フィフスグラウンド・オンライン9
機体性能を数で補おうと【MAGI】と【KIRIE】の二人は流星の如くにレーザーを掃射するが、影狼に命中する事はなかった。
むしろ、影狼は追いすがる2機と戯れるように、宙を舞いレーザーを躱す。
「くそ!
当たらねぇ!」
「【MAGI】!
ここは一気に加速して、交差させよう!
コンビネーションだ!」
「【KIRIE】!【MAGI】!
引き返せ!」
その間にも【KOM】は二人に制止を促すも、【KIRIE】と【MAGI】の二人は聞かない。
むしろ、撃墜された3人の仇を討とうと躍起になっている様にも見えた。
「俺は右、お前は左から。
合図する」
「任せろ!」
2機は、加速して影狼を左右から挟み込む気らしい。
「よし、今だ!」
【KIRIE】の合図で、加速し、鳥が自らの羽を羽ばたかせる様に曲線を描き始める。
影狼を中心に、鏡合わせのような、見事なまでの飛翔技術。
タイミングと言い、機体を捻りこんでのレーザーの射線を常に影狼に合わせる技量と言い、流石は『スカイコンバット・オンライン』での高ランクプレイヤーであったと言う良い証左となっただろう。
そして、そのまま、左右から挟み込むように、機体を更に捻らせて、影狼にレーザーを放つ。
照準も完璧なまでに影狼に定まっていた筈だ。
レーザーの青白い閃光が影狼目掛けて迸る。
「貰った!」
【KIRIE】が叫ぶ。
まさに必中の距離。
刹那、影狼が一気に機体を翻した。
重力を無視できる、機動ならではの動きであっただろう。
影狼が一瞬前にいたであろう空間に突っ込む2機。
その僅か上空に影狼が2機を見下ろす形となった。
「嘘だろ!」
【MAGI】が呻く。
無理もない。
一瞬の内に機体をその場に留まらせ、更に、機体を傾けながら急上昇すると言う、到底考えられない機動を見せたからだ。
いくらヴューレの操縦が感覚的に為し得る事が可能とは言え、その動きを一瞬にして見せた影狼。
もはや人間業とは思えない動きに、【KIRIE】と【MAGI】は影狼を仰ぎ見る事しか出来ずにいた。
首を捻り、影狼を視界から離さない様に意識する。
一瞬、白く輝く影狼の機体。
そして、驚愕とも、同じ空を飛ぶ者としての矜持と共に、畏敬を込めた瞳が、影狼の姿を捉えた、その瞬間。
「あ――。」
影狼の掃射口が、青白い閃光を3度放った。
最初の閃光は、【KIRIE】の眉間を貫通し、2度目は彼の腹部を、そして3度目の閃光は機体を貫いた。
致命傷だった。
【MAGI】は撃ち抜かれた【KIRIE】の姿を見るや、これから起こるであろう出来事を予知して、素早くスロットルを捻ろうとした。
とにかく奴から距離を取らねばならない。
この時の彼の判断は正しかったが、それを実行に移す時間を影狼は与えなかった。
再び、3度の閃光が迸る。
【KIRIE】と同様に、【MAGI】もまた、身体に2発と、機体に1発のレーザーを貫通させられて、爆砕したのだ。