剣に随分と慣れた彼女は、彼らが自分達をどうこう出来る存在だと到底見えない事から、その態度は軽い。

 しかし、男達はメアリリの愛くるしさも相俟(あいま)って、それを無知故の愚行と判断したのか、下卑た笑みをより深いものとした。

 サムタウとストロロは、男たちの三文芝居にただ閉口する他なく、また、どうせダイトが即座に対応するだろうと、高をくくっていた。

 現に、ダイトも一歩進み出て男らを対処せんと身体にちからを漲らせていた。


 ところが、である。


 彼らは結果からすると、ダイトに裁かれることはなかった。

 なぜなら。


「はいはいはい、どいたどいた!ライム様のお通りさー!」


 男達の壁を割って、ひとりの少女が声を挙げてあらわれたからだ。

 少女は身の丈のそぐわない長槍を肩に抱き、一同の前に快活な笑みを浮かべていた。



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